個人の営業パートナーに「お願いします」とだけ伝えて、数か月後に「そんな話でしたっけ」となります。
原因は、金額の交渉が足りなかったことではありません。何をもって成果とするかが、文字になっていなかったことです。
この記事では、金額には触れず、項目だけで作れる条件の書き方をお渡しします。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
口約束で起きる、3つの「そんな話でしたっけ」
個人の営業パートナーとの揉めごとは、だいたい次の3つに分かれます。
- 「紹介した」と言う側と、「紹介されていない」と言う側がいる(何をもって紹介か)
- 契約が決まったのに、報酬を払う時期で食い違う(いつ発生し、いつ払うか)
- 途中でお客さんがキャンセルした場合の扱いを、誰も決めていない
私は副業の営業マンを約300人集めて、実際に動いたのは約10人という経験があります。動かなかった方を責める前に、頼む側の条件が文字になっていたかを点検する価値があると考えています。この経験から、人数よりも条件の明確さを優先しています。
条件は、長い契約書でなくても構いません。A4で1枚、項目に分けて書けば足ります。以下、その項目を順番に説明します。
最初の一歩は、条件を文字で残すこと
個人に仕事を頼むときに、条件を文字で残すことは、フリーランス法の最初の一歩でもあります。令和の総合商社に、その入り口を解説した記事があります。
個人に仕事を頼むときの、条件を文字で残す理由は、こちらの記事にあります。
個人に仕事を頼むとき、「条件」をメールで書いていますか?フリーランス法の最初の一歩
厚生労働省の資料では、フリーランスを「業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないもの」としています。そして、発注する側が書面などで明示する項目として、次が挙げられています。
- 業務の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 発注事業者とフリーランスの名称
- 業務委託をした日
- 給付を受ける日(役務の提供を受ける日)と場所
- 検査をする場合は、検査の完了日
- 現金以外の方法で支払う場合は、支払方法に関する事項
また、報酬の支払期日については、公正取引委員会の資料に「原則として受領日から60日以内のできる限り短い期間内」とあります。
営業の仕事は、物を受け取るというより、紹介や商談といった役務の提供です。ですから「業務の内容」と「報酬の額」の欄に、何を書くかが肝心になります。次の項で、その書き方を説明します。
営業パートナーへの委託が、フリーランス法の対象になるかどうかは、取引の内容によって変わります。個別の判断は税理士・社会保険労務士など専門家へご相談ください。
「何をしたら成果か」を、5段階から1つ選んで書く
営業の成果は、5つの段階に分けられます。どの段階で成果とするかを、1つ選んで書いてください。
- 1紹介:見込み客を、メールや同席でつないだ
- 2商談設定:見込み客と、商談の日程が決まった
- 3見積の提出:見積書を出した
- 4契約の成立:契約書や注文書がそろった
- 5入金:代金が入った
段階が後ろになるほど、パートナーの負担は重く、発注側のリスクは軽くなります。逆に、前の段階にするほど、パートナーは動きやすい一方、発注側の負担は重くなります。どちらが正しいというより、自社の商材と、パートナーに期待する役割に合わせて決める話です。
言い回し例:「本契約における成果は、紹介先との間で契約が成立し、入金を確認できた時点とします。」
「紹介だけで報酬を払います」とするなら、「紹介」の中身も定義します。
言い回し例:「紹介とは、見込み客の担当者を、メールで弊社に引き合わせた場合をいいます。名刺交換のみ、お名前を伺っただけの場合は含みません。」
ここまで書くと、「そんな話でしたっけ」は減らせます。

金額を書く前に決める、7つの項目
報酬の金額を書く前に、金額の周りの条件を項目で決めておきます。
- 報酬が発生する条件(先ほど選んだ成果の段階)
- 報酬の算定の基準(何に対して、どう計算するか)
- 対象期間(いつからいつまでの紹介が対象か)
- 締め日と支払日
- お客さんが途中でキャンセルした場合の扱い
- 同じお客さんを、複数の人が紹介した場合の優先ルール
- 契約を終わらせるときの手続き
金額はこの7つが決まった後で入れます。順番を逆にすると、金額の話が先に走って、条件が曖昧なまま進みやすくなります。
書き終えたら、送る前に声に出して読んでください。自分が相手の立場でも、同じ意味に読めるかを確かめます。同じ文章を2人が読んで違う意味になるなら、そこが次の揉めごとの種です。家族や社内の誰かに読んでもらい、「紹介」「成果」「発生」の言葉をどう受け取るか聞いてみるのも有効です。
個人に払う報酬は、源泉徴収の確認を忘れない
個人に報酬を払うとき、種類によっては源泉徴収が必要になります。国税庁の説明では、個人(居住者)に支払う報酬のうち、原稿料や講演料、弁護士などへの報酬のほか、モデルや外交員などへの報酬も対象に挙げられています。一方、法人に支払う場合、対象になるのは馬主である法人に支払う競馬の賞金のみとされています。
デザイナーへの報酬を例にした解説が、令和の総合商社にあります。個人は必要な場合があり、法人は基本的に不要という整理です。
源泉徴収の考え方は、こちらの記事にあります。
デザイナーに5万円払うとき、源泉徴収は必要?「個人は必要、法人は不要」が基本です
営業パートナーへの報酬が、外交員などの報酬に当たるかどうかは、契約の内容と実態によって変わります。判断が分かれるところですので、条件書を作る段階で、税理士に確認しておくと安心です。確認した結果は、条件書に一文入れておきます。
言い回し例:「報酬の支払いにあたり、法令により源泉徴収が必要な場合は、所定の税額を差し引いてお支払いします。」

条件書の骨組み(項目だけ)
最後に、条件書に入れる項目を1枚にまとめます。
- 1業務の内容(誰に、何をする)
- 2成果の定義(5段階のうち、どこか)
- 3報酬の額と算定の基準
- 4締め日と支払日
- 5対象期間
- 6キャンセル時の扱い
- 7複数人が紹介した場合のルール
- 8源泉徴収の扱い
- 9報告の頻度と項目
- 10契約の終わらせ方

1枚に収まる量です。難しいのは書くことより、書く前に決めることですが、決めてしまえば、その後の営業パートナーとのやりとりは楽になります。
営業の力は、才能や学歴やコネで決まるものではないと、私は思っています。量を回せる仕組みと、条件の設計で変えられます。個人の営業パートナーに頼むときも、同じです。条件を文字にしてから動いてもらう。それだけで、動き出す人の割合は変わります。
令和の総合商社のサービスのコーナーには、個人への業務委託や電子取引の保存など、サービス業務まわりの解説が並んでいます。条件を整えたあとの確認に、参考にしてください。
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※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。