年金をもらえる年になりました。会社は続けたいし、役員報酬もこれまでどおりです。「働くと年金が減る」と聞いたことはあるけれど、社長の自分にも当てはまるのでしょうか。
答えを先に言うと、当てはまります。会社の厚生年金に入っている社長は、役員報酬と年金の合計が基準額を超えると、年金の一部が止まります。在職老齢年金という仕組みです。その基準額が、2026年4月から月51万円→月65万円に上がりました。
この記事では、2026年10月時点の日本年金機構と厚生労働省の資料をもとに、計算式、仮の数字、社長ならではの注意点を整理します。自分の場合に止まるのかどうか、電卓があれば確かめられるところまで持ち帰れます。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論
- 厚生年金に入りながら老齢厚生年金を受ける60歳以上の人は、賃金と年金の合計が基準額を超えると、年金の一部または全部が止まります(在職老齢年金)。
- 基準額は、2026年4月から月51万円→月65万円(令和8年度の額)です。毎年度、賃金の変動に応じて改定されます。
- 計算に使う合計は、「老齢厚生年金の月額(基本月額)」と「総報酬月額相当額」です。後者は、標準報酬月額と、直近1年の標準賞与額の合計を12で割った額を足したものです。
- 超えた額の半分が止まります。賃金が2増えるごとに、年金が1止まる形です。
- 老齢基礎年金は、調整の対象になりません。
- 自分で事業をしている個人事業主は、厚生年金の被保険者ではないので、この仕組みの対象外です。
社長にも当てはまる理由と、計算に入るお金
在職老齢年金の対象は、厚生年金の被保険者として働きながら老齢厚生年金を受けている60歳以上の人です。70歳になると被保険者ではなくなり、保険料の負担もなくなります。ただ、厚生年金の適用事業所で働いている場合は、同じように年金が止まる仕組みが続きます。
社長(代表者)が会社の厚生年金に入っているなら、この対象に入ります。「社長は従業員じゃないから関係ない」とは、いきません。
計算に入るのは、次の2つです。
- 基本月額:加給年金額を除いた、老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
- 総報酬月額相当額:その月の標準報酬月額+(その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12)
ここで見落としやすいのが、標準報酬月額です。役員報酬の額をそのまま使うのではなく、等級表で決まった金額に直します。たとえば、役員報酬が月58万円なら、標準報酬月額は59万円です(厚生年金保険法の等級表)。原則として4月から6月の3か月の報酬をもとに決まります。
賞与も入ります。標準賞与額は、賞与から1,000円未満を切り捨てた額で、厚生年金は1か月あたり150万円が上限です。
一方で、計算の材料は標準報酬月額と標準賞与額だけです。計算式の中に、預金の利息や、個人で持っている不動産の収入は出てきません。
なお、標準報酬月額の上限も、現在は65万円です。基準額の65万円とは別の数字なので、混ぜないようにしましょう。この上限は、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円と、改正法で段階的に上がることが決まっています。
計算式と、仮の数字で見る
計算式は、次のとおりです(令和8年度)。
- 基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円以下:年金は全額支給されます
- 65万円を超える場合:年金の支給月額=基本月額−(基本月額+総報酬月額相当額−65万円)÷2
仮の例を3つ見ます。社長は66歳で、老齢厚生年金の基本月額は10万円とします。
- 1役員報酬が月50万円(標準報酬月額50万円)、賞与なし。総報酬月額相当額は50万円で、合計は60万円です。65万円以下なので、年金10万円が全額出ます。
- 2役員報酬が月58万円(標準報酬月額59万円)、賞与が年120万円。総報酬月額相当額は、59万円+120万円÷12=69万円です。合計は79万円で、基準を14万円超えます。止まるのは、その半分の7万円です。年金の支給は、10万円−7万円=3万円です。
- 3役員報酬は2と同じ月58万円で、賞与なし。総報酬月額相当額は59万円で、合計は69万円です。超えるのは4万円で、止まるのは2万円。年金の支給は、10万円−2万円=8万円です。
2と3を比べると、賞与の有無だけで、年金の支給が月5万円違います。賞与も、計算に入っているからです。
ちなみに、3を令和7年度までの基準額51万円で計算すると、超えるのは18万円で、止まるのは9万円です。年金の支給は、10万円−9万円=1万円でした。2026年4月の改正で、同じ働き方でも、年金が月8万円まで出るようになります(仮の数字です)。
社長ならではの注意と例外
まず、よくある勘違いを3つ片づけます。
- 「年金がもらえなくなる」:止まるのは老齢厚生年金だけです。老齢基礎年金は、調整の対象になりません。超えた額の半分が止まる形なので、合計が基準を少し超えたくらいなら、止まるのも一部です。
- 「報酬が高いと年金はゼロ」:全部が止まるのは、計算した年金の支給月額がマイナスになる場合だけです。このときは、加給年金額も止まります。
- 「70歳になれば関係ない」:70歳を過ぎても、厚生年金の適用事業所で働いていれば、調整は続きます。
次に、例外と注意です。
- 60代前半の人も、2022年4月以降は、65歳以上と同じ基準額で計算します(令和2年の改正)。
- 止まる額が変わるのは、総報酬月額相当額が変わった月か、退職日の翌月です。役員報酬を変えた月ではなく、標準報酬月額が変わった月から計算が変わります。その時期は、年金事務所か社会保険労務士に確認してください。
- 年金を繰り下げて請求する場合、在職老齢年金で止まるはずだった部分には、繰下げの増額がつきません(厚生労働省)。
- 経過的加算額も、調整の対象外で、全額支給されます。
もうひとつ、10月ならではの話があります。65歳以上70歳未満で、9月1日に厚生年金に入っている人は、翌月の10月分から年金額が見直されます。在職定時改定です。前の年の9月から当年8月までに、厚生年金に入っていた期間が、年金額に加わります。ただし、この再計算の結果、止まる額が変わることもあります。
会社を退任して厚生年金の資格を失い、1か月が過ぎたときは、退職した翌月分から年金額が見直されます。止まっていた分もなくなり、全額支給になります(退職して1か月以内に再就職して厚生年金に入った場合は、再計算されません)。70歳に達したときも、翌月分から年金額が見直されます。
「じゃあ役員報酬を下げれば、年金は減らないのでは」と考える方もいるでしょう。たしかに、合計が基準以内に収まれば、止まりません。ただ、報酬を下げれば手取りも下がります。役員報酬の変更には、法人税のルールもあります。決める前に、役員報酬の記事を読んで、顧問税理士と社会保険労務士に確認してください。
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今日からできる最初の一歩
次の順に、紙1枚で確かめましょう。
- 1基本月額を調べる(ねんきんネットや、年金の通知書で確認できます)
- 2標準報酬月額と、直近1年の賞与を調べる(給与計算の担当者か、顧問の社会保険労務士に聞きます)
- 3総報酬月額相当額を出して、基本月額と足す
- 465万円と比べて、止まるなら、止まる額を計算する
- 5役員報酬や賞与を変えるなら、計算し直す前に、専門家に相談する
社長の手取りの目標が決まると、会社が1か月にいくら売ればいいかも、逆算できます。営業の数字は、社長の暮らしから逆算してもかまいません。年金のほかに、社長自身の退職金をどう作るかは、こちらの記事にあります。
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運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):日本年金機構、日本年金機構(2)、厚生労働省、厚生労働省(2)、厚生労働省(3)、日本年金機構(3)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。