会社の口座に、少しずつお金が貯まってきました。寝かせておくのも気が引けて、つい「法人NISA」と検索したくなります。そして、そんな夜が、社長にはあります。
実は、意外な事実があります。法人NISAという選択肢は、そもそもありません。つまり、口座を持てるのは、日本に住む18歳以上の個人だけです。さらに、iDeCoも、個人向け国債も、原則として個人のための制度です。
この記事では、2026年10月時点の公的な情報で、お金の置き場所を「誰の名義か」で整理します。また、会社のお金を社長個人へ移すときの線引きと、会社の預金が守られる範囲もあわせて確認します。なお、特定の商品のおすすめは書きません。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
法人NISAは作れない、先に結論
- 法人NISAは存在しません。NISAは、日本に住む18歳以上の個人の制度で、会社(法人)の名義では口座を作れません。
- iDeCoは個人の制度です。また、個人向け国債も、原則として個人だけが買えます。
- 一方、会社の預金は、法人でも預金保険の対象です。当座預金や利息のつかない普通預金などは全額、定期預金や利息のつく普通預金などは、1金融機関ごとに元本1,000万円とその利息までが保護の線です。
- ただし、会社のお金を社長個人の口座へ移すには、「何のお金か」が要ります。役員報酬なのか、別のものなのか。そのため、先に決めてから動かします。
個人の置き場所:NISAとiDeCoの数字
まず、NISAは、株式や投資信託などで得た売却益や配当が、非課税になる制度です。根拠は租税特別措置法で、「所得税を課さない」と書かれています。会社は法人税の世界の住人なので、この制度の外にいます。法人NISAが存在しないのは、そのためです。
では、2026年10月時点の主な数字は、次のとおりです(金融庁)。
- 年間の投資上限:つみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円。合わせて年360万円
- 生涯の非課税保有限度額:1,800万円(成長投資枠は、その中の1,200万円まで)
- 非課税の期間は無期限。口座は1人1口座
- 売却すると、翌年以降、売った分の取得金額(簿価)だけ枠が復活
- NISA口座の損失は、ほかの口座の利益と通算できない(国税庁)
- 国債や地方債は、NISAの対象外
たとえば、毎月5万円ずつなら年60万円です。そのため、生涯の枠1,800万円に届くまで、単純計算で30年かかります(運用の増減は考えない計算です)。つまり、枠を使い切れるかより、毎月いくら出せるかのほうが、現実の問題になります。
なお、2027年1月からは、つみたて投資枠に限って、0歳から17歳の未成年も口座を作れるようになります(金融庁)。ただし、これも個人の口座で、会社名義にはなりません。
iDeCoは法人NISAの代わりになるのか
次に、iDeCoは、老後のための個人の年金制度です。
- 掛金は月5,000円から、1,000円単位で決めます
- 掛金は全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象です
- 原則として60歳になるまで引き出せません。会社の資金繰りには使えません
- 手数料がかかります。商品によっては、元本を下回ることもあります
また、掛金の上限は、立場で決まります。社長が会社の厚生年金に入っていて、会社に企業年金がない場合は、月2.3万円です。個人事業主(国民年金の第1号)は、国民年金基金と合わせて月6.8万円です。
そして、この上限が、2026年12月分(2027年1月の引き落とし分)の掛金から上がります。企業年金がない会社員・役員は月6.2万円、個人事業主は国民年金基金と合わせて月7.5万円です(厚生労働省)。なお、掛金を変えたい場合は、手続きが必要です。
法人NISAがない代わりに、会社のお金を個人の口座へ移す前に
まず、会社のお金は、会社のものです。社長のお財布とは別です。社長個人のNISAやiDeCoの元手にするなら、まず役員報酬など、個人のお金にする必要があります。
次に、役員への給与は、決まった形でないと、原則として会社の経費になりません。国税庁によると、定期同額給与(毎月同額)、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも当たらないものは、損金に入らないとされています。
たとえば、決算前に「今期は利益が出たから、社長に臨時で100万円」と送金したとします(仮の例です)。毎月同額でも、届出のある賞与でもなければ、会社の経費として認められない場合があります。経費にならなければ、会社の利益が増え、税金も増えます。
線引きを並べると、こうなります。
- 問題になりにくい方向:決めた役員報酬を毎月同額で払い、社長が個人の口座から、個人の名義で運用する
