年末が近づくと、売掛金の一覧を開く社長が増えます。上から眺めていくと、何年も前の請求が1行だけ残っています。「あの会社、まだ払ってないんだっけ」。相手の社長とは年賀状のやりとりだけが続いていて、請求の話はなんとなく止まったままです。
ここで気になるのが時効です。ネットで調べると「2年」「5年」「10年」と数字がばらばらに出てきて、余計に不安になります。じつは、売掛金の時効は2020年4月1日の民法改正で大きく変わりました。それより前は、業種や取引の中身ごとに短い時効が細かく決まっていましたが、いまは原則として一本化されています。古い記事の数字をそのまま信じると、まだ間に合う請求をあきらめたり、逆に間に合わない請求を放っておいたりします。
この記事では、2026年10月時点の民法をもとに、売掛金の時効は何年か、時効を止める方法、そして年末に古い売掛金を洗い出す手順を整理します。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論
- 2020年4月1日以降に生じた売掛金は、原則として「請求できると知った時から5年」で時効になります。
- 知らないまま時間がたった場合でも、「請求できる時から10年」で時効になります。どちらか早いほうです。
- 支払期日が決まっている普通の売掛金なら、支払期日を過ぎた時点で請求できると分かっているので、目安は支払期日から5年です。
- 時効は、相手が債務を認める「承認」で振り出しに戻ります。裁判所を使う請求をすれば、時効の完成が止まります。
- 請求書を送るだけの「催告」は、6か月だけ時効の完成を先に延ばす効果です。何度送っても、そのたびに延びるわけではありません。
- 時効の期間が過ぎても、売掛金が自動で消えるわけではありません。相手が「時効なので払いません」と主張(援用)して初めて、裁判所は時効を理由に判断できます。
2020年4月で何が変わったか
改正前の民法には、職業や取引ごとに短い時効がありました。法務省の説明資料では、飲食代金は1年、動産のレンタル代金は1年、医師の診療報酬は3年、弁護士の報酬は2年といった例が並んでいます。会社どうしの商取引の債権は、商法の「商事時効」で5年とされていました。
改正後は、この職業別の短い時効と商事時効が廃止されました。いまの民法166条では、債権は次のどちらか早いほうで時効になります。
- 1請求できることを知った時から5年
- 2請求できる時から10年
ただし、ここに落とし穴があります。改正民法の附則で、2020年4月1日より前に生じた債権には、改正前のルールが使われると決められています。さらに、債権が生じたのが4月1日以降でも、その原因になった契約が4月1日より前に結ばれていれば、改正前のルールです。
たとえば、2019年に結んだ基本契約にもとづいて、2021年に納品した分の売掛金は、改正前のルールで考えることになります。古い取引先ほど、基本契約の日付を確かめる意味があります。
仮の例:従業員4人の会社の「眠った請求」
従業員4人の印刷会社(仮の例です)で考えます。2022年3月に、取引先から販促チラシを受注しました。契約も納品も同じ月で、支払期日は2022年4月30日です。代金は仮に30万円とします。
相手は「今月は厳しいので、少し待ってください」と言ったきり、支払いが止まりました。社長は気まずくて、強く言えないまま年月がたちます。
この売掛金は、2020年4月以降の契約なので、いまのルールで考えます。支払期日の2022年4月30日を過ぎた時点で、社長は請求できると分かっています。そこから5年なので、時効の目安は2027年4月末ごろです。2026年10月の時点では、まだ半年ほど余裕があります。
ここで社長がとれる手は、大きく3つあります。
- 1相手に残高を認めてもらう:「2022年3月分のチラシ代30万円が未払いであることを確認します」という書面に、相手の署名や記名押印をもらいます。これが民法152条の「承認」に当たれば、その時から時効がまた一から進みます。
- 2書面で協議の合意をする:「この代金の支払いについて協議します」と書面(電子データの記録でも可)で合意すると、合意から1年(協議期間を1年未満で決めたらその期間)は時効が完成しません。
- 3裁判所の手続きを使う:支払督促、少額訴訟を含む訴え、民事調停などです。手続き中は時効が完成せず、判決などで確定すれば、そこから新たに時効が進みます(確定した権利の時効は10年です)。
内容証明郵便で請求書を送るのは「催告」です。送った時から6か月は時効が完成しませんが、その6か月の間にもう一度送っても延長にはなりません。催告は、裁判所の手続きの準備をする時間かせぎと考えるのが安全です。
ただし、ここは注意
例外と、勘違いしやすい点をまとめます。
- 改正前のルールが残る債権:先ほどのとおり、2020年3月31日以前に生じた債権や、それ以前の契約にもとづく債権は、改正前の短い時効が当てはまることがあります。2026年10月の時点では、改正前の5年の商事時効だった債権も、すでに期間が過ぎているものが多いと考えられます。
- 起算点がずれる売掛金:分割払いや、検収後に支払期日が決まる取引は、いつから請求できたかの判断が分かれることがあります。契約書と請求書の日付をそろえて確認します。
- 「時効だから払わなくていい」は、相手が援用したときの話:民法145条では、時効は当事者が援用しなければ、裁判所はそれを理由に裁判できないとしています。期間が過ぎた売掛金でも、請求すること自体が禁じられているわけではありません。ただし、しつこい取り立てや、脅すような言い方は別の問題になります。
- 催告の重ねがけは効かない:6か月の延長は1回きりです。書面による協議の合意も、催告で延びている間に結んだものは効果がありません。
金額が大きいとき、相手が倒産しそうなとき、すでに期間ぎりぎりのときは、弁護士や司法書士に早めに相談するほうが確実です。
年末に古い売掛金を洗い出す手順
会計ソフトの売掛金の一覧を使えば、30分ほどでできます。
- 1売掛金を、支払期日の古い順に並べます。
- 2支払期日から1年以上たっているものに、印をつけます。
- 3印をつけたものごとに、契約日(基本契約がある場合はその日付)を確認します。2020年4月1日より前なら、改正前のルールの可能性があるので別に分けます。
- 4支払期日から5年になる年月を、横の欄に書きます。
- 5期限まで1年を切っているものから、残高確認の書面を送るか、協議の合意を提案するかを決めます。
- 6相手が応じないもの、連絡がつかないものは、専門家への相談先を決めておきます。
時効が気になる段階まで請求が止まる原因は、たいてい請求書の出し忘れや、送ったかどうかの記録がないことです。請求書の保存と入金確認の整え方は、こちらの記事にまとめています。
今日からできる最初の一歩
今日は、売掛金の一覧に「支払期日から5年」の欄を1列だけ足してみます。数字が並ぶと、どの請求が危ないかが一目で分かります。
営業の目で見ると、払ってくれない取引先は、売上ではなく「回収の仕事」を増やす相手です。年末の振り返りで、回収に手間がかかった取引先と、きちんと払ってくれる取引先を分けておくと、来年どこに営業の時間を使うかが決めやすくなります。営業の数字の見直し方は、こちらの記事で紹介しています。
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運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):e-Gov法令検索、法務省、法務省(2)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。