個人のデザイナーさんから請求書が届きました。「デザイン料 55,000円(税込)」。振込画面を開いた社長は、電卓を片手に固まります。源泉徴収の10.21%は、55,000円にかけるのか、50,000円にかけるのか。どちらでも数百円の差なので、えいやで決めたくなります。
答えは、請求書の書き方で決まります。原則は、消費税を含めた55,000円にかけます。ただし、請求書で報酬の額と消費税の額がはっきり分けて書いてあれば、50,000円にかけてかまいません。しかもこの「請求書」は、インボイス(適格請求書)である必要はありません。
この記事では、2026年10月時点の国税庁の資料にもとづいて、源泉徴収と消費税について、税込みと税抜きの分かれ目、仮の数字での計算例、免税事業者の請求書や交通費の扱いを整理します。さらに、年明けの1月に払う分の計算が変わるかどうかも、最後に確かめます。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
源泉徴収と消費税、先に結論
- 報酬に消費税が含まれていても、源泉徴収の対象は原則として消費税込みの金額です
- 相手の請求書等で、報酬の額と消費税の額が明確に区分されていれば、報酬の額(税抜き)だけを対象にしてかまいません
- 区分は請求書でも納品書でもよく、インボイスである必要はありません。インボイス発行事業者でない人の請求書でも、区分されていれば同じ扱いです
- 税率は、1回の支払いが100万円以下の部分は10.21%、100万円を超える部分は20.42%です。1円未満は切り捨てます
- 2027年1月以後に払う分も、合計の税率は変わりません
源泉徴収と消費税の根拠は、国税庁の通達「消費税法等の施行に伴う源泉所得税の取扱いについて」(平成元年直法6-1)です。なお、インボイス制度が始まった後も、この取扱いは変わらないと国税庁が示しています。
源泉徴収と消費税を、仮の請求書2枚で計算する
なお、数字はすべて仮のものです。源泉徴収と消費税の関係を、同じデザイン料で書き方だけ変えた2枚の請求書で比べます。
- 11枚目:「デザイン料 55,000円(税込)」とだけ書いてある
- 22枚目:「デザイン料 50,000円、消費税 5,000円、合計 55,000円」と書いてある
まず、1枚目は、区分がないので税込みの額にかけます。55,000円×10.21%=5,615.5円で、1円未満を切り捨てて5,615円です。振込額は55,000円−5,615円=49,385円になります。
次に、2枚目は、税抜きの額にかけてかまいません。50,000円×10.21%=5,105円です。振込額は55,000円−5,105円=49,895円になります。
つまり、差は510円です。小さく見えますが、毎月同じ相手に頼むと、1年で6,120円になります。一方、デザイナーさんからすると、手元に入るお金のタイミングが変わる話なので、意外と気にしている人もいます。
さらに、もう少し大きな金額でも見ておきます。ホームページの制作一式で、報酬1,200,000円、消費税120,000円の請求書が届いたとします(仮)。
- 区分されている場合:(1,200,000円−1,000,000円)×20.42%+102,100円=142,940円
- 区分されていない場合:(1,320,000円−1,000,000円)×20.42%+102,100円=167,444円
特に、100万円を超える部分は税率が倍になるので、差も24,504円まで広がります。
「区分されている」と言える請求書、言いにくい請求書
国税庁の言い方は「報酬・料金等の額と消費税等の額とが明確に区分されている場合」です。たとえば、実務で見かける書き方を、筆者なりに分けるとこうなります。
- 言える:「報酬 50,000円/消費税 5,000円/合計 55,000円」のように、両方の金額が書いてある
- 言える:明細ごとに税抜きの金額が並び、下に消費税の額と合計がある
- 言いにくい:「55,000円(税込)」だけで、消費税の額がどこにも書いていない
- 言いにくい:「消費税込み」と書いてあるが、内訳の金額がない
迷うのは「55,000円(うち消費税10%)」のような書き方です。計算すれば出せますが、額そのものは書かれていません。源泉徴収は、払う側が税額を計算して納める仕組みです。そのため、あとで説明に困らないよう、相手に「消費税の額も書いてもらえますか」と頼むほうが早いです。
通達は「支払を受ける者からの請求書等」と書いています。つまり、区分を書くのは相手の請求書です。毎月の請求書のひな形を一度直してもらえば、あとはずっと税抜きで計算できます。請求書をPDFで受け取るときの保存の仕方は、こちらの記事にあります。
ただし、ここで間違えやすい3つ
例外や、うっかりしやすい点を3つ挙げます。
1つ目は、免税事業者の請求書です。インボイス発行事業者でない人の請求書でも、報酬と消費税の額が区分されていれば、税抜きの額で源泉徴収できます。さらに、国税庁は、ここでいう請求書等は適格請求書である必要はない、としています。インボイスかどうかは、消費税の仕入税額控除の話で、源泉徴収の計算とは別の話です。
2つ目は、交通費や宿泊費です。報酬と一緒に交通費を請求されて、それを相手に払う場合は、交通費の分も含めて源泉徴収の対象になるのが原則です。一方、会社が交通機関やホテルに直接払い、その金額が通常必要な範囲であれば、源泉徴収をしなくてかまわないとされています。たとえば、打ち合わせのための新幹線代を立て替えてもらうより、会社で手配するほうが計算は単純です。
3つ目は、そもそも源泉徴収が要らない相手です。会社(法人)に払うデザイン料には、源泉徴収は要りません。つまり、相手が個人か法人かの確認は、計算より先です。こちらの記事で整理しています。
デザイナーに5万円払うとき、源泉徴収は必要?「個人は必要、法人は不要」が基本です
もう一つ、納める日も確認しておきます。原稿料や講演料などで源泉徴収した税金は、支払った月の翌月10日までに納めます。また、国税庁は、原稿料や講演料などは納期の特例(半年ごとにまとめて納める仕組み)の対象にならない、としています。
2027年1月に払う分は、計算が変わる?
たとえば、年末に受け取った仕事の報酬を、1月に払うことはよくあります。ここで気になるのが、令和8年度の税制改正で作られた防衛特別所得税です。2027年1月1日以後に生じる所得から、源泉徴収の際に、所得税の1%相当の防衛特別所得税もあわせて徴収することになりました。
ただし、同時に復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に下がります。つまり、合計は2.1%のままで、国税庁は、改正の前後で源泉徴収税額の計算方法は変わらないと説明しています。10.21%と20.42%は、そのまま使えます。帳票の表記などは変わる可能性があるので、会計ソフトの更新情報は、念のため年末に確認しておきます。
源泉徴収と消費税、今日からできる最初の一歩
今日やることは一つです。源泉徴収をしている外注先の請求書を、直近の1枚ずつ並べてみてください。消費税の額が書いてあるか、書いていないかを見るだけです。もし書いていない相手なら、次の請求から「報酬と消費税を分けて書いてもらえますか」と、短いメッセージを送ります。
実は、この一言は、相手にとっても損のない話です。手元に入るお金が少し増え、計算の行き違いも減ります。とはいえ、外注先との連絡は、支払いの話がいちばん気まずくなりやすいところです。お金の書き方を最初にそろえておくと、次の仕事も頼みやすくなり、繁忙期に手を貸してもらえる相手が増えます。
源泉徴収の計算は、報酬の中身や相手によって変わります。個別の判断は、顧問税理士や所轄の税務署に確認してください。
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参考(外部サイト):国税庁、国税庁(2)、国税庁(3)、国税庁(4)、国税庁(5)、国税庁(6)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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