社長が急な入院で2週間、会社に出られなくなったとします。従業員なら「傷病手当金があるよ」と声をかけるところですが、ふと自分の番になると「社長って、もらえるんだっけ?」と手が止まります。
答えは、社長が会社の健康保険に入っていて、病気が仕事とは関係のないものなら、社長も傷病手当金の対象になります。ただし、ひとつ落とし穴があります。休んでいる間も役員報酬をいつもどおり払っていると、傷病手当金は出ません。会社の口座から自分にお金を払った瞬間に、国からの手当が消えていく仕組みです。
この記事では、2026年10月時点の協会けんぽの案内をもとに、傷病手当金の条件、仮の数字での計算、役員報酬との関係、個人事業主との違いを整理します。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論
- 会社の健康保険(協会けんぽなど)に被保険者として入っている社長・役員は、業務外の病気やケガで働けないとき、傷病手当金の対象になります。
- 1日あたりの額は、おおまかに「標準報酬月額の平均÷30×3分の2」です。
- 休んでいる間に報酬が出ていれば原則として支給されず、報酬が手当より少ないときは差額だけが出ます。
- 個人事業主が入る国民健康保険には、会社の健康保険のような傷病手当金は、原則としてありません。
- 仕事中のケガは労災の対象で、傷病手当金の対象外です。社長はこの境目で谷間に落ちやすいので注意が必要です。
傷病手当金の4つの条件
協会けんぽの案内では、次の4つをすべて満たすと支給されます。社長だから特別に厳しい、という条件はありません。
- 1業務外の病気やケガの療養のために休んでいること
- 2医師などの意見をもとに、仕事に就けない状態であること
- 3連続する3日間を含めて、4日以上仕事に就けなかったこと
- 4休んでいる期間に、給与(社長なら役員報酬)の支払いがないこと
3つ目の「連続する3日間」は待期と呼ばれます。この3日間には、土日や祝日、有給休暇の日も含まれます。たとえば金曜日に倒れて、土日をはさんで月曜日も休んだら、金・土・日で待期が完成し、月曜日から支給の対象になります。逆に、2日休んで3日目に出社してしまうと、待期は完成しません。社長あるあるの「ちょっとだけ顔を出す」が、ここでは裏目に出ます。
支給される期間は、支給を始めた日から通算して1年6か月です。途中で仕事に戻った期間があっても、その分を差し引いて、合計で1年6か月まで受け取れます。
いくらもらえる?仮の数字で計算
計算式は、協会けんぽの案内では次のとおりです。
- 支給開始日以前の継続した12か月間の、各月の標準報酬月額の平均÷30×3分の2
仮の例で計算してみます。従業員3人の会社の社長(仮)で、ここ1年の標準報酬月額がずっと30万円だったとします。
- 30万円÷30=1万円
- 1万円×3分の2=約6,667円(1日あたり)
入院と自宅療養で、合計30日休んだとします。最初の3日は待期なので、支給の対象は27日です。
- 6,667円×27日=18万9円
月の報酬が30万円の人にとって、30日で約18万円です。生活費の穴を全部ふさぐ額ではありませんが、ゼロとは大違いです。
なお、健康保険に入ってからの期間が12か月に満たない場合は、計算の元になる額が変わります。協会けんぽの案内では、直近の各月の標準報酬月額の平均と、全被保険者の平均(2025年4月1日以降の支給開始なら32万円)を比べて、低いほうを使います。会社を作ったばかりの社長は、この点も頭に入れておくと安心です。
役員報酬を払い続けると、差額しか出ない
ここが社長ならではの悩みどころです。
従業員なら、休んだ日は給料が出ないのが普通なので、傷病手当金がそのまま生活を支えます。ところが社長の役員報酬は、毎月同じ額を払う形が一般的です。入院していても、会社の口座からいつもどおり30万円が振り込まれていれば、条件4の「報酬の支払いがない」を満たしません。
協会けんぽの案内では、報酬が出ている期間は原則として支給されず、報酬の額が傷病手当金の額より少ないときに限って、その差額が支給されます。仮の例でいえば、役員報酬を満額払えば手当は0円、報酬を手当の額より低くすれば、その差の分だけが出るイメージです。実際の金額は、申請書の内容をもとに協会けんぽが決めます。
「じゃあ、休んでいる間は報酬を止めればいい」と考えたくなりますが、ここで別のルールにぶつかります。法人税では、役員報酬は事業年度の途中で自由に変えられません。国税庁のタックスアンサーでは、損金に入る定期同額給与の改定は、期首から3か月以内の改定や、臨時の改定事由、業績悪化による改定など、限られた場面に限られています。病気で報酬を下げる場合がどれに当たるかは、事情しだいです。役員報酬を期中に変えるときの考え方は、こちらの記事で整理しています。
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もうひとつ、報酬を止めても社会保険料は止まりません。保険料は標準報酬月額で計算されるので、休んでいる月も会社と社長本人の分の保険料がかかります。日本年金機構の案内では、標準報酬月額が見直される随時改定は、固定的な賃金が変わってから4か月目からです。休職中の休職給は、固定的賃金の変動には当たらないとされています。報酬を下げても、すぐに保険料が下がるわけではない、という点は覚えておくとよいです。
ただし、ここは例外・注意
社長が傷病手当金を考えるときに、見落としやすい点をまとめます。
- 個人事業主は対象外になりやすい:国民健康保険には、会社の健康保険のような傷病手当金は原則としてありません。新型コロナのときに市区町村が特例で設けた例はありますが、横浜市の案内では対象期間は2023年5月7日までで、個人事業主は対象外とされていました。
- 仕事中のケガは別の話:業務上のケガは労災の対象で、傷病手当金は出ません。社長は原則として労災の対象外なので、どちらからも出ない谷間ができることがあります。協会けんぽの申請書の手引きでも、役員の場合は健康保険の給付対象とならない場合があるので相談するよう書かれています。
- 任意継続中の病気は対象外:会社を辞めて健康保険を任意継続している期間に発病した病気は、支給されません。
- 申請書の事業主欄は自分で書く:申請書には事業主が出勤状況や報酬の支払いを証明する欄があります。社長1人の会社なら、社長が自分で書くことになります。手引きでは、1回の申請は3か月以内の期間ごとで、期間が終わってから出す形です。
社長1人の会社が健康保険に入るかどうかの前提は、こちらの記事にあります。
社長1人の会社でも、社会保険は入る?「法人」だと答えが決まっています
今日からできる最初の一歩
最初の一歩は、自分の健康保険証(または資格確認書やマイナ保険証の情報)を見て、会社の健康保険か国民健康保険かを確かめることです。会社の健康保険なら、ここ1年の自分の標準報酬月額を確認し、1日あたりの目安額を電卓で出しておきます。
次に、「社長が1か月いない月」の資金繰りを1行だけ書いてみます。役員報酬を払うのか、払わないのか、そのとき会社と自分の財布はどうなるのか。営業の現場でも、社長が動けない1か月は、商談が止まる1か月です。代わりに顧客に連絡できる人を1人決めておくだけで、売上の落ち込み方はずいぶん変わります。
役員報酬の減額や申請の細かい判断は、協会けんぽの都道府県支部や、顧問税理士・社会保険労務士に確認してください。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):www.kyoukaikenpo.or.jp、www.kyoukaikenpo.or.jp(2)、日本年金機構、自治体、国税庁
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。