- 危ない方向:会社の口座から社長個人の証券口座へ、理由も書類もない送金をする
役員報酬の決め方は、こちらの記事にあります。
社長の給料、気分で上げると損をする。役員報酬は「年1回」のイベントです
会社のお金が個人の制度に入る、正式な道
会社のお金が個人の制度に入る、正式な道もあります。iDeCo+(イデコプラス)、正式には中小事業主掛金納付制度です。企業年金がなく、厚生年金に入っている従業員が300人以下の会社の事業主が、iDeCoに入っている従業員の掛金に上乗せできます。事業主掛金は、全額が損金になります。従業員の老後を支える仕組みとして作られた制度なので、導入の条件と手続きは、iDeCo公式サイトで確認してください。
会社の名義で株や投資信託を買うなら
では、会社の名義で株や投資信託を買うのはどうでしょうか。禁止されてはいません。ただし、NISAのような非課税の枠はありません。売って出た利益は、会社の利益として、法人税の計算に入ります(国税庁)。
会社の預金は、1,000万円の線を知る
会社の現金の置き場所として、いちばん身近なのは預金です。預金保険制度は、万が一、金融機関が破綻したときに、預金者を守る仕組みです。
- 決済用預金(当座預金や、利息のつかない普通預金など):全額が保護されます
- 一般預金等(定期預金や、利息のつく普通預金など):預金者1人あたり、1金融機関ごとに合算して、元本1,000万円と破綻日までの利息等が保護されます
- 1,000万円を超える部分:破綻した金融機関の残余財産の状況に応じて支払われます。一部支払われない可能性があります
会社の口座も、対象です。預金保険機構のよくある質問によると、1法人が1預金者として扱われます。会社名義の預金と、社長個人の預金は、それぞれ別の預金者で、合算されません。一方、個人事業主の事業用の預金は、個人名義のほかの預金と合算されます。
1,500万円を預けた場合の仮の例
たとえば、会社が同じ銀行の定期預金に1,500万円を預けているとします(仮の例です)。保護の線は、元本1,000万円とその利息等までです。残る500万円は、一部支払われない可能性があります。保護の線は金融機関ごとなので、置き場所を分けるという考え方もあります。
外貨預金、譲渡性預金、無記名預金、他人名義・架空名義の預金などは、保護の対象外です。どの預金が決済用預金に当たるかは、商品ごとに違います。金融庁も、個別の商品は金融機関の窓口で確認するよう案内しています。
個人向け国債は、原則として個人だけが買える国債です(財務省)。会社の名義では、原則として買えません。
預金のほかに保険や投資も並べて、置き場所ごとに破綻したときの保護の仕組みが別々であることを整理した記事として、「お金の置き場所を選ぶチェック項目(預貯金・保険・投資)」があります。使う時期、元本の扱い、手数料、引き出しやすさなど、選ぶときに確かめる項目が一覧になっています。
出典:コツコツおかね村「お金の置き場所を選ぶチェック項目(預貯金・保険・投資)」
法人NISAの前に、今日からできる最初の一歩
運用の前に、まず手元のお金を「固定費の何か月分」に直してみましょう。たとえば、月の固定費が80万円の会社なら、3か月分は240万円です(仮の例です)。売上が止まった月に、何か月持つかが分かります。先に確保したい現金の考え方は、こちらの記事にあります。
売上が落ちた年に社長を守る2つの共済。攻めの営業を止めない守りの順番
- 1会社の預金残高を、月の固定費で割る
- 2銀行ごとの残高を書き出し、預金の種類を窓口で確認する
- 3社長個人の運用は、役員報酬の範囲で、毎月いくら回せるかを決める
- 4顧問税理士に、お金の移し方を確認する
金融機関の窓口に行く前も、公式ページを読んでから行くと、話が早く進みます。営業の数字を見直すときと同じ手順です。
ほかのコラムも、あわせてどうぞ
お金の学び(ウハウハ高等学校):投資のリスクとは?「危険」ではなく「ブレ幅」のこと|校庭のブランコで学ぶ
営業・販路のコラム:コミッターズ コラム
筆者の記事:川口忠大のnote
蓄電池を知る(ENERGY BANK):系統用蓄電池の低圧・高圧比較|法人が費用と接続条件で選ぶ方法
導入先を比べる:系統用蓄電池メーカー比較|法人が製品・導入支援・保守を同じ条件で見る方法
お金の面を読む:系統用蓄電池の充電コストを読む|調達契約と託送料金
情報サイトのトップ:ENERGY BANK(系統用蓄電池の情報サイト)
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):金融庁、国税庁、e-Gov法令検索、厚生労働省、金融庁(2)、預金保険機構
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
会社の現場の工夫や取り組みは、みんなの企業新聞の記事「無料の経営者マッチングサイトでできること・できないこと」でも紹介しています。あわせてご覧ください。
