会社の預金が1,000万円を超えてきました。1つの銀行にまとめて置いたままで、大丈夫なのでしょうか。決算書の預金残高を眺めていて、ふとそう思う社長は少なくありません。
じつは、法人口座のペイオフでは、預金の種類によって守られ方がまったく違います。当座預金のような預金は全額。利息のつく普通預金や定期預金は、元本1,000万円まで。同じ「預金」でも、線の引かれる位置が別なのです。
この記事では、預金保険機構と金融庁のページをもとに、法人口座のペイオフ(預金保険の仕組みを、一般にそう呼びます)の線引きを整理します。令和8年10月時点の内容です。読み終えたら、自社の通帳をどう並べて見ればいいかがわかります。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
法人口座のペイオフ、先に結論
- 法人口座のペイオフでは、会社名義の預金は、法人1つで「1預金者」として数えます。社長個人の預金とは別です。
- また、利息のつく普通預金や定期預金は、1つの金融機関ごとに合算して、元本1,000万円までと破綻日までの利息等が保護されます。
- さらに、当座預金や利息のつかない普通預金などの「決済用預金」は、全額が保護されます。
- なお、対象になるのは、日本国内に本店がある銀行、信用金庫、信用組合などです。農協や漁協は、別の制度に入っています。
いきなり困る話ではありません。ただ、決算の前に通帳を並べて確認しておくと、安心して営業に集中できます。
法人口座のペイオフ、「1預金者」の数え方。口座を分けても、同じ金融機関なら合算です
預金保険機構のよくあるご質問によると、同じ金融機関に同じ預金者が複数の口座を持っていても、それぞれの口座が保護されるわけではありません。預金者ごとに合算したうえで、「元本1,000万円までと破綻日までの利息等」が保護されます。この合算作業を「名寄せ」といいます。
たとえば、従業員のいる小さな会社(仮)が、同じ銀行に利息のつく普通預金と定期預金を持っているとします。口座が2つに分かれていても、合算した金額が1,000万円を超えていれば、超えた部分は保護の上限の外です。「口座を分けたから、それぞれ守られる」とは数えません。
法人と社長個人は、別々に数える
まず、法人と社長個人の関係は、次のとおりです。
- 法人(会社名義)の預金は、1法人が1預金者として扱われます。
- 会社名義の預金と代表者個人の預金は、それぞれが1預金者です。同じ銀行にあっても、別々に数えます。
- 個人事業主の場合は逆です。個人名義の事業用の預金は、個人名義のその他の預金と合算されるため、注意が必要です。
法人口座のペイオフは、社長個人とは別に、会社として1,000万円の枠で数えます。ただし、家族の名義を借りただけの預金は他人名義預金とされ、保護の対象外になります。名義だけ分ける工夫は通用しません。
金融機関が合併したときの例外
さらに、もう1つ、見落としやすい例外があります。金融機関が合併したり、事業のすべてを譲り受けたりした場合は、そのあと1年間に限り、保護の範囲が「元本1,000万円×合併等に関わった金融機関の数」まで広がる特例があります。取引銀行が合併したと聞いたときの豆知識として覚えておけば十分です。
全額守られる「決済用預金」は、会社の当座預金が代表選手です
決済用預金は、次の3つの要件をすべて満たす預金です。
- 1利息がつかないこと
- 2預金者が払戻しをいつでも請求できること
- 3決済サービスを提供できること(公共料金等の口座引き落としや、給与・年金の受け取りなどに使えるもの)
預金保険機構は、具体的には、主に企業が営業資金の決済のために使っている当座預金や、公共料金等の引き落とし口座で利息のつかない普通預金などが、全額保護されると説明しています。口座の数や残高は関係ありません。
「決済サービスを提供できる」という要件は、実際に口座引き落としを使っているかどうかではなく、その預金の商品として決済に使えるものかどうかで決まります。預金の名称や手続きは金融機関によって違うので、「うちの無利息の口座は決済用預金ですか」と、取引金融機関にそのまま聞くのがいちばん早いです。
つまり、ここは交換条件です。決済用預金は利息がつかない代わりに、全額が守られます。利息のつく預金は、利息がつく代わりに、守られる額に上限があります。どちらが向いているかは、その資金を近いうちに使うのか、しばらく寝かせるのかで変わります。優劣の話ではありません。
預金保険の対象は、国内の銀行など。ほかの置き場所は別の仕組みです
預金保険の対象金融機関は、日本国内に本店がある銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、信金中央金庫、全国信用協同組合連合会、労働金庫連合会、商工組合中央金庫です。なお、実際の一覧は、預金保険機構のページの令和8年10月13日現在のものが公開されています。インターネット専業の銀行も、ゆうちょ銀行も、一覧に並んでいます。
