たとえば、従業員が数人の会社の社長(仮の例)が、請求書ソフトを契約したとします。その翌週、商工会の人から「その契約、補助金が使えたかもしれませんよ」と言われました。社長は、契約画面の「申し込む」ボタンを押した自分の指を、しばらく見つめることになります。
じつは、デジタル化・AI導入補助金(以前の名前はIT導入補助金)では、交付決定前の契約は対象外です。交付決定の前にソフトを発注・契約・支払いすると、補助金を受けられません。しかも、公式サイトに、はっきり書いてあります。「先に買って、あとから申請」ができない補助金です。
この記事では、2026年10月時点の公式サイトをもとに、請求や予約のソフトを入れる前に確認する順番を整理します。補助金を使うかどうかは別にして、「契約ボタンを押す前に確認すること」として読んでください。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
交付決定前の契約、先に結論
- ソフトの発注・契約・支払いは、交付決定を受けたあとです。前に行うと、補助金の交付を受けられません
- 対象は、事前に事務局の審査を受けて、公式サイトに登録されたITツールです。申請は、IT導入支援事業者と組んで行います
- 申請には、GビズIDプライムの取得が必要です。発行までは、おおむね2週間かかります
補助金の中身と、「登録済み」の意味
公式サイトの制度概要によると、この補助金は、中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDXなどに向けたITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援するものです。
ポイントは2つあります。1つ目は、対象のITツールが「事前に事務局の審査を受け、補助金HPに公開(登録)されているもの」に限られることです。2つ目は、申請者が、事務局に登録された「IT導入支援事業者」とパートナーを組んで申請することです。どちらも、複数者連携デジタル化・AI導入枠は別の扱いです。
別のサイトのおまかせ係長のコラム「デジタル化・AI導入補助金で入れるツールの選び方」では、この補助金は「好きなソフトを買って、あとから補助金を申請する」という形ではなく、登録されたツールの中から選び、支援事業者と一緒に申請を進めるものだと書かれています。
出典:おまかせ係長「デジタル化・AI導入補助金で入れるツールの選び方」
つまり、使いたいソフトが決まっていても、そのソフトが登録されていなければ、この補助金の対象にはなりません。そのため、公式サイトの「ITツール検索」で、登録の有無を先に調べます。
通常枠の条件も、先に見ておく
次に、申請枠のひとつ、通常枠の条件も見ておきます。公式サイトの通常枠のページには、次のように書かれています。
- ソフトウェア:1種類以上の業務プロセスを持つものを申請します。汎用プロセスのみは不可です
- 補助率:1/2以内、または2/3以内(条件を満たした場合)
- 対象経費:ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)などです
たとえば、月額のクラウドソフトは、利用料も対象経費になります。ただし、対象になるのは最大2年分までです。補助額の区分や、2/3以内になる条件の細かい点は、公募要領で確認してください。
交付決定前の契約を避ける順番
公式サイトの「交付決定後に必要な手続き」では、順番が決まっています。流れにすると、次のとおりです。
- 1ITツール検索で、使いたいソフトが登録されているか調べる
- 2IT導入支援事業者と相談して、交付申請をする
- 3事務局から交付決定を受ける
- 4そのあとで、ITツールの発注・契約・支払いをする
- 5ソフトを導入して、使い始める
- 6事業実績報告を出す(発注・契約、納品、支払いが分かる証憑を添えます)
交付決定前の契約について、公式サイトには、「交付決定前に発注・契約・支払い等を行った場合は、補助金の交付を受けることができません」とあります。さらに、事業実績報告までに、すべてのITツールで事業が完了し、利用・運用が始まっている必要もあります。
ここで、交付決定前の契約の仮の例を1つ。ある会社が、申請の前日に、請求書ソフトを「早く使いたいから」と契約しました。申請は通ったとしても、契約が交付決定より前なので、そのソフトは補助金の対象になりません。逆に、交付決定の日が2026年12月10日(予定)なら、契約はその日以降です。待つ時間は長く感じますが、「今のやり方のどこに時間がかかっているか」を数える時間にできます。
ただし、例外もあります。スマートレジの導入やPOSレジの改修には、公式サイトの新着情報で「事前着手制度」が別に案内されています。9月15日以降に先に導入して、あとから補助金を申請できる仕組みです。一方、請求や予約のソフトは、この話とは別です。原則どおり、交付決定が先だと考えておきましょう。
申請の前に要るものと、日程
申請の前に、次の2つの準備が必要です。どちらも、思い立った日には終わりません。
- GビズIDプライム:公式サイトでは、発行までの期間が「おおむね2週間」と案内されています
- SECURITY ACTION:情報処理推進機構(IPA)の制度で、一つ星または二つ星の宣言が要件です。宣言済みのアカウントIDが出るまで、おおむね2〜3日です
交付決定前の契約を避ける、締切と日程
日程は、公式サイトの事業スケジュールに載っています。2026年10月時点では、6次締切分の締切が2026年10月30日(金)17:00、交付決定日が2026年12月10日(木)(予定)です。一方、7次締切分の日程は、公開されていません。ページには「確定している募集回のスケジュールのみ公表」と書かれています。
GビズIDプライムの発行がおおむね2週間なので、まだ持っていない会社が今から申請しても、10月30日の締切には届かない計算です。つまり、今回に間に合うのは、準備が済んでいる会社が中心です。そうでない会社は、次の募集回に向けて、今のうちに準備を始めるのが現実的です。
次の募集回の制度変更
次の回を考えるときは、制度変更にも注意してください。公式サイトの10月9日付のお知らせによると、第7次公募回から、通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠で、非常勤を含む全従業員の1人当たり給与支給総額の向上に関する申請要件が加わります。また、通常枠では、補助率が上がる要件も、最低賃金の改定にあわせて変わります。申請を考えるときは、最新の公募要領で条件を読んでから決めましょう。
「実質無料」と言われたら
補助金の話には、売り込みもついてきがちです。公式サイトの不正防止のページは、「キャッシュバック」「実質“無料”」などは不正行為の可能性があると、注意を呼びかけています。
例として挙がっているのは、次のような行為です。
- ITツールを実質無償で提供する、減額する等の販売行為
- 補助対象者以外が申請手続きを代理で行う行為
- ITツールが導入されていない、導入研修などの役務が実際に行われていない行為
不正行為と判断されると、交付決定の取消や、補助金の返還請求が行われます。さらに、IT導入支援事業者の登録も取り消されます。「負担なしで入れられます」という誘い文句には、すぐ返事をしないでください。
交付決定前の契約を避ける、今日からできる最初の一歩
補助金が使えるかどうかを調べる前に、やることがあります。請求、予約、見積のうち、いちばん時間を取られている仕事を、1つだけ決めます。そして、その仕事にひと月に何分かかっているかを数えます。
たとえば、営業の会社なら、見積書を出してから、請求書を送り、入金を確認するまでの手作業が、数えやすい対象です。「月に何時間」が見えると、ソフトを入れる価値も、補助金を待つ価値も、自分で判断できます。数字がなければ、IT導入支援事業者に相談しても、話が前に進みません。
ソフトを入れたあとの請求書の保存ルールは、こちらの記事に整理しています。
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補助金の対象や条件、申請の判断は、事務局の相談窓口、IT導入支援事業者、地域の商工会議所・商工会、会計や税務は顧問税理士などの専門家に確認してください。
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運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):中小機構、中小機構(2)、中小機構(3)、中小機構(4)、中小機構(5)、中小機構(6)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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