海外の取引先から、英語のメールが届きます。「次の注文から、原産地証明書をつけてもらえますか」。社長は検索して、商工会議所で何かをもらうらしいと知り、とりあえず申請書を取り寄せます。ところが、届いた書類を見た相手から「これでは関税が下がりません」と返事が来る。輸出を始めたばかりの会社で、わりとよく起きるすれ違いです。
原因は、原産地証明書に2種類あることです。ひとつは、ただ「日本製です」と示す一般の証明書。もうひとつは、日本と相手国の経済連携協定(EPA)を使って、相手国の輸入の関税を下げるための証明です。しかも後者は、協定によって「誰が、どの形で証明するか」が違います。商工会議所の書類が要らない協定もあります。
この記事では、2026年10月時点の税関・経済産業省・外務省の資料をもとに、2種類の違い、協定ごとの証明の仕方、輸出する側が残しておく書類を整理します。食品に限らず、雑貨、工具、機械部品、化粧品、衣料など、商材や業種を問わず、日本で作った物を海外に売る会社に関係する話です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:相手が欲しいのは、たいてい「関税が下がるほう」です
外務省のEPAセミナー資料では、2種類を次のように分けています。
- 一般の原産地証明書(非特恵):各地の商工会議所が発給します。信用状の条件や通関などで使われ、相手国に制限はありません
- 特定原産地証明書(EPA用):日本商工会議所が指定発給機関です。EPAの特恵関税を使うためのもので、相手はEPAを結んでいる国に限られます
一般の証明書を出しても、相手国の関税は下がりません。取引先が「関税を下げたい」と言っているなら、EPA用の証明が必要です。最初の返信で「EPAを使いたいということですか。どの協定ですか」と聞き返すだけで、二度手間がかなり減ります。
もうひとつ大事なのは、EPAで得をするのは、まず相手の輸入者だという点です。関税を払うのは輸入する側なので、日本の会社の手元のお金は直接は変わりません。それでも、ここを整えておくと、相手にとっては同じ商品が安く仕入れられることになります。営業の材料として、かなり使える話です。
証明のしかたは3通り。協定ごとに決まっています
EPA用の証明には、大きく分けて次の3つの方式があります。
- 1第三者証明:日本商工会議所に申請して、原産地証明書を発給してもらいます
- 2認定輸出者:経済産業大臣の認定を受けた輸出者が、自分で原産地を申告します
- 3自己申告:輸出者や生産者(協定によっては輸入者)が、原産品だという申告書を自分で作ります
税関がまとめた一覧(2025年1月現在)では、協定ごとの使い分けはおおむね次のとおりです。
- 日EU協定、日英協定:第三者証明はなく、輸出者・生産者または輸入者の自己申告
- CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定):第三者証明はなく、輸出者・生産者の自己申告(輸入者の自己申告は一部の国のみ)
- 日米貿易協定:輸入者の自己申告のみ
- 日オーストラリア協定:第三者証明と自己申告の両方
- RCEP協定:第三者証明と認定輸出者。輸出者・生産者の自己申告は、オーストラリア、ニュージーランド、韓国向けに限り利用できます
- 日スイス、日ペルー、日メキシコ協定:第三者証明と認定輸出者
- その他の協定(東南アジアの国々との協定など):第三者証明のみ
自己申告の協定では、税関への事前の届出や登録は要らないと、税関の資料に書かれています。つまり、ヨーロッパやイギリスの取引先から「原産地の申告を」と頼まれたら、商工会議所の窓口に行く前に、自分で申告書を作る形かどうかを確かめるのが先です。
時期の話もひとつ。経済産業省は、第三者証明の原産地証明書を、紙ではなくPDFで発給する切り替えを進めています。2026年8月3日からは日ペルー協定、2026年9月7日からは日アセアン協定のタイ向けがPDF発給になりました。相手国での輸入の手続きは、その国の税関に確認するよう案内されています。
EPAの特恵関税を使う手順を、HSコードの特定から証明書の準備まで順に確かめたいときは、「貿易条件と関税の基礎は?輸出入の用語を質問で整理」という記事があります。経済産業省が5つの手順に整理した内容と、HSコードが関税率や原産地規則などを調べる手がかりになることが、質問と答えの形で説明されています。
