海外の取引先から、取引基本契約書の案が届きました。日本の会社が使う雛形に、「準拠法は日本法とする」と1行入れて、これで日本の民法や商法で読めるはずだと、ひと安心。ありそうな場面です。
落とし穴は、日本が2009年8月1日から、ウィーン売買条約の締約国になっていることです。モノの売買で、相手の営業所が締約国にあるか、準拠法が締約国の法なら、この条約が適用されます。日本法を選んでも、日本は締約国なので、条約が適用されます。外したいときは、契約書に外すと書きます。
この記事では、2026年10月時点のルールとして、条約の基本、契約書で決める3つ、裁判と仲裁の「書面」の決まり、別の扱いになる場面を整理します。食品に限らず、雑貨、工具、部品、素材など、モノを海外へ売る話なら、商材や業種を問わず当てはまります。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:「日本法」と書いても、条約が適用されることがあります
- 契約の準拠法(どの国の法律で読むか)は、当事者が選べます(法の適用に関する通則法7条)。選ばなかったときは、最も密接な関係がある地の法になります(8条)
- モノの売買で、相手の営業所が締約国にある、または準拠法が締約国の法なら、ウィーン売買条約が適用されます(経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」)
- 条約は、当事者の特約が優先される任意規定です。適用しないと契約書に明記すれば、外せます
- 裁判所の合意は書面で(民事訴訟法3条の7)。仲裁の合意も書面で(仲裁法13条)
決めておくのは、次の3つです。準拠法、条約を使うか外すか、もめたときの場所です。
ウィーン売買条約とは。日本は2009年8月1日から締約国です
正式名称は「国際物品売買契約に関する国際連合条約」です。外務省の説明によると、国連の委員会が作り、1980年にウィーンで採択され、1988年1月1日に効力が生じました。日本は2008年7月1日に加入書を預け、2009年8月1日に、日本について効力が生じています。
締約国は、外務省の資料(2008年1月時点で70か国)に、米国、中国、韓国、オーストラリア、ドイツ、シンガポールなどが挙がっています。最新の締約国は、相手の国ごとに確認します。
適用されるのは、主に、異なる締約国に営業所がある企業どうしの売買です。消費者との取引には、原則として適用されません。
外務省の資料に挙がっている、条約の中身の例は次のとおりです。
- 契約が成立する時点:承諾が相手に届いたとき
- 申込みと承諾の内容の食い違い:違いが大きくなければ、契約は成立
- 契約の解除:重大な契約違反がある場合に限る
- 相手が違反しそうなとき:履行の期日の前でも、解除などの手段がある
日本の民法や商法と、同じ場面もあれば、違う場面もあります。どこが違うかは、契約を結ぶ前に、国際取引に詳しい弁護士と読み合わせるのが安全です。
仮の例で、3つの場合を比べます。従業員3人の工具メーカー(仮の例)が、相手の営業所が締約国にある海外の卸先へ、工具を売る契約です。
- 1準拠法も、条約も、契約書に書かれていない:経産省の準則では、日本の事業者が売主なら、日本法が準拠法になるだろうと書かれています。ただ、相手の営業所が締約国にあるので、条約が適用されます
- 2「準拠法は日本法」とだけ書いてある:日本は締約国なので、条約が適用されます
- 3「準拠法は日本法」と、「条約は適用しない」の両方が書いてある:条約は外れて、日本の民法や商法で読みます
契約書で決める3つ
1つ目は、準拠法です。日本法にするなら、「本契約には日本法を適用する」のような、短い一文で足ります。書いておかないと、通則法8条で、最も密接な関係がある地の法を探すことになります。選んでおけば、その議論をしなくて済みます。
2つ目は、条約を使うか外すかです。外すときの書き方は、経産省の準則に、次の条項例が載っています。
「国際物品売買契約に関する国際連合条約は本契約には適用されない。」
外務省は、条約の加入のメリットとして、どの国の法が適用されるかの不確実性が減ることを挙げています。外せば、日本の民法や商法で読めます。使えば、締約国どうしで共通のルールで読めます。どちらが合うかは、売る側か買う側か、相手の国、取引の中身で変わります。ここは弁護士と決めます。
