取引先の担当者から、メールが届きました。「御社のSDGsの取り組みを、教えていただけますか」。
返信の下書きを開いたまま、もう3日がたちます。社長を入れて4人の会社で、SDGsと言われても何から話せばいいのか。小さな会社の社長が、検索窓の前で止まる場面のひとつです。
ただ、意外なのは、聞かれている中身です。環境省の指針のページには、大企業が自社の排出量を算定する流れの中で、取引先などの関連企業にも排出状況や取組状況を求めるケースが増えている、と書かれています。つまり、答えの材料は、立派な理念よりも、記録と数字になりそうです。この記事では、従業員4人の会社を仮の例に、SDGsに取り組むと半年で何が変わるのかを順番に見ます。変わらないことと、今日の最初の一歩も書きました。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
SDGsの取り組みで変わるのは「聞かれたときの答え」と「ムダの見え方」
SDGsは、2015年9月の国連サミットで全会一致で採択された、2030年までの国際目標です。具体的には、17のゴールと169のターゲットで成り立っています(外務省)。大きな話に聞こえますが、小さな会社が全部に取り組む必要はありません。まず、事業に近いものを1つ選び、記録をつけて続けます。
SDGsの取り組みで小さな会社に起きやすい変化は、次の4つです。
- 取引先に聞かれたとき、資料を出して答えられる
- また、電気代などのムダが、数字で見える
- さらに、発信できる材料が、事実として増える
- そして、社内の会話が、少し具体的になる
ただし「取り組めば売上が増える」とは、ここでは言いません。つまり、変化は、あくまで準備ができる、というところまでです。準備ができた会社は、聞かれたときに慌てません。それだけでも、商談の空気は少し変わります。
SDGsの取り組みの仮の例:従業員4人の内装会社の半年
では、ここからは仮の話です。実在の会社ではありません。従業員4人の内装工事の会社が、取引先から「SDGsの取り組みを教えてください」と聞かれた、という設定です。ここでは、この内装会社と呼びます。
- 1か月目は、取引先のサイトで、SDGsや環境についての方針を読みます。すると、何を聞かれているのかが、だいぶ見えてきます。
- 2か月目は、取り組みを1つだけ選びます。この会社は電気にしました。事務所と作業場の電気の使用量を、毎月記録するだけです。目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や、目標13「気候変動に具体的な対策を」に近いテーマです。
- 3か月目は、日本商工会議所の「CO2チェックシート」を使います。無料のExcelで、月ごとの電気の使用量と料金を入れると、二酸化炭素の排出量が自動で計算され、グラフになります。また、電気のほか、ガスなども入れられます。しかも、商工会議所の会員でなくても使えます。
4か月目から6か月目:数字を見て、見直す
- 4か月目は、過去12か月分を入れてみると、8月だけ飛び出していました。仮に、ほかの月は1,000キロワット時前後で、8月は1,500キロワット時だったとします。そこで、理由を探すと、作業場の空調を夜も止めていませんでした。
- 5か月目は、空調の運転時間と設定温度を見直し、フィルターを掃除します。効果は、来年の同じ月と比べて確かめます。つまり、この時点でこの会社が持っているのは、やったことと、比べる基準です。
- 6か月目は、取引先への返信を、紙1枚にまとめて送ります。書くのは、何を、いつから、どの範囲で、いまの数字は何か。この4点だけです。
電気を選んだ理由と、返信の文面
電気を選んだ理由は、単純です。つまり、請求書が毎月勝手に届くので、記録の手間がほとんどありません。SDGsの取り組みは、立派さよりも、続けやすさで選びます。半年続ければ、それだけで人に話せる実績になります。
返信の文面は、たとえば次のようになります。数字は仮のものです。
「お問い合わせありがとうございます。当社は2026年4月から、事務所と作業場の電気の使用量を毎月記録しています。月ごとの推移をまとめた資料を添付します。現在は、空調の運転時間の見直しを進めています。貴社の指定の様式がございましたら、お知らせください」
数字が小さくても、答えの土台になる