出典:ひとっ飛び輸出部「貿易条件と関税の基礎は?輸出入の用語を質問で整理」
仮の例:キッチン用品メーカーに、欧州から問い合わせが来たら
従業員5人の金属製キッチン用品メーカー(仮の例)に、ヨーロッパの雑貨店から問い合わせが来たとします。
- 注文:鍋とフライパン、合計100万円分(仮)
- 相手の要望:「日EUのEPAを使いたいので、原産品だとわかる申告がほしい」
- 仮に、EPAを使わない場合の関税が5%だとすると、相手は5万円分の関税を払う計算です。EPAで税率が下がれば、その分だけ相手の仕入れが軽くなります(税率は品目と国で違うので、あくまで仮の数字です)
このメーカーがやることを、順番に並べるとこうなります。
- 1商品のHSコード(品目の分類番号)を確かめる
- 2日EU協定で、その品目が「原産品」と言える条件を確かめる
- 3材料と部品の一覧を作り、どこで作られた物かを書き出す
- 4条件を満たすと確認できたら、協定で決まった形で原産品申告書を作る
- 5申告書の写しと、確認に使った資料を保存する
ここで「原産品」の条件を少しだけ。税関の資料では、大きく次の3つに分かれています。
- 完全生産品:一国内で生産が完結する物(その国で育てた農産物など)
- 原産材料のみから作られた物:協定の国の原産材料だけで作った物
- 品目別の規則を満たす物:材料のHSコードが製品で一定以上変わる、付加価値が一定以上ある、決まった加工をした、のいずれか(品目ごとに決まっています)
「日本の工場で作ったから日本製」と、いつも言えるとは限りません。たとえば海外から買った部品を、日本で箱に詰め替えただけの場合は、品目別の規則を満たさないことがあります。
ただし:申告したら「あとから確認される」前提で
自己申告は手軽ですが、そのぶん責任は輸出する側に残ります。税関の資料が示す注意点は次のとおりです。
- 輸出者・生産者は、申告の内容が正しいことに責任を負います
- 申告書の写し、契約書、仕入書など、原産品だと示す書類を保存します。保存期間は、日EU協定と日英協定が作成の日から4年、日オーストラリア協定とCPTPPが5年です
- 輸入国から確認(検証)の問い合わせが来たら、情報を出す必要があります。協定によっては、書面での確認や、工場への訪問による確認もあります
- 質問や検査を拒んだり、うその内容を出したりすると、法律で罰則が決められています
税関は「輸出する貨物の原産性をよくご確認ください」と呼びかけています。実際に、確認の結果、原産品と認められなかった例があるためです。認められないと、相手が下がるはずだった関税をあとから払うことになり、取引の信頼に響きます。
迷ったときの相談先として、経済産業省には、EPAの利用(輸出)の相談を受け付ける「EPA相談デスク」が案内されています。品目別の規則の読み方は、自己判断で決めずに確認するのが安全です。
なお、EPAの証明と、日本で消費税をゼロにする輸出免税の書類は、まったく別の話です。輸出免税の証拠書類の順番は、こちらの記事にまとめています。
海外に売りたい小さな会社が、販路探しより先に整える免税と証拠書類の順番
今日からできる最初の一歩:主力商品1つで「関税が下がる国」を調べる
いきなり全商品を調べる必要はありません。売れ筋の商品を1つ選んで、次の3つだけ確かめてみてください。
- その商品のHSコード
- 売りたい国と日本の間に、EPAがあるか
- そのEPAで、関税がどのくらい下がるか
これがわかると、海外の商談で「この国向けなら、EPAを使えば輸入の関税が下がる可能性があります」と言えるようになります。値引きをしなくても、相手の仕入れの負担を軽くできる話なので、価格交渉の前に出せる材料になります。
海外の販売先を探す前に、国内で売り方の型を固めておく考え方は、こちらの記事にあります。
海外代理店は国内で型をつくってから。小さな会社が探す順番5つと型の4点セット
協定ごとの規則や手続きは改正されることがあります。実際に使うときは、税関の原産地規則のページ、日本商工会議所、経済産業省の案内で最新の内容を確認してください。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):税関、税関(2)、税関(3)、経済産業省、経済産業省(2)、官公庁
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。