商品を100万円分仕入れた。「100万円使ったから、100万円が経費でしょ?」。実は、仕入れたお金が、そのまま経費になるわけではありません。商品を扱う会社が、最初にぶつかる壁です。
先に結論:経費になるのは「売れた分の原価」
- その期に売れた分の仕入れ代が、売上原価(経費)になります。
- 期末に売れ残った商品(在庫)は、経費ではなく、資産(棚卸資産)として、次の期に繰り越します。
- 計算式は、売上原価 = 期首の在庫 + 仕入れ - 期末の在庫です。
数字で見る:お米を仕入れた場合
お米を1,000円×100袋、合計10万円で仕入れました。期末までに60袋が売れて、40袋が残りました。
- 売れた60袋の原価 = 1,000円 × 60 = 6万円(経費)
- 残った40袋 = 1,000円 × 40 = 4万円(在庫=資産)
つまり、仕入れに10万円使っても、この期の経費になるのは6万円です。残りの4万円は、来期に売れたときに、経費になります。
「売れ残ったから、値下げした/捨てた」はどうなる?
在庫が売れ残って、価値が下がったとき。気持ちとしては「損したから、経費にしたい」ですよね。ところが、在庫の評価損(価値が下がった分を、帳簿上で減らすこと)は、認められる場面が限られています。「売れなさそうだから」だけでは、原則として難しいのが一般的です。
一方で、実際に廃棄した場合は、廃棄した事実があれば、その損失を経費にできます。ただし、「捨てた」と言うだけでは足りません。
- 廃棄した日付と数量
- 廃棄前の写真
- どの方法で処分したか(業者・自社など)
- 「捨てました」という口頭の説明だけ
- 在庫の数が、帳簿と実際で合っていない
- 廃棄したのか、持ち帰ったのかが不明
- 1期末に、実際の在庫の数を数える(棚卸)
- 2数量 × 仕入れ単価で、在庫の金額を出す
- 3売れ残りで処分したものは、日付・数量・写真を残す
- 4帳簿の数字と、実際の数を照らし合わせる
在庫から、社長が自宅用に持ち出した分は、「会社の売り物を使った」ことになります。農産・水産フロアの記事(売り物を家で食べたら?)も、あわせて読んでみてください。会社の商品を社長が家で使うときの話は、自家消費の記事にあります。
期末の「棚卸し」を、実際にやってみる
- 1決算日(または直前)に、売り場と倉庫の商品を数える
- 2品目ごとに「数量」と「仕入れの単価」をメモする
- 3数量×単価で、期末在庫の金額を出す
- 4「期首在庫+当期の仕入れ−期末在庫」で、経費にする額(売上原価)を確認する
式に数字を入れてみましょう。前の期から4万円の在庫を引き継ぎ、今期は20万円を仕入れ、期末に5万円の在庫が残ったとします。
4万円+20万円−5万円=19万円。これが、今期の経費になる売上原価です。仕入れが20万円でも、経費は19万円。残りの5万円は、来期に持ち越す「在庫」です。
在庫の「値段のつけ方」にも種類がある
同じ商品を、100円と110円の2回に分けて仕入れた場合、残った在庫をどちらの単価で数えるかで金額が変わります。評価の方法にはいくつかありますが、届出をしていなければ「最終仕入原価法」(最後に仕入れた単価で数える方法)になるのが一般的です。この例なら、残った在庫はすべて110円で計算します。
方法を変えたいときは、税務署での手続きが必要です。小さな会社では、一度決めたら毎年同じ方法で続けるのが基本です。
数えにくいもの:梱包資材など
ダンボールや袋などの梱包材は、毎年だいたい同じ量を買って使い切るなら、買ったときに経費にして、期末に数えない処理が認められる取り扱いがあります(毎年同じ方法で続けていることが前提です)。ただし、期末に大量に残っているときや、1年分以上をまとめ買いしたときは、別に考える必要があります。
よくある質問
Q. 在庫が少しだけなら、数えなくていい?
A. 決算日に在庫があるなら、金額が小さくても数えて記録しておきましょう。「数えた記録がある」こと自体が、あとで説明するときの強みになります。
Q. 賞味期限が切れて、捨てた分は?
A. 廃棄の日付・数量・理由を書き、できれば写真も残しておくと、損失として説明しやすくなります。
在庫は「何か月分」持っているか、1つの数字で見る
在庫が多すぎるか少なすぎるかは、在庫月数というざっくりした目安で見られます。
- 在庫月数 = 在庫の金額 ÷ 1か月の売上原価
- 例:在庫が40万円、1か月に売れる分の原価が20万円なら、40万 ÷ 20万 = 2か月分
- 例:同じ在庫40万円で、月の売上原価が5万円なら、8か月分。売れ行きの割に、持ちすぎかもしれません
何か月分が正解、という決まりはありません(商品の種類や、仕入れの最小ロットによって変わります)。大切なのは、お金が在庫に変わって、しばらく戻ってこないことに気づくことです。在庫は資産ですが、現金ではないので、支払いには使えません。
棚卸しは、決算のときだけでなくてもいい
税金の計算のための棚卸しは、決算期末に行うのが基本です。ただ、月末や四半期末に、売れ筋の数だけでも数えておくと、帳簿とのズレに早く気づけます。数が合わない原因は、たいてい「持ち出し」「破損」「記録漏れ」のどれかです。小さな会社なら、数える作業は10分で終わる量のはず。月末のルーティンにしてみてください。
在庫を見直す、年に1回の習慣
決算の前に、倉庫や棚の在庫を一度すべて数えましょう。数え直すと、「帳簿上はあるのに実物がない」「動かないまま古くなっている商品」が見つかることがあります。
- 売れ残りで価値が下がった物は、評価損を検討する
- 壊れた物、廃棄する物は、廃棄の記録(写真つき)を残す
- 来期の仕入れ量を、動きの速さで見直す
仕入れすぎは、現金を寝かせます
在庫は、お金が商品に姿を変えて棚に眠っている状態です。節税のために買い込むと、手元の現金が減って、資金繰りが苦しくなることもあります。「売れる量だけ仕入れる」が、結局いちばん強い経営です。パソコンなどの買い物の扱いは、少額減価償却資産の記事で整理しています。
まとめ:在庫は「数える」ことから始まる
在庫のルールの基本は、「売れた分だけが経費、残りは資産」。期末に実際の数を数えて、記録を残す。この地味な作業が、経費の正しさを支えます。細かい扱いは、決算のときに顧問の税理士さんと確認しましょう。
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士などの専門家にご相談ください。