動画を外注して、納品されて、報酬も払いました。さて、この動画の30秒だけを切り出して、営業の提案書に使おうと思ったところで、制作側から「その使い方は、契約の範囲に入っていません」と言われたら、どうしますか。たとえば、従業員5人の○○業の会社が、採用動画を外注したとします(仮の例です)。契約書には「動画を制作して納品する」としか書いていませんでした。
実は、意外な事実があります。報酬を払っても、動画の著作権は、依頼した会社に自動では移りません。つまり、原則は、作った人が持っています。さらに、文化庁のマニュアルも、依頼者が報酬を払ったからといって、それだけで著作権を取得することにはならない、と説明しています。
この記事では、契約書に書いておく内容と、譲渡と利用許諾の選び方を整理します。また、そのまま使える形の文例も付けました。2026年10月時点の情報です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
動画の著作権、先に結論
- 動画の著作権は、報酬を払っただけでは移りません。原則は、作った側です
- 使い道が決まっているなら「利用許諾」、自由に使い回したいなら「譲渡」。どちらなのかを契約書に書きます
- 譲渡にするなら、「著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む」と書きます。書かないと、その部分は譲渡されていないと推定されます
- 著作者人格権は譲渡できません。短縮や字幕の追加など、編集してよい範囲も書いておきます
著作権は、動画を作った時点で、登録などの手続きなしに生まれます(著作権法17条2項)。生まれる先は、動画を創作した人、つまり著作者です(同法2条1項2号)。しかし、「うちの企画だから、うちのもの」と思っても、法律はそう動きません。
動画の著作権は譲渡か利用許諾か(文例つき)
文化庁の「誰でもできる著作権契約マニュアル」は、2つの方法を説明しています。
- 利用許諾:使い方を決めて、その範囲に限って認めてもらう方法です。著作権は制作者に残ります
- 譲渡:著作権そのものが、依頼した側に移る方法です。依頼した側は自由に使えて、他人に使わせるかどうかも決められます。一方、制作者は、自分の作った動画でも、依頼した側の了解なしには使えなくなる可能性があります
まず、選び方の目安を、仮の例で見てみます。
- 採用ページとSNSで1年だけ流す:利用許諾にして、媒体と期間を書きます
- 短く切り出して、営業資料や展示会でも使い回したい:譲渡。または、編集してよいと書いた幅広い許諾
- 同じ動画を、他社に使わせたくない:独占の利用許諾、または譲渡
ただし、譲渡は依頼した側に便利ですが、制作者は自分の実績として動画を使うことも難しくなりかねません。文化庁のマニュアルは、制作者が自分で使うことを認める一文を入れて調整する方法や、譲渡の対価が妥当かを話し合うことにも触れています。
動画の著作権を契約書に書く文例(3つ)
契約書に書く文を、3つ並べます。一般的な形の一例です。
譲渡にする場合です。
「本動画の著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含みます)は、報酬の支払いが完了したときに、発注者に移転します。ただし、受注者は、本動画を自らの制作実績として紹介することができます。」
利用許諾にする場合です。
「受注者は発注者に対し、本動画を自社サイト、SNS、展示会での上映に利用することを許諾します。期間は、納品日から3年間とします。」
編集を認める場合です。
「発注者は、本動画を利用するにあたり、短縮、字幕の追加、画面サイズの変更をすることができます。」
文例の「第27条及び第28条」と著作者人格権
譲渡の文例のかっこの中、「第27条及び第28条」が肝心です。第27条は動画をもとに新しい作品をつくる権利(翻案など)、第28条は、作り直した作品を使うときに、もとの動画の著作者が持つ権利です。著作権を譲渡する契約で、この2つを特に挙げていないと、譲渡した側に残ったものと推定されます(同法61条2項)。作り直して使いたい会社にとって、見落とすと痛い部分です。
特に、3つ目の文例が必要な理由は、著作者人格権にあります。この権利は譲渡できません(同法59条)。著作者は、意に反して作品を変更、切除、改変されない権利(同一性保持権)を持っています(同法20条)。文化庁のマニュアルは、サイズや色調、縦横比の変更、一部の切除でも問題になりうると説明しています。「人格権を行使しない」と書いてもらう方法もありますが、制作者にとっては大きな譲歩です。一方的に求めず、話し合って決めましょう。
動画ならではの落とし穴:素材、出演者、納品物
動画は、1本のなかに、いくつもの権利が入っています。
- 音楽、写真、イラスト、フォント、ナレーション。素材ごとに、権利を持つ人が別にいる場合があります
- 出演する人。撮影のあとで「使い道を聞いていない」と言われないよう、撮影の前に伝えておきます
- 納品されるもの。完成した動画だけなのか、字幕なしの版や縦型の版も含むのか、撮影した素材も渡すのか
素材と出演者に残る、動画の著作権
素材については、制作者が「第三者の権利を侵害しないことを保証する」と契約書に書く方法があります。ただし、文化庁のマニュアルは、この条項があっても、権利を侵害された人への責任がなくなるわけではない、と注意しています。なお、動画を実際に公開するのは、自分の会社です。納品のときに、使った素材の出どころと、使ってよい範囲を一覧でもらっておくと安心です。
