代理店手数料の源泉徴収は、個人の代理店に払うときに迷う場面です。副業で代理店をしてくれている個人の方に、今月の手数料を振り込もうとしていると、経理の担当者が手を止めて、ひとこと。「これ、源泉徴収して振り込むんでしたっけ?」。デザイナーさんに払うときは引いているので、同じ個人なら引くのかな、と迷う場面です。
答えから言うと、代理店への販売手数料や紹介の手数料は、相手が個人でも、原則として源泉徴収は要りません。源泉徴収が必要な報酬は、所得税法に「この報酬とこの料金」と並べて書かれていて、ふつうの販売手数料はそこに入っていないからです。ところが、その一覧の中に「外交員」という、少し古風な言葉が混ざっています。代理店の働き方によっては、ここに当たってしまうことがあります。
この記事では、代理店手数料の源泉徴収が要らない代理店と、要る代理店の分かれ目を、仮の3人で整理します。所得税法と、国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)、令和8年版の「源泉徴収のあらまし」にもとづく、2026年10月時点の一般的な話です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
代理店手数料の源泉徴収、先に結論:「ふつうの代理店は不要、外交員なら必要」
まず、先に答えを並べます。
- 個人の代理店に払う販売手数料・紹介手数料は、原則として源泉徴収の対象ではありません。
- ただし、その手数料が「外交員の業務に関する報酬」に当たると、源泉徴収が必要です。
- 外交員報酬の源泉徴収は、その月に払う額から12万円を引いた残りに10.21%をかけます。
- 外交員報酬を同じ人に年50万円を超えて払ったら、支払調書を翌年1月31日までに税務署へ出します。
- 相手が法人(株式会社など)の代理店なら、外交員報酬の源泉徴収はありません。
迷ったときの目安は、「その人は自分の商売として代理店をしているのか、それとも実質的に自社の販売員のように動いているのか」です。後者に寄るほど、外交員に近づきます。
代理店手数料の源泉徴収が要るかは「一覧表」で決まっています
所得税法204条1項は、個人に払うと源泉徴収が必要になる報酬を、1号から8号まで並べています。1号は原稿料・デザイン料・講演料など、2号は弁護士や税理士などの士業の報酬です。そして4号に、プロ野球の選手やモデルと一緒に「外交員、集金人、電力量計の検針人」が出てきます。
一覧に載っていない報酬は、源泉徴収の対象外です。国税庁の「源泉徴収のあらまし」も、表に掲げる報酬・料金を払う人が源泉徴収をする、という書き方になっています。販売手数料や仲介手数料という名前の項目は、この一覧にありません。
デザイナーさんへのデザイン料は1号にはっきり書かれているので源泉徴収が要ります。同じ「個人への支払い」でも、何に対する報酬かで答えが変わる、というわけです。デザイン料の話は、こちらの記事にあります。
デザイナーに5万円払うとき、源泉徴収は必要?「個人は必要、法人は不要」が基本です
払う側の条件
もうひとつ、払う側の条件もあります。204条2項2号により、従業員に給与を払っていない個人事業主などが払う場合は、外交員報酬を含む1号から5号の報酬について、源泉徴収をしなくてよいことになっています。社長ひとりで給与の支払いがない個人事業なら、そもそも源泉徴収の義務がかかりません。
代理店手数料の源泉徴収が要る「外交員」とは、どんな代理店?
