営業電話で「まずは無料でお試しください」と言われて申し込んだサブスクが、気づけば半年分の請求になっていました。解約したくて検索すると、真っ先に出てくるのは「クーリング・オフ」という言葉です。
ところが、会社の契約には、このクーリング・オフが使えないのが原則です。訪問販売、電話勧誘販売、通信販売のルールは、営業のために結ぶ契約には適用されないと、特定商取引法26条1項1号が定めています。しかも、広告を見て自分でネットから申し込むサブスクは通信販売なので、個人のお客様の契約でも、クーリング・オフの制度がありません。
頼れるのは、契約書と、申込みのときに同意した利用規約です。この記事では、会社の契約で何を確認し、いつまでに動くかを、2026年10月20日を起点に日付で数えます。2026年10月時点の情報です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論
- 会社が営業のために結ぶ契約には、訪問販売と電話勧誘販売のクーリング・オフが使えません(特定商取引法26条1項1号)
- 広告を見て自分でネットから申し込むサブスクは通信販売です。通信販売に、クーリング・オフの制度はありません
- 会社の契約は、消費者契約法の対象外です。不当な勧誘で取り消す、不当な条項を無効にする、といった消費者向けの保護も、原則として使えません
- 解約できるかどうかは、契約書と利用規約(約款)で決まります。確認するのは、更新の条件、通知の期限、通知の方法、解約料、規約の変更の5つです
- 動く日は、更新日から逆算します。契約書の「○日前まで」は、今日から数えると、すでに過ぎていることがあります
特定商取引法は、取引に不慣れな消費者とのトラブルが多い販売方法を規制する法律です。営業のために結ぶ会社の契約は、その外にあります。冷たい話に聞こえますが、裏返せば、契約書に書いてあることが、そのまま武器にも足かせにもなるということです。
クーリング・オフは、会社の契約では使えないのが原則
場面を3つ比べます(仮の例です)。
- 1個人が、自宅で使うために、営業電話で契約した場合:電話勧誘販売にあたります。法律で決まった書面を受け取った日から8日以内なら、クーリング・オフができます(特定商取引法24条)。訪問販売も、同じ8日です(同法9条)
- 2個人が、広告を見て、自分でネットから申し込んだ場合:通信販売です。法律が定めているのは商品の返品のルールで(同法15条の3)、サービスの申込みに、クーリング・オフはありません
- 3会社が、営業電話で契約した場合:営業のために結ぶ契約なので、電話勧誘販売の規定は適用されません。訪問販売でも同じです(同法26条1項1号)
消費者契約法も、同じ線を引いています。「消費者」は個人で、事業として、または事業のために契約する場合の個人は含まれません(2条1項)。会社や、事業のために契約する個人は「事業者」です(同条2項)。事業者どうしの契約では、不当な勧誘を理由とする取消し(4条)や、不当な条項の無効(8条から10条)は使えません。
つまり、会社のサブスクを解約できるかどうかは、契約書に何と書いてあるかで決まります。
契約書と約款で確認する5つ
導入前でも、更新の前でも、見る場所は同じです。
- 1更新の条件:最初の期間は何か月か。自動で更新されるか。更新後の期間は、1か月か、1年か
- 2通知の期限:「更新日の○日前まで」などの書き方です。何日前かと、数え方を見ます
- 3通知の方法:書面、専用のフォーム、メール、電話のうち、どれが指定されているか。様式や窓口が決まっている場合があります
- 4中途解約と解約料:期間の途中でやめられるか。残りの期間の料金を払う決まりか
- 5規約の変更:どう知らされるか。メールか、サイトへの掲載か
契約書がなく、申込み画面の「利用規約に同意」だけで始めたサービスもあります。その場合は、利用規約が契約の中身です。申し込んだ日の利用規約を、画面の保存かPDFで残しておきます。電子で受け取った契約書や請求書を電子のまま保存する考え方は、こちらの記事にあります。
メールで届いたPDFの請求書、「印刷して紙で保管」はじつはNGです
不特定多数の相手に行う取引で、内容が画一的であることが双方にとって合理的なもののために、あらかじめ用意された条項の集まりを、民法は「定型約款」と呼びます(548条の2)。利用規約は、これにあたることがあります。法務省のパンフレットは、事業者間で使う契約書のひな形を、対象とならない例に挙げています。会社どうしで条件を詰めた契約書は、あたらない側です。一方、誰にでも同じ条件で出しているサービスの利用規約は、あたる場合があります。
定型約款にあたるなら、契約の前でも、契約のあと相当の期間内でも、請求すれば、遅滞なく、相当な方法で内容を示してもらえます(民法548条の3第1項)。すでに規約を渡している場合は除かれ、契約のあとは「相当の期間内」に限られます。手元に規約が残っていなければ、早めに請求します。
2026年10月20日から数える、更新日と通知期限
従業員3人の会社が、営業まわりのサブスクを3つ使っているとします(仮の例です)。どれも月額10,000円の1年更新で、契約書には「更新日の○日前までに通知」と書いてあります。金額も日付も仮のものです。今日は2026年10月20日の火曜日です。