一方で、次のものは対象になりません。
- 対象金融機関の海外支店、外国銀行の在日支店、政府系金融機関
- 外貨預金、譲渡性預金、無記名預金、募集債である金融債など
- 銀行の窓口で買った国債や投資信託
また、農協や漁協などは預金保険制度の対象ではありませんが、ほぼ同様の「農水産業協同組合貯金保険制度」に入っています。証券会社は「日本投資者保護基金」、生命保険会社と損害保険会社は、それぞれの「保険契約者保護機構」に入っています。
別のサイトのコツコツおかね村のコラム「お金の置き場所を選ぶチェック項目(預貯金・保険・投資)」では、預貯金・保険・投資を比べたうえで、「置き場所ごとに、破綻したときの保護の仕組みは別々です。」と書かれています。保護の仕組みは置き場所ごとに別で、上限や対象外があるという整理です。
出典:コツコツおかね村「お金の置き場所を選ぶチェック項目(預貯金・保険・投資)」
つまり、預金の保護は、金融機関が破綻したときの仕組みです。値下がりなどの損失を埋めてくれる話ではありません。そのため、この記事の線引きは、あくまで預金に限ったものと考えてください。
例外と注意:借入があるなら「相殺」、払い戻しは「早い者勝ち」になりません
最後に、法人口座のペイオフで、小さな会社が見落としがちな点を3つ挙げます。
- 1借入のある会社は「相殺」できます。破綻した金融機関に借入金等がある場合、預金等と借入金等を相殺できます。ただし自動では行われず、預金者のほうが相殺の意思表示をする必要があります。
- 2保護の上限を超える部分は、一部カットの可能性があります。決済用預金以外の元本1,000万円を超える部分は、破綻した金融機関の財産の状況に応じて支払われます。
- 3払い戻しは、早い者勝ちではありません。預金保険機構は、慌てて金融機関に駆けつける必要はないと説明しています。保護される預金は、たとえば金曜日に破綻した場合、翌週月曜日から払い戻せるように努めるとしています。
なお、振込の途中で金融機関が破綻した場合でも、その取引にかかる債務は「決済債務」として全額保護される、と預金保険機構は説明しています。振込や送金の途中のお金は、預金とは別の扱いで守られる仕組みです。
会社のお金の守りは、預金だけではありません。売上が落ちた年に経営を守る共済については、こちらの記事にあります。
売上が落ちた年に社長を守る2つの共済。攻めの営業を止めない守りの順番
法人口座のペイオフを確かめる最初の一歩は、通帳を金融機関ごとに並べること
難しい作業はありません。次の4つで終わります。
- 1まず、会社名義の通帳(ネットバンクなら残高の画面)を、金融機関ごとに並べます。
- 2次に、金融機関ごとに、「決済用預金」と「利息のつく預金」に分けて、それぞれの合計を出します。
- 3さらに、利息のつく預金の合計が1,000万円を超えている金融機関があれば、超えた部分をどうするかを決めます。迷ったら、取引金融機関か顧問税理士に聞いてください。
- 4最後に、借入のある金融機関に印をつけておきます。
このメモがあれば、決算前の「うちのお金はどこにいくら」という疑問に、すぐ答えられます。また、運転資金の置き場所が決まれば、あとは売上をつくる時間に使えます。新しい取引先への提案も、手元のお金の見通しが立っているほうが、腰を据えて動けます。
守りの確認は、通帳を並べるだけで足ります。そのぶんの時間は、営業に回しましょう。
会社の資産をどう守るかの全体像は、資産運用コーナーの入口の記事にまとめています。
「資産運用コーナー」の歩き方。社長の「備え」から考える、無理なく続ける資金づくり
ほかのコラムも、あわせてどうぞ
お金の学び(ウハウハ高等学校):投資のリスクとは?「危険」ではなく「ブレ幅」のこと|校庭のブランコで学ぶ
営業・販路のコラム:コミッターズ コラム
筆者の記事:川口忠大のnote
蓄電池を知る(ENERGY BANK):系統用蓄電池の低圧・高圧比較|法人が費用と接続条件で選ぶ方法
導入先を比べる:系統用蓄電池メーカー比較|法人が製品・導入支援・保守を同じ条件で見る方法
お金の面を読む:系統用蓄電池の充電コストを読む|調達契約と託送料金
情報サイトのトップ:ENERGY BANK(系統用蓄電池の情報サイト)
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):預金保険機構、預金保険機構(2)、預金保険機構(3)、金融庁
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
会社の現場の工夫や取り組みは、みんなの企業新聞の記事「経営者マッチングアプリをやめる・見直すタイミング」でも紹介しています。あわせてご覧ください。