また、出演者については、同じマニュアルが、俳優などの実演家は、録画を許諾したあとの利用について権利が原則として制限されるので、最初に録画するときの契約内容が重要だと説明しています。たとえば、社員や取引先が出る動画でも、使い道を先に伝えて、了解をもらっておくと、あとで揉めません。
納品物と見積書の確認
さらに、納品物は、「どの形式で、何を」納めるかを、契約書に書いておきます。文化庁のマニュアルも、納入の方法や形式を具体的に決めるよう勧めています。
別のサイトの「外注の見積書の見かたと確認項目を質問と答えで整理」では、一式や別途の中身を発注前に文章で確認するときの質問例が挙げられています。修正は何回まで含むか、素材代などの実費は含まれるかに加えて、著作権の扱いを発注書や契約書で確認することにも触れています。
出典:おまかせ係長「外注の見積書の見かたと確認項目を質問と答えで整理」
お金の書き方:請求書で揉めないために
文化庁のマニュアルは、報酬の書き方で、次の点を明らかにしておくよう勧めています。
- 1金額に、消費税を含むのか、含まないのか
- 2所得税を、源泉徴収して払うのか
- 3振込手数料は、どちらが負担するのか
- 4譲渡や許諾の対価を含む場合は、制作作業の分と分けた内訳
たとえば、仮の例で書くと、こうなります。「報酬は、税込55万円とします。内訳は、撮影と編集が50万円、著作権の譲渡が5万円です。振込手数料は発注者が負担し、納品日から30日以内に支払います」。金額は仮のものです。
源泉徴収は、支払う相手や報酬の中身で扱いが変わります。デザイン料のケースは、こちらの記事で整理しています。
デザイナーに5万円払うとき、源泉徴収は必要?「個人は必要、法人は不要」が基本です
個人に発注するときのフリーランス法
なお、個人や、1人だけの会社に発注するときは、フリーランス法も関わってきます。動画などの影像でできたものは、法律上の「情報成果物」です(フリーランス法2条4項)。業務委託をしたら、直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日などを、書面かメールなどで明示しなければなりません(同法3条)。さらに、従業員を使っている会社や役員が2人以上いる会社は、報酬の支払期日を、検査の有無にかかわらず、納品を受けた日から60日以内で、できる限り短く定める必要があります(同法4条)。検査に時間がかかっても、それは支払期日を延ばす理由になりません。条件の書き方の最初の一歩は、こちらの記事にあります。
個人に仕事を頼むとき、「条件」をメールで書いていますか?フリーランス法の最初の一歩
ただし、動画の著作権には例外があります
- 動画は「映画の著作物」にあたる場合があります(著作権法2条3項)。この場合、監督や撮影などを担当して全体の形づくりに創作的に寄与した人(著作者。同法16条)が、映画製作者(製作に発意と責任を持つ人。同法2条1項10号)に製作への参加を約束しているときは、著作権は映画製作者に帰属します(同法29条1項)。外注した動画で、発注した会社と制作会社のどちらが映画製作者にあたるかは、事情によって判断が分かれることがあります。だから契約書で決めておくのです
- 社員が会社の発意で、仕事として作り、会社の名義で公表する動画は、契約や勤務規則に別段の定めがなければ、会社が著作者になります(職務著作、著作権法15条1項)。外注先の社員が作った動画では、外注先の会社が著作者になる場合があります
- 2026年6月24日に、公正取引委員会、中小企業庁、特許庁が、知的財産権やノウハウ、データの取引についての指針を公表しました。目次には「著作権の無償譲渡の要請」という項目も立っています。発注する側は、立場の強さを背景に、権利をタダで求める進め方をしないほうが安全です
今日からできる最初の一歩
すでに納品された動画の契約書か、見積書、やり取りのメールを出してきて、3点に印をつけます。
- 1著作権について、何か書いてあるか
- 2使ってよい場所と期間が、書いてあるか
- 3短く編集してよいと、書いてあるか
そこで、どれも空白なら、制作側に確認のメールを1通送ります。「営業資料に使うために、30秒に短縮して使いたいのですが、可能でしょうか」と聞くだけで十分です。
また、制作会社と話す前も、公開されている制作事例や利用規約を読んでおくと、契約書で聞くことが見えてきます。
さらに、動画は、営業でも使い回しやすい武器の一つです。使える範囲を決めておくと、採用にも、提案にも、展示会にも回せます。採用動画の考え方は、こちらの記事に書いています。
「人材コーナー」の歩き方。動画で伝える採用と、採用の前に決めておくこと
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導入先を比べる:系統用蓄電池の低圧・高圧比較|法人が費用と接続条件で選ぶ方法
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情報サイトのトップ:ENERGY BANK(系統用蓄電池の情報サイト)
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):文化庁、e-Gov法令検索、e-Gov法令検索(2)、公正取引委員会
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
会社の現場の工夫や取り組みは、みんなの企業新聞の記事「外注先・仕入先をマッチングサイトで探す手順」でも紹介しています。あわせてご覧ください。