困ったことに、所得税法には「外交員とは何か」の定義がありません。手がかりになるのは、国税庁の所得税基本通達です。
通達の204−22の2には、メーカーや卸売業者が、特約店に専属するセールスマンや、もっぱら自社の製品を扱う特約店の従業員などに、取扱数量や取扱金額に応じて、あらかじめ決めたところにより渡すお金は、外交員の報酬に当たる、と書かれています。204−23の注には、生命保険会社が代理店に生命保険契約の募集に関して払うものは、外交員の業務に関する報酬に当たる、とあります。
外交員かどうかの目安
ここから読み取れる目安は、次のような点です(筆者が通達から整理したもので、法律上の要件として列挙されているものではありません)。
- 自社の商品だけを扱っていて、ほかの会社の商品を売っていない
- 売れた数や金額に応じて、あらかじめ決めた率で払っている
- 自社の名前で、自社に代わって注文を取ってくる役割になっている
- 事務所や在庫、広告費などを自分で持たず、商売としての独立性が薄い
反対に、自分で屋号を持ち、複数の会社の商品を並べて売り、経費も自分で負担している個人の代理店は、自分の事業として代理店業をしていると見るのが自然です。最終的には名前ではなく実態で判断されるので、迷う場合は顧問税理士や税務署に確認してください。
代理店手数料の源泉徴収が要るか、仮の3人で判定してみます
従業員4人の、業務用の浄水器を扱う会社(仮)が、3人の代理店に手数料を払う例です。数字はすべて仮です。
1人目:複数の商品を扱う個人事業の代理店
個人事業として、複数のメーカーの事務機器や浄水器をまとめて扱う代理店です。屋号で営業し、車も広告費も自分持ちです。今月の手数料は8万円です。
判定:一覧のどれにも当たらず、外交員とも言いにくいので、源泉徴収は不要と考えられます。8万円をそのまま振り込みます。
2人目:自社の商品だけを扱う会社員の副業
会社員の副業です。この会社の浄水器だけを、会社の名刺とパンフレットを使って紹介し、成約1台ごとに決まった額を受け取ります。今月の手数料は15万円で、給与の支払いはありません。
判定:外交員報酬に当たる可能性が高い形です。源泉徴収税額は(15万円−12万円)×10.21%で3,063円。差し引いた14万6,937円を振り込みます。
3人目:株式会社の代理店
株式会社の代理店です。中身は2人目と同じ働き方です。今月の手数料は15万円です。
判定:相手が法人なので、外交員報酬の源泉徴収はありません。
なお、2人目の計算で、12万円を引くのは「同じ人にその月に払う額」についてです。国税庁のタックスアンサー2804番には、同じ月に給与も払っている場合は、12万円からその月の給与の額を引いた残りだけを控除する、と書かれています。給与が12万円を超えていれば、控除はゼロになります。
ただし、代理店手数料の源泉徴収で間違えやすい3つのこと
例外と注意を並べます。特に、ここで間違える会社が多いところです。
- 1納付の期限:外交員報酬から引いた税金は、払った月の翌月10日までに納めます。従業員の給与で「納期の特例」(半年に1回の納付)を受けていても、外交員報酬は特例の対象外です。給与と同じつもりで7月と1月にまとめて納めるつもりでいると、遅れてしまいます。
- 2給与になる場合:外交員に払うお金でも、固定給と成績に応じた部分がはっきり分かれていれば、固定給の部分は給与として扱われます(通達204−22)。固定給と歩合の両方を払う形にするなら、給与としての源泉徴収や、場合によっては雇用の問題も出てきます。契約の題名ではなく働き方で判断される点は、後で紹介する記事にあります。
- 3支払調書:外交員報酬を同じ人に年50万円を超えて払ったら、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を翌年1月31日までに出します。2人目に毎月15万円払うなら、年180万円で対象です。
労働者かどうかの判断は、こちらの記事にまとめています。
「業務委託だから大丈夫」は通用しない?労働者かどうかは、契約書の題名では決まらない
なお、国税庁のタックスアンサーには、令和9年分以後は防衛特別所得税も源泉徴収の対象に加わると書かれています。2027年1月以後に払う分の計算は、国税庁の案内で改めて確認してください。
代理店手数料の源泉徴収、今日からできる最初の一歩:代理店ごとに「1行メモ」を作る
まず、代理店の名簿を開いて、1人ずつ次の3つを書き足してみてください。
- 個人か法人か
- 自社の商品だけを扱っているか、ほかの会社の商品も扱っているか
- 手数料の決め方(成約ごとの率か、固定額か、その組み合わせか)
そして、この3つが並ぶと、源泉徴収が要りそうな人が一目でわかります。迷う人だけを顧問税理士に相談すれば足ります。
名簿は営業の振り返りにも使える
また、この名簿は、営業の振り返りにもそのまま使えます。自社の商品だけを扱う専属型の代理店と、ほかの商品と一緒に売ってくれる独立型の代理店では、売れ方も、必要な支援も違います。税金の確認のついでに、どちらの型の代理店がよく動いているかを、年末の数字で見比べてみてください。
ほかのコラムも、あわせてどうぞ
お金の学び(ウハウハ高等学校):投資やサロンで困ったときの相談窓口4つ|困りごとで選ぶ電話の使い分け
営業・販路のコラム:コミッターズ コラム
筆者の記事:川口忠大のnote
蓄電池を知る(ENERGY BANK):系統用蓄電池の低圧・高圧比較|法人が費用と接続条件で選ぶ方法
導入先を比べる:系統用蓄電池メーカー比較|法人が製品・導入支援・保守を同じ条件で見る方法
お金の面を読む:系統用蓄電池の充電コストを読む|調達契約と託送料金
情報サイトのトップ:ENERGY BANK(系統用蓄電池の情報サイト)
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):e-Gov法令検索、国税庁、国税庁(2)、国税庁(3)、国税庁(4)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。