お米や茶葉を扱う会社の社長なら、一度は思ったことがあるはずです。「この余った新米、家で食べちゃおうかな」。
誰も困らないし、むしろもったいないし、と思いがちですが、税務の世界では、会社の物を社長が個人で使うと「役員への経済的利益」として扱われます。つまり、給与の仲間です。今日は、この「ちょっとした持ち帰り」の話をします。
先に結論:会社の売り物を社長が使うと、給与の扱いになる
- 会社の商品を社長が自宅で消費すると、原則として役員が受けた経済的利益になります。
- 役員の給与は、毎月同じ額の「定期同額給与」などでないと、会社の経費として認められないのが基本です。
- だから、持ち帰ったお米の分だけ、会社の損金にならない可能性があります。
お米1袋の金額は、たいしたことがありません。現実の問題になるかどうかは、別の話です。ただ、ルール上は給与扱いだということを知っておくだけで、整理の仕方が変わります。
いちばんスッキリする方法:「買う」
難しいことはありません。社長が、会社から商品を「ふつうに買う」形にすればいいのです。
- 1持ち帰る前に、社長が会社へ代金を払う
- 2価格は、一般のお客さんに売る価格に近い額にする
- 3売上として帳簿に残す(レジや請求書でOK)
- 4領収書の控えを、社長の個人ファイルに入れておく
代金を払った時点で、これは「売買」です。給与の話は消えます。社長が会社にお金を払うのは、ちょっと照れくさいですが、帳簿がいちばんきれいになります。
「試食」「サンプル」は別の話
社長が家で食べる、ではなく、商品の味を確かめる、お客さんに配る、取材の人に渡すのは、事業のための支出です。これは、サンプル費や広告宣伝費、見本品費などで処理できます。
- 新商品の味見・品質確認
- お客さんや取引先への試供品
- 撮影・取材用の見本
- 社長の自宅の食卓用
- 家族や友人へのお土産
- 社長が好きで毎月持ち帰る
大事なのは、誰が、何のために使ったかを、あとから説明できること。「試食用に1袋開封」と、メモ1行あるだけで、ずいぶん違います。
在庫の数が合わない、が一番の敵
商品を扱う会社は、在庫の記録が命です。持ち帰ったお米が、帳簿のどこにも出てこないと、棚卸しのときに数字が合いません。税務調査の人が、そこを見ます。仕入れた商品が売れ残ったときの扱いは、売れ残り在庫のルールの記事で解説しています。
- 持ち出した分は、必ず帳簿に記録する(売った・サンプル・廃棄のどれか)。
- 記録できないものは、持ち出さない。
- 個人用は「買う」。
社員が会社の物を使った場合も、原則として経済的利益(給与)の扱いです。ただし、福利厚生として認められる範囲や、少額の場合の考え方は、物や金額によって変わります。迷ったら、税理士さんに一度確認を。
ケースで考える:こんな持ち帰りは、どうなる?
- 新米10kgを、自宅で食べる:1kg800円で売っているなら、8,000円を社長が会社に払い、売上として残します。いちばんシンプルです。
- 割れ米や規格外のお米を、持ち帰る:「どうせ売れないし」と思いがちですが、売れない理由と数量を記録したうえで、お客さんに売るときと同じ基準で買うほうが、説明しやすくなります。
- 家族や友人にお裾分けする:個人的なお裾分けは、社長が自分のお金で買うのが基本です。取引先へのお土産なら、別に交際費で処理できます。
「従業員への社内販売」は、少しだけ別ルール
従業員に商品を安く売る「社内販売」には、「仕入れ値以上で、通常の販売価格のおおむね7割以上」なら給与にならない、という目安があるといわれます。一方で、社長(役員)に同じ目安が使えるとは限りません。迷う場合は、一般のお客さんと同じ価格にしておけば、あとから説明に困りません。
月末の精算メモ、こんな形でOK
難しい帳簿は要りません。月末に1枚のメモを残しておけば、あとから説明できます。
ポイントは、日付・商品・数量・金額・支払い方法の5つ。その月のうちに精算して、翌月に持ち越さないようにすると、帳簿がすっきり整います。
買うときの値段は、いくらにする?
社長が会社から「買う」とき、値段を安くしすぎると、安くした分が「給与」とみなされるおそれがあります。目安は、他のお客さんに売っている値段(またはそれに近い値段)で買うことです。たとえば、店頭価格が5kgで2,500円のお米を、仕入れ値の1,800円で買うと、差額の700円分は「給与では」と見られる可能性があります。迷うときは、顧問の税理士さんに「社長への販売価格は、どう決めればいいか」を聞いてみてください。
実家や友人への「贈り物」も、同じ考え方
会社の売り物を、実家や友人に送りたくなることもあります。個人的な贈り物は、会社の経費にはなりにくいのが基本です。いちばん安全なのは、社長が自分のお金で(会社から買い取って)贈ること。会社の帳簿では、他のお客さんへの販売と同じ「売上」として記録されます。
もうひとつ。社長だけが自由に持ち出せる状態だと、スタッフから「社長だけいいな」と思われがちです。持ち出しのルールを全員共通にしておくと、社内の空気もスッキリします。
記録を残す、3つのポイント
- 持ち帰った日付と、商品名・数量
- 仕入れ値ベースの金額か、販売価格ベースの金額か
- 役員報酬として扱うのか、社内の福利厚生として扱うのか
この3つを毎回メモしておくと、あとから税理士さんに説明するときに、話が早くなります。
「たまたま少し」と「毎回たくさん」は別物です
たまに少量を持ち帰る程度と、毎週のように大量に持ち帰る場合では、扱いが変わります。頻度と量が増えるほど、きちんとした処理が必要になると覚えておきましょう。
まとめ:持ち帰りは「買う」で解決
お米1袋の話ですが、小さな会社ほど、この「個人と会社の線引き」が積み重なって大きな差になります。社長が自分の会社から買うのは、決して恥ずかしいことではなく、きれいな会計の第一歩です。
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士などの専門家にご相談ください。