取引先から、添付つきのメールが届きました。件名は「SDGs・環境への取り組みに関するアンケートのお願い」。しかも、設問は30問、期限は2週間後です。社長を入れて6人の会社には、環境担当も総務部もありません。全部に「はい」をつけて返すか、わからない欄は空けて返すか。どちらを選んでも、あとで困ります。
最近は、こうした協力要請が増えています。環境省の資料に載っている民間調査では、脱炭素に関する取引先からの協力要請を1年間に受けた中堅・中小企業は、2020年に7.7%、2021年に10.2%、2022年に15.4%でした。要請を受けた企業のうち、同じ取引先から支援も受けたことがある企業は25%(2023年)。つまり、4社に3社は、支援を受けていません。
この記事では、SDGsアンケートの答え方を3つの型にまとめます。取引先の聞き方の強さを見分ける目安、仮の設問6問の答え例、費用を求められたときの確認点も書きました。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:SDGsアンケートの答えは「やっている・始めた・まだ」の3つの型で書く
設問ごとに、次の3つのどれかに分けて答えます。
- やっている:事実と、示せる根拠をセットで書く(例:電気の使用量を、2025年1月分から毎月記録している)
- 始めた:いつから、何を、どこまで、を書く(例:2026年4月から、空調の運転時間を見直している)
- まだ:「未実施」と書き、予定の時期か、「予定なし」かを添える
一方で、避けたいのは、次の2つです。
- 空欄で返す:「考えていない」と受け取られる余地を残します
- 実際にやっていないことに、はいをつける:次の質問で根拠を聞かれたときに、答えられなくなります
「まだ」と書くのは、勇気が要ります。ただ、盛った「はい」は、あとで崩れたときのダメージが大きいのです。小さな会社は、全部やっている必要はありません。つまり、いまの状態を、そのまま、日付つきで書けることが強みになります。
まず、取引先の「聞き方の強さ」を見分ける
環境省の事例集(2025年3月)では、大企業がサプライヤーに求める内容に、強さの段階があると整理されています。
- 1排出量の算定・報告の要請
- 2自主的な排出量削減目標の設定の要請
- 3具体的な排出量削減目標・削減活動の賦課
さらに、これらを取引条件に結びつけるかどうかも、企業によって違います。結びつけを明記しない企業がある一方で、サプライヤー選定の評価項目の1つに使う企業や、守れない場合に取引停止の可能性に触れる企業もあるとされています。
届いたSDGsアンケートで、まず次の2点を確認します。
- 聞かれているのは、現状を知りたい段階か、目標や活動を求める段階か
- また、前文や注意書きに、「評価」「取引の継続」「回答がない場合」といった言葉があるか
特に、聞き方が強いほど、空欄や盛った回答の影響が大きくなります。逆に、現状を知りたい段階なら、「始めた」と「まだ」を正直に書くだけで、十分に答えになることがあります。
SDGsアンケートの仮の例:従業員6人の印刷会社に届いた6問
では、ここからは仮の話です。実在の会社ではありません。従業員6人の印刷会社に、次の6問が届いたとします。なお、設問は取引先ごとに違うので、あくまで例です。
- 設問「環境やSDGsに関する方針はありますか」。答え(まだ):「文書化した方針はまだありません。2026年4月から、電気の使用量を毎月記録しています。方針の文書化は、2027年3月までに行う予定です」
- 設問「エネルギーの使用量を把握していますか」。答え(やっている):「事務所と作業場の電気の使用量を、2025年1月分から毎月記録しています。月別の推移表を添付します」
- 設問「CO2排出量を算定していますか」。答え(始めた):「日本商工会議所の無料のチェックシートで、直近12か月分の電気の使用量から算定しました。仕入れ先や配送など、先方が求める範囲が違う場合は、ご指定の方法をお知らせください」
後半の3問:目標、人権、仕入れ先
- 設問「削減目標はありますか」。答え(まだ):「数値目標は設定していません。1年分の記録がそろったあと、2027年度に目標を検討します」
- 設問「労働環境や人権について、取り組みはありますか」。答え(始めた):「労働条件は、入社時に書面でお渡ししています。ハラスメントの相談窓口は、社長が担当しています。社内規程の文書化は、これからです」
- 設問「自社の仕入れ先にも、取り組みを求めていますか」。答え(まだ):「現時点では求めていません。主要な仕入れ先2社に、現状をうかがうところから始める予定です」
実は、6問のうち「やっている」は1問だけです。それでも、空欄はゼロで、どの答えにも日付か予定が入っています。
