ある日、取引先からメールが届いたとします。「当社は排出削減目標を立てました。御社の電気とガソリンの使用量を、教えてください」。さて、小さな会社の社長は、何と返すでしょうか。取引先の排出削減目標は、遠い話に聞こえます。しかし、遠いのは最初だけかもしれません。
2026年10月9日、バリュエンスホールディングスが、温室効果ガス(GHG)の排出削減目標でSBT認定を取得したと発表しました。ただし、目標の対象は、自社の中だけではありません。バリューチェーン全体を見ています。
そこで、この記事では、その発表を例にします。取引先の排出削減目標が、小さな会社に何を意味するのかを整理します。なお、発表に書かれていないことは、書かれていないと断って進めます。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
取引先の排出削減目標、先に結論
結論から言うと、3つです。まず、大きな会社の目標は、自社の外側まで含むことがあります。次に、この発表には、小さな会社への義務は書かれていません。そして、先にできる準備は、電気と燃料の使用量を記録することです。
つまり、数字を出すより前に、まず手元の使用量を知ることが大切です。
取引先の排出削減目標の例:バリュエンスのSBT認定
まず、発表をした会社は、バリュエンスホールディングス(東京都港区)です。SBTiの基準への適合性が認められ、SBT認定を取得しました。
SBTiは、科学的根拠に基づく排出削減目標を支援する基準やツールを作る、国際的な組織です。また、SBTは、その科学的根拠に基づく目標のことです。さらに、同社は2022年9月に、SBTiへコミットメントレターを提出していました。
取引先の排出削減目標、数字の中身
目標は、2024年8月期を基準年にしています。つまり、基準年とは、減らした量を比べる起点の年のことです。発表の表には、次の4つが並んでいます。
- 短期目標(2030年8月期):Scope1・2を絶対量で73%削減
- 短期目標(2030年8月期):Scope3を絶対量で25%削減
- 長期目標(2050年8月期):Scope1・2・3を絶対量で90%削減
- ネットゼロ目標(2050年8月期):バリューチェーン全体で排出量ネットゼロ
なお、ネットゼロとは、排出量を90%以上削減したうえで、残る排出量を炭素除去などで中和することだと、同社は説明しています。
「絶対量」で削減するとは
たとえば、表には「絶対量で」という言葉があります。一般に、絶対量とは、排出の総量のことです。つまり、売上が増えても、総量で減らす約束になります。製品あたりや売上あたりの数字を、少し下げる話ではありません。
数字は、この会社の目標です
ただし、この数字は、あくまでこの会社が立てた目標です。ほかの会社が、同じ数字を掲げているわけではありません。つまり、取引先が変われば、目標も、聞かれることも変わります。
取引先の排出削減目標は、小さな会社にどう届く?
