11月に入ると、社長のスマホに「忘年会、今年はどこにします?」というメッセージが届きます。店を決めて、人数を数えて、会社のカードで払う。ここまでは毎年のことです。困るのは、帳簿をつけるときです。「この3万円、福利厚生費でいいんだっけ。交際費だっけ」。
意外なことに、国税庁のタックスアンサーの「交際費等と福利厚生費との区分」のページには、「忘年会」という言葉は出てきません。判断の材料になるのは、「専ら従業員の慰安のため」「おおむね一律」「通常要する費用」といった言葉です。つまり、忘年会という名前ではなく、誰を対象にして、いくらかけたかで決まります。
この記事では、2026年10月時点の国税庁の資料をもとに、忘年会の費用が福利厚生費になりやすい形と、交際費や給与になる形を、仮の例で判定します。欠席した人に現金を渡す話と、記録の残し方も書きました。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論
- 従業員の慰安のために、全員を対象にして、ふつうの額で行う忘年会は、福利厚生費として扱われやすい形です。
- 一部の人だけの会や、ふつうより高い会は、交際費に当たる可能性が高くなります。
- 「1人1万円以下なら交際費から外せる」ルールは、社外の人との飲食のためのものです。社内の人だけの飲食には使えません。
- 欠席した人に代わりの現金を渡すと、その現金は給与として課税されます。
- 役員だけで行う会は、所得税で「課税しなくて差し支えない」とされる扱いの対象外です。
迷ったら、「全員に声をかけたか」「ふつうの額か」の2つを先に確かめます。
福利厚生費になりやすい3つの条件
国税庁のタックスアンサー(No.5261、令和8年4月1日現在法令等)では、専ら従業員の慰安のために行う運動会、演芸会、旅行などに通常要する費用は、交際費等から除かれるとしています。社内行事での飲食についても、従業員におおむね一律に供与される通常の飲食費は、福利厚生費になるとしています。
ここから、忘年会を見るときの条件を3つに分けます。
- 1対象:従業員の慰安のための会で、全員に声をかけている
- 2中身:一部の人だけが得をする形ではなく、おおむね一律
- 3金額:その会社にとって、ふつうの範囲の額
3つ目の「ふつうの額」には、国税庁の資料に何円という数字は書かれていません。高級店で1人何万円もかかる会は、「通常要する費用」から外れていくと考えるのが自然です。
所得税の側からも、同じ方向の考え方があります。所得税基本通達36-30では、会社が負担する、社会通念上一般的なレクリエーション行事(会食、旅行、演芸会、運動会など)の費用は、従業員に給与として課税しなくて差し支えないとしています。ここにも例外があり、次の章で扱います。
仮の例で見ます。従業員6人の設計事務所(仮の例です)が、12月の金曜日に全員へ声をかけ、居酒屋で忘年会を開いたとします。参加は社長を含めて7人、費用は1人5,000円で合計35,000円(仮の数字)です。全員が対象で、額もふつうの範囲なので、福利厚生費として扱われやすい形です。
交際費や給与になるのは、こんなとき
同じ忘年会でも、形が変わると扱いが変わります。
- 二次会に、社長と仲のよい2人だけで行った:全員が対象ではないので、おおむね一律から外れやすく、交際費に当たる可能性が高くなります。
- 取引先の担当者を招いた:社外の人を接待する会になるので、交際費の話になります。
- 1人3万円のコースにした:ふつうの額を超えると見られれば、交際費に当たる可能性があります。
- 役員だけで開いた:所得税基本通達36-30の「課税しなくて差し支えない」は、役員だけを対象にした行事を除いています。
もう1つ、見落としやすいのが、欠席者への現金です。先ほどの事務所で、子どもの行事で来られなかった1人に「代わりに5,000円どうぞ」と渡したとします。気持ちとしては自然です。ただ、通達36-30の注書きでは、行事に参加しなかった人に渡す金銭は、給与等として課税するとしています。業務の都合で来られなかった人に渡す場合も同じです。