ただし、答えの中に「予定」を書くなら、実際に動ける約束にします。書いた以上、次のSDGsアンケートで「どうなりましたか」と聞かれる可能性があります。書き方の注意は、こちらの記事でも扱っています。
「環境にやさしい」と書く前に。SDGsウォッシュと景品表示法の、ゆるくて怖い関係
SDGsアンケートの回答は、「台帳」を1枚つくると次が楽になる
実は、SDGsアンケートは、1社で終わりません。取引先が増えるほど、似た設問に何度も答えることになります。さらに、回答のたびにゼロから考えると、取引先ごとに答えがずれていきます。
そこで、回答の台帳を1枚つくります。スプレッドシートで十分です。
- 設問の文言
- 答え(3つの型のどれか、日付つき)
- 根拠のファイルの場所(電気の検針票、推移表など)
- 回答した日と、取引先
- 次に見直す時期
たとえば、根拠の材料として、日本商工会議所の「CO2チェックシート」が使えます。無料のExcelで、毎月の電気などの使用量と料金を入れると、CO2排出量がグラフになります。なお、2026年5月に2026年度版が公開されています。商工会議所の会員でも会員でなくても、無料で使えると、ご利用ガイドに書かれています。
ただし、このシートで見えるのは、自社が使う電気などの分です。また、取引先が別の算定方法や様式を指定している場合は、先方の指定を優先します。
ただし:費用や協力を求められたら、答える前に確認する
SDGsアンケートに、費用の負担や追加の協力の依頼が付いてくることがあります。公正取引委員会の「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(2023年3月策定、2024年4月改定)の概要版には、次の整理があります。
- 温室効果ガスの削減を目的に、取引先へ協力を求めること自体は、直ちに問題になるわけではない
- 一方、取引上の優位な立場を使って、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えれば、問題になる
- 問題となる例:削減のための費用を徴収するのに、算出根拠や使い道が不明確で、負担額が予測できない
- また、問題となる例:仕様変更で追加のコストが出るのに、協議せず従来の価格を据え置く
- 問題とならない例:負担額や使い道を事前に説明し、取引先が自分の判断で応じる協賛金
- さらに、問題とならない例:追加のコストを踏まえて、協議のうえで対価を決める
一方で、同じ資料には、削減目標を達成しない取引先との取引を、事業者が独自の判断で合理的な範囲で打ち切ることは、問題とならない例として挙げられています。つまり、「答えなくても大丈夫」とは言えません。
そのため、費用や追加の作業を求められたら、答える前に、次の4点を確認します。
- 1費用の根拠と使い道が、書面に書かれているか
- 2応じるかどうかを、自分で決められる形か
- 3追加の作業が出る場合、対価の話し合いがあるか
- 4不明な点を、メールで質問して、記録を残したか
この4点で引っかかる場合や、金額が大きい場合は、返事を急がず、弁護士などの専門家に相談します。
今日からできる最初の一歩
2026年10月時点で、準備は今日から始められます。そのため、3つだけ、やってみてください。
- 1届いているアンケート(過去のものでも可)を開いて、設問に「やっている・始めた・まだ」の1・2・3を振る
- 2「まだ」の設問から、半年以内にできることを1つだけ選ぶ
- 3日本商工会議所の無料のCO2チェックシートを、ダウンロードする
取引先がSDGsアンケートで聞いているのは、来年もこの会社と取引してよいか、という材料です。つまり、回答は、営業資料の一部と考えられます。そして、台帳があれば、次の会社から調査票が届いても、短い時間で返せます。このように、返信が速くて根拠がある会社は、取引先の担当者にとって頼みやすい相手になります。
個別の契約や費用負担の判断は、弁護士などの専門家にご相談ください。
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情報サイトのトップ:ENERGY BANK(系統用蓄電池の情報サイト)
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):環境省、公正取引委員会、公正取引委員会(2)、公正取引委員会(3)、日本商工会議所、日本商工会議所(2)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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