11月の朝、事務所に入ると、窓ぎわの席の社員がひざ掛けを2枚重ねています。社長がエアコンのリモコンを見ると、設定は22℃。「省エネで20℃って聞いたから、これでも高いくらいだと思っていたんだけど」。社員は小さな声で言います。「この席、たぶん16℃くらいです」
ここで混ざりやすいのが、二つの数字です。一つは、環境省のウォームビズが呼びかけている「室温20℃(目安)」。もう一つは、事務所衛生基準規則という厚生労働省の省令に書かれている「18℃以上28℃以下」。前者は省エネの呼びかけで、後者は働く人の衛生のための基準です。しかも、どちらもリモコンの設定温度ではなく、部屋の温度の話です。
事務所の暖房について、この記事では、法律が求めていること、ウォームビズの20℃との関係、温湿度計で測って直す手順を整理します。2026年10月時点の法令と、国の公表資料をもとにしています。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
事務所の暖房:法律は18℃から、20℃は省エネの目安
事務所衛生基準規則で、温度に関係する決まりは次のとおりです(e-Gov法令検索で確認)。
- 第4条:室の気温が10℃以下の場合は、暖房するなど適当な温度調節の措置を講じなければならない(義務)
- 第5条第3項:空気調和設備を設けている場合は、室の気温が18℃以上28℃以下、相対湿度が40%以上70%以下になるように努めなければならない(努力義務)
- 第5条第2項:空調の風が特定の人に直接、継続して当たらないようにし、室の気流を毎秒0.5メートル以下にしなければならない
つまり、10℃以下は「暖房しなければならない」、空調がある事務所は「18℃から28℃に収まるよう努める」という二段構えです。
一方のウォームビズは、環境省が平成17年度から冬の地球温暖化対策として呼びかけている取組で、過剰な暖房を抑えて、室温20℃(目安)でも快適に過ごすライフスタイルとされています。環境省のページでは、暖房をつけずに済むならそれが最も望ましく、ウォームビズは暖房の適切な使用を呼びかけるものだ、という趣旨も書かれています。
並べると、こうなります。18℃は「これを下回らないように努める」線で、20℃は「暖めすぎないための目安」です。つまり、窓ぎわが16℃なら、空調のある事務所では、省エネ以前に法律の努力目標を下回っている状態です。
事務所の暖房の下限、17℃から18℃へ(2022年に変わった)
この18℃という数字は、実は新しめです。事務所衛生基準規則は令和4年3月1日に改正され、同年4月1日から、空調がある事務所の気温の努力目標の下限が17℃から18℃に引き上げられました。
厚生労働省の資料では、理由として次の2点が挙げられています。
- 世界保健機関が、冬の高齢者の血圧上昇などを考えて、室内温度の低い側の基準として18℃以上を勧告したこと
- 建築物衛生法施行令の改正(2022年4月1日施行)と、そろえること
なお、古いマニュアルやネットの記事に「17℃以上」と書いてあれば、それは改正前の数字です。社内の掲示物を作るときは、18℃に直しておきます。
仮の5人事務所で、室温を測って直す手順
たとえば、従業員5人、エアコン2台の事務所があるとします(仮の例)。まず、リモコンの設定温度は、あくまでエアコンが目指す温度です。また、吹き出し口から遠い席、窓ぎわ、出入口の近くは、それより低くなることがあります。事務所の暖房は、感覚ではなく数字で決めるのが近道です。そこで、測ってから決めます。
- 1温湿度計を2〜3個用意して、窓ぎわ、部屋の真ん中、出入口の近くの机の高さに置く
- 2朝の始業30分後と、午後3時ごろに、温度と湿度をメモする(1週間)
- 3いちばん低い場所が18℃を下回る日があれば、設定温度より先に、風向きとすきま風を見直す
- 4それでも足りなければ、設定温度を1℃ずつ上げて、また測る
- 5湿度が40%を下回る日が多ければ、加湿を考える
1週間のメモの例
仮に、1週間のメモがこうだったとします。
- 窓ぎわ:朝16℃、午後19℃、湿度35%
- 真ん中:朝19℃、午後21℃、湿度38%
- 出入口:朝17℃、午後19℃、湿度36%
つまり、この事務所は、朝の窓ぎわと出入口が18℃を下回っていて、湿度も全体に低めです。始業前にタイマーで暖房を入れる、窓に厚手のカーテンをつける、加湿器を1台置く、といった手が考えられます。一方、真ん中の席が21℃なら、設定温度をむやみに上げると、今度は真ん中が暑くなります。
環境省の温湿度計による「見える化」の考え方は、まさにこれです。感覚で「寒い」「暑い」と言い合うより、紙1枚のメモのほうが、社内の話し合いが早く終わります。
ただし:20℃にこだわりすぎない、暖めすぎない
例外というより、気をつけたい点が3つあります。
1つ目は、20℃の扱いです。ウォームビズの20℃は、あくまで目安です。設定温度を20℃に固定した結果、窓ぎわが16℃になっているなら、それは目安の使い方が逆です。環境省のページでは、政府の取組として、暖房中の室温を19℃を目途に過度にならないよう適切に調整に努める、という基準も紹介されています。どれも「部屋の温度」の話だと覚えておくと、迷いにくくなります。
空調の風の当たり方
2つ目は、空調の風です。暖かい風が一人の顔に当たり続けると、その人は暑く、ほかの人は寒い、という席ごとの差が出ます。前に書いたとおり、規則では風が特定の人に直接、継続して当たらないようにすることも求めています。ルーバーの向きを変えるだけで解決することもあります。
3つ目は、暖房を控える工夫と、我慢を取り違えないことです。ウォームビズのページで勧められているのは、首・手首・足首を温める服装、湿度を意識すること、窓やドアから暖かい空気が逃げない工夫、扇風機で空気を循環させること、などです。「社長の方針で20℃」と、ひざ掛け2枚で耐えてもらうのは、目指している姿とは違います。
事務所の暖房を1℃下げたときの省エネ
ちなみに、資源エネルギー庁の家庭向けの試算では、エアコンの暖房の設定を21℃から20℃にすると、外気温6℃で1日9時間使った場合に、年間で電気53.08キロワット時の省エネになるとされています。家庭向けの数字なので事務所にそのまま当てはまるわけではありませんが、1℃の差が積み上がることは分かります。事務所の暖房の省エネは、測ったうえで、暖めすぎている場所から削るのが順番です。
事務所の暖房、今日からの一歩:温湿度計を1個、窓ぎわに
まずは温湿度計を1個買って、いちばん寒そうな席に置いてみてください。さらに、数字が出ると、「寒い」と言い出せなかった社員も話しやすくなります。年末にかけての事務所の見直しは、こちらのチェックリストも参考になります。
10月に見直したい、小さな会社の5つのチェック(2026年版)
数字を見てから手を打つのは、営業の振り返りでも同じです。「最近、反応が悪い気がする」より、「先週の訪問は8件、返事が来たのは2件」のほうが、次の一手を決めやすくなります(仮の数字)。寒い席を数字で見つける練習は、売上の寒い場所を見つける練習にもなります。
なお、SDGsコーナー全体の歩き方は、こちらにまとめています。
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運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):e-Gov法令検索、厚生労働省、東京労働局、環境省、経済産業省
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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