保険の見積もりが2通届きました。法人契約と個人契約を比べると、契約者の欄が、1通は会社、もう1通は社長個人です。保険料は同じくらいなのに、説明の最後の1行だけが違います。「受取人は、どなたにしますか」。
実は、生命保険の税金や経理の扱いは、保険の名前より先に、3つの名前で決まります。保険料を払う人、保険の対象になる人、保険金を受け取る人です。同じ死亡保険金でも、受け取る人が変わるだけで、所得税、相続税、贈与税のどれかに変わります。
この記事では、2026年10月時点の国税庁の情報をもとに、法人契約と個人契約の違いを、仕組みだけ整理します。なお、どの保険に入るべきかは書きません。見積もりの契約者欄を見るときの、ものさしを持ち帰ってください。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
法人契約と個人契約の違い、先に結論
- 法人契約と個人契約のどちらでも、見るのは3つです。保険料を払う人、保険の対象になる人(被保険者)、保険金を受け取る人。
- 個人契約は、保険料が所得税の生命保険料控除の対象です。また、死亡保険金は、3人の組み合わせで税金の種類が決まります。
- 法人契約は、保険料の経理が保険の種類と受取人で変わります。ただし、「全額経費」とは限りません。
- 会社が保険料を払っても、受取人が本人や家族だと、その保険料が社長への給与として扱われる場合があります。
- つまり、ここに書くのは仕組みです。入るかどうか、いくら掛けるかは、顧問税理士や保険の専門家に確認してください。
個人契約:死亡保険金は3パターン、保険料は所得控除
国税庁のタックスアンサー(コード1750)では、死亡保険金にかかる税金は、被保険者、保険料を負担した人、保険金の受取人が誰かで、次の3つに分かれます。
- 保険料を負担した人と、受取人が同じ:所得税(一時金で受け取ると一時所得)
- 被保険者と、保険料を負担した人が同じ:相続税(受取人が相続人なら、相続で取得したものとみなされます)
- 3人とも別の人:贈与税
たとえば、社長が自分に保険をかけ、保険料も自分で払い、受取人を家族にした場合は、2番目です。相続税の対象になります。ただし、受取人が相続人なら、非課税の枠があります。
死亡保険金の非課税の枠
非課税限度額は「500万円×法定相続人の数」です(コード4114)。たとえば、法定相続人が配偶者と子2人の3人なら、500万円×3人で1,500万円です(仮の例です)。相続人全員が受け取った死亡保険金の合計が、この額を超えた部分が、相続税の課税対象になります。一方、相続人以外の人が受け取った死亡保険金には、この枠が使えません。
さらに、3番目の贈与税は、見落としやすいパターンです。払う人、対象の人、受け取る人が全員別だと、税金の種類が変わります。そのため、契約するときに、3つの名前をそろえて確認しておくと安心です。
個人契約の保険料は、生命保険料控除の対象
次に、保険料の側を見ます。個人で払った保険料は、所得税の生命保険料控除(所得控除)の対象です。2012年1月1日以後に結んだ契約(新契約)の控除額は、次のとおりです(コード1140、令和8年4月1日現在)。
- 年間の支払保険料が2万円以下:全額
- 2万円超4万円以下:支払保険料×1/2+1万円
- 4万円超8万円以下:支払保険料×1/4+2万円
- 8万円超:一律4万円
保険は、一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の3つに分かれます。そして、控除額の合計は、最高12万円です。たとえば、一般の生命保険料が年10万円なら、控除額は4万円です(仮の例です)。つまり、8万円を超えた分は、控除額が増えません。
なお、2026年分からは、23歳未満の扶養親族がいる場合、新契約の一般の生命保険料の控除が最高6万円になります。合計の上限は12万円のままです。2011年12月31日以前に結んだ契約(旧契約)は、計算が別です。
ただし、注意したいのは、これが個人で払った保険料の話だということです。会社が払った保険料は、原則として、社長の生命保険料控除の対象になりません。例外は、次に出てくる「給与として扱われた保険料」です。
法人契約:保険料の経理は「種類」と「受取人」で変わる
会社が契約者になり、役員や従業員を被保険者にした場合の保険料は、2019年7月8日以後に結んだ契約について、国税庁の案内で次のように整理されています(コード5363、5364、5364-2)。