3つ目は、もめたときの場所です。裁判所で争うのか、仲裁にするのか、どこの国で争うのかを決めます。次の章で書きます。
裁判か仲裁か。どちらも「書面」が条件です
裁判所の合意は、民事訴訟法3条の7で決まっています。
- 当事者は、合意で、どの国の裁判所に訴えられるかを決められます
- 合意は、一定の法律関係に基づく訴えについて、書面でしなければ効力が生じません
- 合意の内容を記録した電磁的記録(メールなど)でされたときは、書面とみなされます
- 外国の裁判所だけを指定した合意は、その裁判所が法律上または事実上、裁判できないときは使えません
経産省の準則には、条項例として「本契約に関する一切の訴訟については、東京地方裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする。」が載っています。
仲裁は、仲裁法で決まっています。
- 仲裁の合意も書面が必要です。当事者全員が署名した文書や、交換した書簡で足ります(13条2項)
- 電磁的記録による合意も、書面とみなされます(13条4項)
- 仲裁の合意の対象になる紛争で裁判所に訴えが出されると、被告の申立てがあれば、裁判所は訴えを却下します(14条)。ただし、仲裁の合意が無効なとき、被告が裁判で主張を述べたあとの申立てのときなどは別です
仲裁にするなら、どこで、どの機関のルールで行うかも書いておくと安心です。この部分も、弁護士と詰めます。
もう一つ、勝ったあとの話があります。判決や仲裁判断を、相手の国で実際に使えるか(執行できるか)は、別の確認が要ります。契約書を作る前に、弁護士に聞く項目に入れておきます。
例外・注意:条約や合意が使えない場面
- 海外の個人客(消費者)に売る場合:条約は、消費者との取引には原則として適用されません。通則法11条では、消費者契約で、事業者が日本法を選んでいても、消費者が自分の住む国の法の強行規定を適用すると事業者に伝えたときは、その強行規定も適用されます(例外もあります。11条6項)。管轄の合意にも、消費者契約の特則があります(民事訴訟法3条の7第5項)。越境ECで個人に売るなら、「日本法と書いてあるから安心」とは言えません
- サービスの契約:条約の名前は「国際物品売買契約」です。モノの売買が中心の条約なので、サービスだけの契約は、準拠法と、もめたときの場所の決め方が中心の話になります
- 契約書がなく、注文書やメールだけで進めている場合:管轄と仲裁は、書面か、それとみなされる記録が条件です。注文書やメールの定型文に、3つを入れておくか、基本契約書を先に結ぶ方法があります
- 相手から契約書案が来た場合:相手の国の法と、相手の国の裁判所が書かれていることがあります。まず、3つの条項だけ先に見て、そのまま受け入れてよいかを、弁護士に聞きます
海外の代理店に売ってもらう契約は、売買の契約とは別に、契約の型から決めます。型の3つは、こちらの記事にあります。
「代理店契約」のはずが、中身は「販売店」だった?契約の3つの型と、決めておくこと
今日からできる最初の一歩
手元にある契約書の案、雛形、注文書を開いて、次の3つがどこに書いてあるか、印をつけます。
- 1準拠法の条項(どの国の法律で読むか)
- 2条約の扱い(適用する、適用しない)
- 3もめたときの場所(裁判所か仲裁か、どこで)
書かれていなければ、「なし」と書いて、そのまま弁護士に持ち込みます。条項がない状態で見せるほうが、何を足すかの話が早く進みます。
営業の場面では、海外の取引先に最初の見積書や取引条件を出すとき、この3つを1枚にして添えます。契約の直前に切り出すより、最初から出しておくほうが、相手も社内で確認しやすくなります。海外の相手を探す順番は、こちらの記事にあります。
海外代理店は国内で型をつくってから。小さな会社が探す順番5つと型の4点セット
運営元:コミッターズ
令和の総合商社では、有形無形問わずに大手商社が行わないマーケティングで貴社の販路を開拓します。本気で販路を拡大したい方には60分間無料で相談に乗らせていただきます。
参考(外部サイト):官公庁、官公庁(2)、経済産業省、e-Gov法令検索、e-Gov法令検索(2)、e-Gov法令検索(3)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。