海外の取引先に1,000ドルの請求書を出して、3週間後に入金がありました。通帳に載った円の額を見て、ふと手が止まります。帳簿には、この売上を何円で付ければいいのでしょうか。
答えは、請求書を出した日、つまり売上を計上する日のレートで円にした額です。入金日のレートとの差は、売上ではなく為替差損益として別に扱います。意外なのは、決算日に未入金の外貨の売掛金が残っていると、お金がまだ入っていなくても、決算日のレートで換算し直す計算が入る場合があることです。
この記事では、2026年10月時点のルールとして、法人を中心に、円換算の基本、決算日の売掛金、消費税の扱い、別の扱いになる場合を整理します。食品に限らず、雑貨、工具、部品、ソフトウェア、デザインなど、外貨で請求するなら商材や業種を問わず使える話です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:売上は「取引日のレート」、入金日との差は為替差損益です
- 外貨建ての売上は、取引を計上する日(取引日)の為替相場で円に換算します
- 原則に使うのは、銀行の「電信売相場」と「電信買相場」の真ん中の値(仲値)です
- 入金額との差は為替差損益です。売上の円の額は、取引日の換算額のままです
- 決算日に外貨建ての売掛金が残ると、届出をしていない法人は、決算日のレートで換算し直します(1年以内に決済される債権の場合)
- 請求書も支払いも円建てなら、この話の出番はありません
根拠は、法人税法61条の8と61条の9、法人税基本通達13の2、消費税の基本通達です。国税庁の通達は、取引日に使うレートの考え方を細かく書いています。
請求書1枚を、仮のレートで追いかける
従業員3人の雑貨メーカー(仮の例)が、海外の取引先に商品を出荷して、1,000ドルの請求書を出したとします。売上を計上する日は出荷した日で、レートはすべて仮の数字です。
- 10月5日:出荷して請求書を発行(1,000ドル)。この日の仲値が1ドル150円なら、売上は150,000円
- 11月5日:入金。銀行がその日のレートで円にして、通帳に148,000円
売上は150,000円のままです。入金額との差、2,000円が為替差損です。もし入金日のレートが152円なら、通帳に152,000円で、2,000円が為替差益になります。
レートの入手元にも決まりがあります。通達では、原則としてその会社の主たる取引金融機関のものを使います。同じ方法で入手した合理的なレートを継続して使っているなら、それも認められています。ほかに、継続して使うことを条件に、次のような方法もあります。
- 売上などの収益や資産は取引日の電信買相場、仕入などの費用や負債は電信売相場を使う
- 月末や前月末のレート、1か月以内の平均相場を使う
大事なのは、毎回違う入手元から気分で拾わないことです。入手元と方法を決めて、続けます。
消費税も、考え方は同じです。国税庁のタックスアンサー(6325番、令和8年4月1日現在法令等)では、外貨建ての売上は、売上を計上した日の仲値で換算した円の額を課税標準とするとされています。為替差損益は、資産の譲渡等の対価の額には当たらず、決済時の差額を消費税の計算で調整する必要はありません。
なお、海外へ売ったときの消費税の免税と、証拠書類の順番は、こちらの記事にあります。
海外に売りたい小さな会社が、販路探しより先に整える免税と証拠書類の順番
決算日に売掛金が残っていたら、決算日のレートで見直します
ここからが、小さな会社が見落としやすいところです。法人は、決算日(事業年度の終わり)に、外貨建ての売掛金、買掛金、外貨預金などを持っていると、円に換算する方法を決める必要があります。方法は主に2つです。
- 発生時換算法:決算日でも、取引日に換算した円の額のままにする方法
- 期末時換算法:決算日のレートで換算し直して、帳簿の額との差額を、その事業年度の益金または損金に入れる方法
仮の例で見てみます。12月決算の会社が、12月25日に1,000ドルを出荷しました。取引日の仲値が150円なら、売上も売掛金も150,000円です。12月31日の決算日になっても、まだ入金されていません。決算日の仲値が155円だったとします。
- 発生時換算法:売掛金は150,000円のまま