- 養老保険(満期か死亡で保険金が出る保険)で、受取人が会社:保険料は資産に計上します。つまり、保険が終わるまで、損金になりません。
- 養老保険で、受取人が被保険者かその遺族:保険料は、その役員や従業員への給与です。
- 掛け捨ての定期保険や、医療保険などの第三分野保険:原則として、期間の経過に応じて損金になります。
- 保険期間が3年以上で、最高解約返戻率が50%を超える定期保険など:保険料の一部を、一定の期間、資産に計上します。
最高解約返戻率とは、払った保険料に対して、解約したときに戻る金額の割合のうち、保険期間中でいちばん高い割合のことです。
つまり、「経費になる」と説明された保険でも、中身は資産計上だったり、給与だったりします。契約の前に、「この保険料は、決算でどの扱いになりますか」と税理士に聞くのが近道です。2019年7月8日より前に結んだ契約は、取扱いが別です。
意外な落とし穴:会社が払っても「社長の給与」になる
定期保険や第三分野保険で、受取人が被保険者かその遺族の場合、役員や部課長などの特定の人だけを被保険者にしていると、保険料はその人への給与として扱われます(コード5364)。
仮の例です。従業員3人の会社が、社長だけを被保険者にした定期保険に入り、受取人を社長の妻にしたとします。この保険料は、会社の保険料というより、社長への給与として扱われます。
会社が毎月払い続ける保険料なら、毎月ほぼ同じ額の経済的な利益になるので、定期同額給与として扱われます。そして給与として扱われた保険料は、社長の生命保険料控除の対象にもなります(コード5363)。ただし、役員報酬の一部になるので、報酬の決め方とあわせて考える必要があります。役員報酬の年1回の見直しは、こちらの記事にあります。
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会社が受取人の場合は、受け取った保険金が、会社の収入になります。さらに、法人税の計算に入るので、「保険金が入った分が、そのまま会社の手取り」にはなりません。また、社長に万一のことがあったとき、会社が受け取ったお金を遺族にどう渡すかは、別の話です。加えて、会社が決めて払う金額が高すぎると、経費にならないことがあります。
法人契約と個人契約を見分ける、確認ポイントと危ないサイン
線引きは、「ルールどおりに処理されているか」と「実態と合っているか」です。特に、次のような場面は、立ち止まって確認しましょう。
- 「全額経費で落ちます」とだけ説明され、資産計上や給与の話が出ない
- 被保険者と受取人の組み合わせを、決算のあとで考えている
- 保険料が毎月の固定費として重く、資金繰りを圧迫している
経費になることは、保険に入る理由のひとつにはなっても、全部ではありません。保険料は、毎月出ていくお金です。そのため、売上が落ちた年にも、払い続けられる額かどうかを、先に確かめましょう。先に確保したい現金の考え方は、こちらの記事にあります。
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法人契約と個人契約を整理する、今日からできる最初の一歩
保険証券(または契約内容のお知らせ)を出して、次の順に進めます。
- 1まず、「契約者」「被保険者」「受取人」の3つを、紙に書き出す
- 2次に、それぞれが、会社、社長、家族のどれかを書き込む
- 3さらに、法人契約なら、保険の種類(養老、定期、医療など)も書き足す
- 4最後に、その紙を顧問税理士に見せて、「この保険料は、決算でどう処理されますか」と聞く
実は、営業でも、注文する人、払う人、使う人が別のことはよくあります。見積書の宛名と請求先が同じかを、先に確認する習慣にもつながります。このように、法人契約と個人契約を見分けるときの、3つの名前を並べて見る癖は、保険にも営業にも使えます。
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参考(外部サイト):国税庁、国税庁(2)、国税庁(3)、国税庁(4)、国税庁(5)、国税庁(6)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
会社の現場の工夫や取り組みは、みんなの企業新聞の記事「経営者マッチングサイトで失敗する5つのパターンと回避法」でも紹介しています。あわせてご覧ください。