- 1つ目:更新日が2026年12月1日で、30日前まで。期限は11月1日の日曜日です。今日から12日後で、実際に動ける最後の平日は、10月30日の金曜日です
- 2つ目:更新日が2027年1月1日で、60日前まで。期限は11月2日の月曜日で、13日後です。これが90日前までなら、期限は10月3日です。もう17日過ぎています
- 3つ目:更新日が2027年4月1日で、60日前まで。期限は2027年1月31日の日曜日で、今日から103日後です。年末年始の休みを越えた先なので、カレンダーに入れておかないと、いちばん忘れやすい日付です
期限を1日過ぎるとどうなるか。この仮の例では、次の12か月分、120,000円の契約が続くことになりかねません。更新後の途中解約を認めるかどうかは、契約書しだいです。
数え方にも、落とし穴があります。「更新日の60日前まで」とだけ書いてあるとき、更新日から60日を引いた日を期限と読むのが素直です。ただ、通知した日の翌日から数える読み方もありえます(民法140条は、期間の初日を算入しないと定めています)。その場合は、1日前倒しになります。迷ったら、早いほうの日を期限にします。
もう一つ、通知は、送った日ではなく、相手に届いた日で見るのが原則です(民法97条1項。意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生じます)。契約書が別の決め方をしていれば、それに従います。期限が日曜日なら、前の金曜日までに届けるつもりで動きます。
解約の手続きをしたら、完了のメールや画面を保存します。マイページのボタンを押しただけで、完了の連絡が届いていないと、あとで「受け付けていません」と言われても、反論の材料がありません。
ただし、例外と、いま動いている話
- 「営業のため」にあたるかは、実態で判断されます。消費者庁の質問と答えの資料は、お金を稼ぐ意思があるというだけで、直ちに「営業のために」にあたるわけではないと説明しています。取引の種類、本人の利益活動との関連、必要な設備の準備、取引に習熟しているかなどを、総合的に見ます。「誰でもすぐ稼げる」と電話で勧誘された情報商材の例では、社会的地位や設備がなければ、適用除外にならないと考えられるとされています。個人事業主や、副業を始めたばかりの人が結ぶ契約は、一律には決まらず、実態で見られます
- 規約の変更にも、民法のルールがあります。定型約款の変更は、相手の一般の利益に適合する場合か、契約の目的に反せず、変更の必要性や相当性に照らして合理的な場合に限られます。そのうえで、効力が生じる時期を決め、変更することと変更後の内容を、インターネットなどの適切な方法で周知しなければなりません。合理性を理由にする変更は、効力が生じる時期までに周知しないと、効力が生じません(民法548条の4)。法務省のパンフレットは、「当社の都合で変更することがあります」と書いてあるだけで、一方的に変えられるわけではないと注意しています。値上げの通知が、迷惑メールのフォルダに埋もれないよう、通知先は、担当者個人ではなく、共有のアドレスにしておきます
- 消費者庁の検討会が、2026年9月10日に中間取りまとめを公表しました。全国の消費生活相談で、サブスクに関する件数は、2021年度の7,461件から、2025年度の20,174件に増えています。解約の妨害の禁止、自動更新の前の通知、約款を変えるときの個別の通知などが、方向として示されています。ただし、消費者契約法の見直しの話で、対象は消費者との契約です。会社の契約には、届かない見込みです。まだ法律にもなっていません
- 営業担当の説明と、契約書の中身が食い違うときは、説明を受けた日時と内容のメモ、やり取りのメールを残して、弁護士などの専門家に相談します。口頭の約束は、契約書に書かれていなければ、あとで証明するのが難しくなります
今日からできる最初の一歩
いま使っているサブスクを、全部書き出します。列は5つです。
- 1サービス名
- 2月額、または年額
- 3更新日
- 4解約の通知期限(更新日から逆算した日)
- 5通知の方法
契約書や利用規約が見つからないサービスは、請求書のメールから、提供元の窓口を探して、規約を請求します。通知期限の1か月前に、カレンダーへ予定を入れておきます。
あわせて、もう1列足します。「このサービスで、今期、何件の商談や契約が動いたか」です。営業まわりのサブスクは、入れたときより、更新の前の点検が大切です。成果を文字にしておくと、続けるか、やめるかを、数字で決められます。成果の決め方は、こちらの記事にあります。
個人の営業パートナーに頼む前に。成果の定義を文字にする保存版チェック
使っていないものをやめた分は、会いたい1社に会いに行く交通費に回せます。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):e-Gov法令検索、e-Gov法令検索(2)、e-Gov法令検索(3)、消費者庁、消費者庁(2)、法務省
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。