- 期末時換算法:売掛金を155,000円に換算し直す。差額の5,000円が為替換算差益になり、その事業年度の益金に入る
お金は1円も入っていないのに、利益が5,000円増える計算です。円安に動けば、外貨の売掛金は円で見ると増えます。円高に動けば、減って損になります。
どちらの方法になるかは、届出で決まります。届出をしなかったときは、政令で決まっている方法になります。
- 決済期限が決算日の翌日から1年以内の外貨建ての債権債務(売掛金や買掛金)と、満期が1年以内の外貨預金:期末時換算法
- それ以外:発生時換算法
つまり、届出を出していない会社の、普通の外貨建て売掛金は、期末時換算法になります。決算日のレートは、事業年度終了の日の仲値が原則です。継続して使うことを条件に、外貨建ての資産は電信買相場、負債は電信売相場にする方法もあります。
発生時換算法にしたいときは、書面の届出が要ります。期限は、外貨建ての資産等を取得した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までです。外国通貨の種類ごと、債権債務や外貨預金などの区分ごとに選びます。一度選んだ方法を変えるには、税務署の承認が必要です。通達では、採用して3年たたないうちの変更は、特別な理由がなければ認められにくい扱いとされています。
どちらが自社に合うかは、決算日に外貨の売掛金が残る頻度と、経理の手間で変わります。決める前に、顧問税理士に聞きます。
例外・注意:こんな場合は別の扱いです
- 請求書がドル表示でも、支払いが円と決まっている取引は、通達では外貨建取引に当たりません。「外貨建て円払い」として、円換算額を見積もります。見積もりと実際の決済額に差が出たら、決済した日の属する事業年度の益金や損金に入れます。契約書で、何の通貨で払うかを確認します
- 先に外貨で前受金を受け取った場合、その部分は、前受金の帳簿価額をもって売上にして、改めて換算し直さないことができます(通達13の2-1-5)
- 為替予約で円の額を確定させている場合は、確定した額で換算できます。ただし、予約した日に、帳簿書類へ決められた事項を書いておく必要があります(法人税法61条の8第2項)
- 個人事業主の円換算の原則は、所得税基本通達57の3-2にあり、取引日の仲値です。継続適用を条件に、収入は買相場、経費は売相場にもできます。ただし、決算日の売掛金の見直しは、法人の規定の話です。個人事業主の年末の扱いは、別に確認が必要です
- 外貨で払う側(海外の広告や、海外の仕入先)の消費税は、こちらの記事にあります
Google広告やAWSの請求書、海外の会社に払う分の消費税はどうなる?
売上の額は変わらなくても、決算日のレートしだいで、その期の利益の額が動くことがあります。外貨で請求する会社は、決算日の数字を、少し早めに見ておくと安心です。
今日からできる最初の一歩
次の4つを、紙に書き出します。
- 1請求書と見積書の通貨と、支払いの通貨(円か外貨か)
- 2換算に使うレートの入手元(取引銀行の公表レートなど)と、その日付の決め方
- 3決算日に外貨建ての売掛金、買掛金、外貨預金が残りそうか
- 4換算方法の届出を出しているか(分からなければ、顧問税理士に確認)
そのうえで、外貨建ての売上は、1行の台帳にしておくと、あとで探せます。
2026年10月5日/相手:サンプル商事 海外担当(仮の例)/1,000ドル/換算レート150円(取引銀行の公表仲値)/売上150,000円/入金日:11月5日/入金額148,000円/差額:マイナス2,000円
営業の場面では、この台帳の「入金日」が使えます。取引先ごとに、請求から入金までの日数が見えてきます。海外の相手に見積書を出すときは、通貨と、見積もりの有効期限を書きます。為替が動いて、円で受け取る額が変わっても、価格を見直すタイミングが決まっているからです。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):国税庁、国税庁(2)、国税庁(3)、国税庁(4)、e-Gov法令検索、e-Gov法令検索(2)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。