年末セールの値札を作っていて、手が止まります。二重価格表示で、「通常価格2,400円、セール価格1,980円」と書きたいのですが、この「通常価格」は、いつの値段なら書いてよいのでしょうか。
じつは、二重価格表示で「通常価格」と書くと、お客様は「セール前もしばらく、その値段で売っていた」と受け取ります。消費者庁の指針は、その「しばらく」の目安を、セール開始からさかのぼって8週間のうち、過半の期間としています。去年の値段や、仕入れ先の価格表にある値段を書けばよい、という話ではありません。
この記事では、二重価格表示の8週間の数え方を、日付つきの例で見ていきます。また、仕入れ先の「上代」を値札に書いてよいかも、あわせて整理します。2026年10月時点のルールです。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
二重価格表示の先に結論:「通常価格」は、セール前8週間の過半で売った値段
まず、景品表示法は、実際よりも著しく有利だと、お客様に誤認させる価格表示を禁止しています(第5条第2号)。「通常価格」「当店通常価格」を比べて見せる二重価格表示も、この対象です。
つぎに、消費者庁の指針「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」には、次の目安が書かれています。
- セール開始時点から、さかのぼって8週間を見ます
- その価格で売っていた期間が、その商品を売っていた期間の過半なら、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とみてよいとされています
- ただし、その価格で売った期間が通算2週間未満なら、あてはまりません
- ただし、その価格で最後に売った日から2週間以上たっているときも、あてはまりません
ただし、あくまで目安です。指針も、最終的には個々のケースごとに判断する、と書いています。また、指針が対象にしているのは、一般のお客様に向けた価格表示です。
二重価格表示を日付つきで判定:セール初日は12月18日(仮の例)
たとえば、マグカップ(仮の商品です)を、2026年12月18日(金)から1,980円のセールにするとします。通常価格として書きたいのは、2,400円です。
セール初日から8週間(56日)さかのぼると、10月23日です。10月23日から12月17日までが、見る範囲になります。つまり、56日の過半は、29日以上です。
3つの場合で判定する
では、3つの場合で見てみます。
- 12,400円で10月23日から12月10日まで売り、12月11日から値下げしていた場合:2,400円の期間は49日で、過半です。最後に2,400円で売った12月10日は、セール初日の8日前です。指針の目安を満たします。
- 22,400円で10月23日から11月30日まで売り、12月1日から値下げしていた場合:2,400円の期間は39日で、過半です。ただし、最後に売った11月30日から、セール初日まで18日あいています。2週間以上たっているので、「通常価格」とは書けません。
- 32,400円で10月23日から11月14日まで売り、11月15日から値下げしていた場合:2,400円の期間は23日です。過半に届かないので、「通常価格」とは書けません。
つまり、2番と3番のように書けない場合の逃げ道は、指針に示されています。その価格が、いつの時点で、どのくらいの期間売っていた価格なのかを、正確に書くことです。たとえば「10月23日から11月30日までの販売価格 2,400円」です。この場合、「通常価格」という名前は避けます。
ただし、例外があります。セール実施の決定後に売り始めた商品は、期間を正確に書いても、不当表示のおそれがあります。セール前の価格が、比べるための実績作りとみられるからです。年末セール用の新商品で、先に高い値段をつけて少しだけ売っておく、という手は使えません。
二重価格表示の判定手順
では、判定の手順です。
- 1セール初日を決めます
- 2その日から56日さかのぼります
- 3商品ごとに、値札を変えた日の記録を見ます
- 4通常価格で売った日数を数えます(目安は、売っていた期間の過半で、通算2週間以上)
- 5最後に通常価格で売った日が、セール初日から2週間以内かを確かめます
- 6どれかがあてはまらなければ、書き方を変えます
モノ商材の仕入れや売り方についての相談は、令和の総合商社で受け付けています。 お問い合わせページからご相談ください。
二重価格表示ができないときの書き方
まず、書けないとわかったときは、値札の書き方を変えれば足ります。
- 比べる価格を書かず、「セール価格1,980円」とだけ書きます。そのため、比較する価格がなければ、二重価格表示にはなりません
- 売っていた期間を添えて、「10月23日から11月30日までの販売価格 2,400円」と書きます
- 「1月5日から2,400円に戻ります」と書くなら、本当に戻します。実際には売らない価格や、ごく短期間しか売らない価格を使うと、不当表示のおそれがあります
- また、昔の「定価」も、二重価格表示では同じ扱いです。指針の事例には、販売開始時の価格で、4年前に売るのをやめていたものを「定価」と書いた例があります
割引率や「全品」の表示
割引率の表示も、考え方は二重価格表示と同じです。「3割引」「半額」と書くときに、もとになる価格が実際と違えば、同じ扱いになります。指針の事例には、値札をセール直前に引き上げてから、そこから3割引と表示した例があります。
さらに、「全品5割引」のような一括の表示にも、気をつけてください。一部の商品しか対象でないのに、そのことを書かずに全品のように見せると、問題になります。対象の商品の範囲と条件は、はっきり書いておきましょう。
仕入れ先の「上代」は、「メーカー希望小売価格」と書いてよい?