もし来年の8月が1,500キロワット時から1,350キロワット時に下がったら、差は150キロワット時です。1キロワット時を30円と仮定すると、4,500円。小さな数字です。ただ、電気代が下がった理由を説明できる会社に変わっています。数字の大きさよりも、いつから、どの範囲で、と言えることが、答えの土台になります。
また、文面は、盛らないのがコツです。「環境にやさしい会社です」とは書きません。書き方の注意は、こちらの記事に整理しています。
「環境にやさしい」と書く前に。SDGsウォッシュと景品表示法の、ゆるくて怖い関係
SDGsの取り組みで、半年で変わること
では、この内装会社に起きた変化を、5つに分けます。
取引先への答えが、変わります。たとえば、返信に資料を添えられるので、「検討します」で止まりません。ただし、先方に指定の様式や算定方法があれば、そちらを優先します。
電気代の見え方が、変わります。つまり、毎月届く請求書が、読むための数字になります。チェックシートには、照明を省エネ型に替えた場合の削減効果を試すシミュレーションもついています。
発信の材料が、変わります。たとえば、日本商工会議所には「地球温暖化対策行動宣言」があります。18項目の取り組み課題を宣言すると、商工会議所のサイトで宣言内容が公表され、自社のサイトからリンクもできます。ただし、宣言は、自社の約束を公表する仕組みです。書くのは、実際にやっていることだけにします。
社内の会話が、変わります。4人の会社では「誰が最後に空調を切るか」が、ようやく議題になります。
さらに、お客様への提案にも、使えます。たとえば内装の見積もりに、照明を替えた場合の電気代の目安を一行添えます。数字を自分で記録している会社は、この一行を書きやすくなります。目安の根拠は、残しておきます。
変わらないこと、気をつけること
ここが、検索してきた方にいちばん役立つ部分です。
- 売上や受注が増える保証はありません。変わるのは、聞かれたときの準備です
- また、取引先ごとに、聞かれる内容は違います。先方の様式があれば、それに合わせます
- チェックシートの対象は、自社の使うエネルギーです。仕入れ先や配送など、会社の外側の排出量(スコープ3と呼ばれます)には対応していません。そこまで求められたら、取引先や専門の会社に相談します
- 最初のグラフは、たいてい少し恥ずかしい形をしています。それでいいのです。つまり、比べる基準ができた、ということです
- 17のゴールを全部並べない。1つ選んで、続けます
- 「世界を変える」と書かない。「電気の使用量を毎月記録しています」と書きます
なお、盛った書き方がなぜ危ないのかは、こちらの記事で扱っています。
「環境にやさしい」と書く前に。営業文面を守る3つの確認【保存版】
この例のように小さく始めるときの全体の流れを、環境省のガイドをもとに5つの手順で整理した記事として、「会社がSDGsに取り組む最初の手順」があります。担当者を決める、事業を棚卸ししてSDGsのゴールと紐づける、目的を決めて数を絞る、記録して評価し外へ伝える、という順番で、発信するときのロゴと言葉づかいの注意点にも触れています。
今日からできる最初の一歩
2026年10月時点で、チェックシートは無料で使えます。そのため、3つだけ、やってみてください。
- 1電気の検針票か請求書を、スマホで1枚撮る
- 2取引先のサイトで、SDGsや環境の方針のページを探し、聞かれそうな項目を3つメモする
- 3日本商工会議所の無料のチェックシートをダウンロードする
また、返信用の紙1枚は、次の商談でそのまま渡せる資料にもなります。「取り組みを聞かせてください」と言われたとき、手元の1枚を差し出せる会社は、話が早く進みます。つまり、営業の場で強いのは、立派な言葉より、すぐ出せる紙のほうです。
表示の書き方など個別の判断は、弁護士などの専門家にご相談ください。
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運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):環境省、日本商工会議所、日本商工会議所(2)、日本商工会議所(3)、官公庁
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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