さらに、自分の都合で欠席した人に、参加の代わりとして現金を渡す場合は、参加した人が受けた分についても、「課税しなくて差し支えない」の対象から外れる書き方になっています。気持ちの5,000円で、ほかの6人分まで話がややこしくなるおそれがあります。欠席した人には、現金ではなく、次の会への参加を呼びかけるほうが無難です。
なお、交際費になった場合でも、すぐに損になるわけではありません。資本金1億円以下などの会社には、交際費を年800万円(事業年度の月数で按分)まで損金にできる枠があります(タックスアンサーNo.5265)。従業員10人くらいの会社なら、この枠に収まることが多いはずです。ただし、交際費になると、勘定科目と記録の付け方が変わります。
「1人1万円以下ならOK」は、社内の会には使えません
社長の頭に浮かびやすいのが、「1人1万円以下なら交際費にならない」というルールです。国税庁のタックスアンサー(No.5265)によると、飲食費のうち1人あたり10,000円以下のものは、日時や参加者などを書いた書類を保存していれば、交際費等から除かれます(2024年3月31日以前の支出は5,000円以下でした)。
ところが、このルールには除外があります。専らその会社の役員や従業員、その親族のために支出する飲食費、いわゆる社内飲食費は、対象になりません。社内の人だけの忘年会は、1人1万円以下でも、このルールでは交際費から外せないということです。社内の会は、先ほどの「全員・一律・ふつうの額」で福利厚生費になるかを見る、という順番になります。
逆に、取引先を招いた忘年会は、社外の人が参加しているので、社内飲食費には当たりません。国税庁のQ&Aでは、得意先の人を形だけ参加させているような場合は社内飲食費に当たることがある、ともしています。名目だけの招待は通りません。
二次会についても、国税庁のQ&Aに考え方があります。一次会と二次会が別々の行為と認められれば、それぞれで1人あたりの額を判定し、一体の行為と認められれば、全体で判定します。社外の人との会で二次会まで行く場合は、この点も記録に残しておきます。
社外の人との飲食の細かいルールは、こちらの記事にあります。
社長の焼肉は会議費?交際費?税務署が見ているのは「肉」ではなく「メモ」だった
忘年会の前と後にやること
当日に慌てないよう、流れを決めておきます。
- 1声かけ:全員に同じ文面で日時と場所を伝える(パートやアルバイトを含めるかも決めておく)
- 2予算:1人あたりの目安を決める(その会社にとってふつうの額)
- 3支払い:会社のカードか、会社名の領収書でもらう
- 4記録:日付、店名、参加者の名前と人数、合計額、会の目的(従業員の慰安)をメモする
- 5二次会:全員参加でないなら、社長個人の負担にするか、交際費として分けて処理する
- 6欠席者:現金は渡さない。渡したなら給与として処理する
記録のチェックリストも置いておきます。
- 領収書の宛名と日付
- 参加者の名前(社外の人がいれば、会社名も)
- 全員に声をかけた文面(チャットの画面でもよい)
- 一次会と二次会を分けた金額
記録の残し方は、こちらの記事でも詳しく書いています。
会食と出張の領収書を、次の商談につなげる記録に変える保存版メモ術
ただし、例外もあります。社長1人と、役員になっている家族だけの会社では、「従業員の慰安」という前提が成り立ちにくくなります。個人事業主の場合は、所得税の必要経費として考えることになり、家族だけの会は家事費(私生活の費用)と見られるおそれがあります。こうした会社や事業者の扱いは、顧問税理士に確認してください。
今日からできる最初の一歩
今年の忘年会の案内を出す前に、「全員に同じ文面で声をかける」「1人あたりの目安を決める」の2つだけ決めておきます。それだけで、帳簿をつけるときに迷う場面が減ります。
もう1つ、忘年会は1年の営業を振り返るよい機会でもあります。乾杯の前の5分で、「今年いちばん売れた商品」と「来年もう1社増やしたい取引先」を、全員で1つずつ挙げてみてください。福利厚生費のメモに書く「会の目的」も、ずいぶん中身のあるものになります。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):国税庁、国税庁(2)、国税庁(3)、国税庁(4)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。