仕事用のパソコンを35万円で買った。「経費にはなるけど、全額をその年の経費にしていいのかな?」。小さな会社の社長なら、一度は思うはずです。
答えのカギを握るのが、少額減価償却資産の特例。令和8年4月から、使える金額の線が引き上げられました。今日は、この「40万円未満」のルールを説明します。
先に結論:1つ40万円未満なら、買った年に全額を経費にできる
- 令和8年4月1日以後に取得した資産から、1つあたり40万円未満なら、事業に使い始めた年度に、全額を経費にできる特例が使えます(改正前は30万円未満)。
- 使える金額は、1年度で合計300万円までです。
- 対象は、青色申告をしている中小企業者などで、従業員が400人以下の会社です(改正前は500人以下)。
通常、高い資産は「減価償却」といって、何年にも分けて少しずつ経費にします。この特例は、それを待たずに一括で経費にできる仕組みです。
数字で見る:35万円のパソコンを買うと
- 改正前(30万円未満):35万円のパソコンは対象外。数年に分けて、少しずつ経費にするしかありませんでした。
- 改正後(40万円未満):35万円のパソコンは対象。買った年度に、35万円の全額が経費になります。
たとえば、スタッフ用に35万円のパソコンを8台買うと、合計は280万円。年300万円の枠の中におさまります。もう1台(9台目)を同じ年度に足すと、合計315万円になり、300万円を超えた部分は、この特例が使えません。
落とし穴その1:「買った」ではなく「使い始めた」
経費にできるのは、事業に使い始めた年度です。決算日ぎりぎりに注文して、届くのが翌期になった場合は、翌期の扱いになります。「期末の駆け込み購入」は、いちばんグレーになりやすいところ。納品日と、実際に使い始めた日を、記録に残しておきましょう。
落とし穴その2:税込か、税抜か
40万円未満かどうかの判定は、会社の経理方式(税込経理か、税抜経理か)によって、税込の金額で見るか、税抜の金額で見るかが変わります。消費税込みで40万円を超えてしまう場合もあるので、事前に確認しましょう。
- 業務用のパソコン・タブレット
- 業務用のプリンターや複合機
- 店舗の棚・什器
- 1つあたり40万円未満のもの
- 1つ40万円以上のもの
- 他人に貸し付けるための資産
- まだ事業に使っていないもの
- 年300万円の枠を超えた分
- 1買う前に、1つあたりの金額(税込か税抜か)を確認する
- 2今年度に、この特例を使った合計額を数える(300万円まで)
- 3納品日と、使い始めた日を記録しておく
- 4決算のときに、特例を使う旨を税理士さんに伝える
経費にできても、固定資産税(償却資産)の申告や、資産の台帳への記録は、別の話です。ここは見落としがちなので、税理士さんに確認しておきましょう。
年間300万円の上限は、どう数える?
この特例には、1年間(事業年度)の合計が300万円までという上限があります。例えば、同じ年度に次の物を買ったとします。
- パソコン5台(1台38万円)→ 190万円
- 業務用の機械4台(1台39万円)→ 156万円
合計は346万円。300万円を超えた部分は、通常の減価償却になります。「1つずつは40万円未満だから、全部OK」ではない、というのがポイントです。仕入れた商品が売れ残ったときの扱いは、売れ残り在庫のルールの記事で解説しています。
「1つ」って、どこまでを1つと数える?
40万円未満かどうかは、通常1つの単位として使うもので見ます。例えば、パソコン本体とモニターを組み合わせて使う場合や、机と椅子のセットなどは、まとめて1つとして見られることがあります。「別々に買えば40万円未満」と考える前に、組み合わせて使う物かどうかを確認しておきましょう。迷うときは、購入前に税理士へ聞くのがいちばん確実です。
うちの会社も、対象?
特例が使えるのは、青色申告をしている中小企業者などです。従業員数は400人以下が目安なので、社長1人〜数人の会社は、ほとんど当てはまります。ただし、個別の条件があるので、使う前に顧問税理士へ確認してください。
- パソコン・タブレット
- 業務用の冷蔵庫・厨房機器
- 店舗の什器・棚
- 撮影・配送用の機材
- リース契約のもの(別のルール)
- 土地(減価償却をしない)
- 40万円以上の物(通常の減価償却)
- 事業に使い始める前の物
また、この特例には期限があります。買う前に、最新の適用期限と金額を、国税庁や顧問税理士で確認してください。
「得」ではなく「前倒し」:全額経費にした、その先
少額減価償却資産の特例は、「経費にする時期を早める」制度です。たとえば35万円のパソコンを買ったとします。
- 特例を使う:買った年に35万円を、まるごと経費にする。
- 使わない(通常の償却):何年かに分けて、少しずつ経費にする。
経費にする合計は、どちらも35万円で同じです。変わるのはいつ経費にするか。今期の利益が大きい年は、前倒しで利益を圧縮できますが、そのぶん来期以降の経費は減ります。「今期は赤字ぎみ」という会社が、無理に特例を使うメリットは小さいかもしれません。
ミニ事例:決算月に、35万円のノートPCを2台
- 1台35万円×2台=70万円。
- 少額減価償却資産かどうかは、1つ(1台)ごとに判定します。どちらも40万円未満なので、2台とも対象です。
- 年間の上限は300万円。この70万円を使った時点で、枠の残りは230万円(300万−70万)です。
買う前に残す、3つのメモ
- 買った日と、使い始めた日(決算をまたぐときは特に大事)
- 1つあたりの金額(税込か税抜かも一緒に)
- 何に使うのか(仕事用の目的がわかる一言)
この3行を、領収書と一緒にしまっておくだけで、あとから「いつ・何を」で迷いません。年に一度の見直しは、10月の5つのチェックにまとめています。
まとめ:40万円未満なら、買う時期と使い始めを意識
令和8年4月から、パソコンなどの買い物の「全額経費」の範囲が広がりました。ただし、「年300万円まで」「使い始めた年度」「税込・税抜」の3つが、判断のポイントです。大きな買い物の前に、一度だけ計算してみてください。
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士などの専門家にご相談ください。