まず、Scopeは、排出の範囲を分ける言葉です。一般に、Scope1・2は自社の排出、Scope3は自社の外側の排出とされています。実際、バリュエンスの発表でも、Scope3とバリューチェーン全体が、目標の対象に入っています。
そこで、筆者の見立てです。外側の排出まで目標にした会社は、仕入先や取引先の数字も知りたくなるはずです。そのため、小さな会社に質問が届くことは、十分に考えられます。
一方で、発表には、取引先に何を求めるかは書かれていません。また、小さな会社に提出の義務があるとも書かれていません。ですから、「聞かれたら、すぐに出さなければならない」と、決めつける必要はありません。
同じ10月に設立された日本GHGセンターとは別の話
もう一つ、10月のニュースがあります。2026年10月1日、環境省が、「日本GHGセンター」が設立されたと発表しました。温室効果ガスの観測データと、科学的な知見を集めて発信する情報ハブです。
なお、設立と運営を担うのは、国立環境研究所、東京大学、広島大学、海洋研究開発機構、気象庁気象研究所、宇宙航空研究開発機構です。GOSATシリーズの観測データも、集められます。
ただし、発表には、会社が自社の排出量を計算する窓口とは書かれていません。つまり、取引先に出す数字の相談先ではなく、背景を知るための場所と考えるのが無難です。
取引先の排出削減目標に、どう返事をする?(仮の例)
たとえば、取引先から「御社の排出量を教えてください」と聞かれたとします(仮の例)。返事の例は、こうです。「現在、電気とガソリンの使用量を集めています。算定の方法は、貴社のご指定に合わせます。まとまり次第、お送りします」。
この返事には、3つの利点があります。まず、聞かれた内容を受け止めています。次に、できていない部分を、隠していません。そして、次の連絡の約束が入っています。
一方で、避けたい返事もあります。たとえば、根拠のない数字を出すこと、「ゼロです」と言い切ること、返事をしないことです。特に、根拠のない数字は、あとから訂正すると、信頼を損ないます。
取引先の排出削減目標が来る前に、今日できる最初の一歩
では、筆者なら何から始めるか。答えは、使用量を記録することです。別のサイトのちょいエコ部のコラム「会社がSDGsに取り組む最初の手順」では、環境省のガイドを引いて、「取り組む前に電気使用量や社員へのアンケートなどを記録しておくと、あとで結果を比べやすくなります」と書かれています。
このように、この考え方は、排出量の質問にも使えます。基準年を決めて比べる、というバリュエンスの方法と、同じ向きです。
中身を聞く
範囲を聞く
使用量を出す
分からない点
手順1と2:質問の中身と範囲を確認する
まず、取引先に、質問の目的を聞きます。次に、求められているのが、自社の電気やガソリンだけなのか、それ以外も含むのかを確かめます。そのため、範囲が分かれば、答える手間も見えてきます。
手順3と4:使用量を出し、分からない点は正直に伝える
たとえば、従業員が数人の内装会社に、取引先から質問票が届いたとします(仮の例)。まず、社長は、事務所の電気、ガス、営業車のガソリンの請求書を集めます。そして、直近の使用量を、一覧表に写します。
算定の細かい方法は、この記事の資料には書かれていません。そのため、取引先の指定の方法に従うか、専門家に確認するのが安全です。また、分からない項目を、推測で埋めてはいけません。「現在、把握中です」と答えたほうが、取引先の信頼を損ないません。
営業の目で見ると
実は、営業の目で見ると、この質問は、取引を続けたい会社として見られている合図でもあります。筆者の考えですが、聞かれて落ち着いて答えられる会社は、次の発注でも選ばれやすいはずです。
なお、「環境にやさしい」と書く側の注意点は、こちらの記事にまとめています。
「環境にやさしい」と書く前に。SDGsウォッシュと景品表示法の、ゆるくて怖い関係
また、SDGsコーナー全体の歩き方は、こちらです。
「SDGsコーナー」の歩き方。SDGsで事業がどう変わるかと、事業に合う取り組みの選び方
ほかのコラムも、あわせてどうぞ
お金の学び(ウハウハ高等学校):家の屋根の太陽光は、電気をいくらで売れる?2026年度の住宅用の買取価格
営業・販路のコラム:コミッターズ コラム
筆者の記事:川口忠大のnote
蓄電池を知る(ENERGY BANK):系統用蓄電池メーカー比較|法人が製品・導入支援・保守を同じ条件で見る方法
導入先を比べる:系統用蓄電池の低圧・高圧比較|法人が費用と接続条件で選ぶ方法
お金の面を読む:系統用蓄電池の充電コストを読む|調達契約と託送料金
情報サイトのトップ:ENERGY BANK(系統用蓄電池の情報サイト)
運営元:コミッターズ
令和の総合商社では、有形無形問わずに大手商社が行わないマーケティングで貴社の販路を開拓します。本気で販路を拡大したい方には60分間無料で相談に乗らせていただきます。
参考(外部サイト):www.valuence.inc、www.valuence.inc(2)、環境省
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