問屋さんの価格表には、「上代」や「参考上代」の列があります。では、この数字を、値札に「メーカー希望小売価格」として書いてよいのでしょうか。指針には、次の考え方が示されています。
- メーカーなどが設定して、あらかじめカタログなどで公表している価格なら、希望小売価格として比べて見せられます
- 公表されているとはいえない価格を「希望小売価格」と称して使うと、不当表示のおそれがあります
- 「参考上代」のように、小売店にだけ示している価格は、カタログなどで取り扱う小売店に広く示されているなら、比べて見せること自体は可能です。ただし、「希望小売価格」とは別の名前を使うなど、お客様が誤解しない書き方にします
- 商談のときに、問い合わせてきた一部のお店にだけ個別に伝えた価格は、「広く示されている」には含まれません
上代を二重価格表示に使う前の確認
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たとえば、輸入雑貨の問屋さんの見積書にだけ、「上代3,000円」と書かれていたとします(仮の例です)。この数字を、「メーカー希望小売価格3,000円」として値札に書くのは、避けたほうが安全です。
確かめる方法は、簡単です。まず、問屋さんに「この上代は、カタログや公式サイトで公表していますか」と聞きます。次に、公表されていれば、そのカタログや掲載ページを保存しておきます。一方、公表していないなら、比べる価格として使わず、自社の販売価格だけを書きます。
二重価格表示の注意点:違反するとどうなる?
景品表示法に違反する表示があると、内閣総理大臣(実際の窓口は消費者庁です)は、措置命令を出せます(第7条)。つまり、表示の差止めや、再び行われないようにするために必要な事項などを命じるものです。この命令には、売上の金額による線引きはありません。
課徴金の目安
さらに、課徴金の制度があります(第8条)。対象になった商品の売上額に3%をかけた額が課徴金で、その額が150万円未満なら、納付は命じられません。150万円÷3%=5,000万円ですから、対象の商品の売上が5,000万円に満たなければ、課徴金は命じられないことになります。ただし、これは課徴金の話だけです。なお、措置命令は、別に出されます。
また、「ルールを知らなかった」だけでは足りません。課徴金を命じられない場合は、知らなかったことについて、相当の注意を怠っていないと認められるときです。値札の履歴を残しておくことは、そのための備えのひとつになります。
なお、例外もあります。指針は、一定の営業時間だけ値下げする「タイムサービス」で、当初の表示価格と並べて見せる場合は、通常は不当表示のおそれはない、としています。たとえば夕方5時から値下げ、という売り方なら、朝の値段をそのまま比べて見せられます。
景品表示法は、価格だけでなく、品質の表示も対象にしています。「環境にやさしい」と書く場合の考え方は、こちらの記事にあります。
「環境にやさしい」と書く前に。SDGsウォッシュと景品表示法の、ゆるくて怖い関係
二重価格表示を避ける、今日からできる最初の一歩
まず、商品ごとに、値札を変えた日の記録を残してください。スプレッドシートで足ります。1行に、商品名、価格、その価格にした日の3つを書きます。セール初日が決まったら、その56日前の日付に印をつけます。それだけで、「通常価格」と書けるかどうかが、数分でわかります。
さて、セールは、売れずに寝ている在庫を動かすきっかけにもなります。値下げの前に、その在庫をどのお店に持ち込めるかを考える方法は、こちらの記事に書いています。
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売上は立つのに現金が減る会社へ。在庫を週の営業件数に割る4つの手順と3つの数字
値下げしても売れ残った在庫が、決算でどう扱われるかは、こちらの記事で整理しています。評価損が認められる場面は、限られています。
仕入れた商品は「売れるまで」経費にならない。売れ残り在庫のホントのルール
値札は、お客様への約束です。書く前に、8週間を数えてみてください。この習慣は、年末セールだけでなく、年明けの福袋や春の在庫処分にも、そのまま使えます。
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運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):消費者庁、消費者庁(2)、e-Gov法令検索
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