12月になると、ふるさと納税のサイトを開く社長が増えます。カニにするか、お米にするか。決済画面まで進んで、ふと手が止まります。財布に入っているのは会社のクレジットカード。「どうせ税金の話だし、会社の経費で落ちるのでは?」と考えたくなる場面です。
答えは、会社の経費にはなりません。いわゆるふるさと納税は、社長個人の寄附で、個人の所得税と住民税が軽くなる仕組みです。会社のお金で払うと、国税庁の通達に照らして、その寄附は社長への「給与」として扱われるおそれがあります。しかも役員の給与なので、会社の経費にもなりにくい。節税のつもりが、税金が増える方向に転びます。
この記事では、社長個人のふるさと納税と、会社が使える「企業版ふるさと納税」の違いを、2026年10月時点のルールで整理します。どこまでがOKで、どこからが危ないかの線引きも書きます。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論
ふるさと納税と呼ばれるものは、じつは2つあります。払う人も、軽くなる税金も、返礼品の有無も違います。
- 個人のふるさと納税:社長個人が払う。所得税と住民税が軽くなる。返礼品がある
- 企業版ふるさと納税:会社が払う。法人の税金が軽くなる。返礼品のような経済的な見返りは禁止
つまり、「会社の経費にしたい」なら企業版、「返礼品がほしい」なら個人のふるさと納税です。この2つを混ぜて、会社のお金で返礼品付きの寄附をするのが、いちばん危ないパターンです。
なお、個人事業主の場合も同じで、ふるさと納税は事業の経費ではなく、確定申告の寄附金控除で扱います。
社長個人のふるさと納税の仕組み
国税庁のタックスアンサー(1155番、令和8年4月1日現在の法令等)と総務省の説明では、ふるさと納税は、選んだ自治体への寄附のうち2,000円を超える部分が、所得税と住民税から控除される仕組みです。控除には上限があり、収入や家族の状況で変わります。
たとえば、総務省のページでは、年収700万円の給与所得者で扶養家族が配偶者のみの人が3万円を寄附した場合、2万8,000円が控除される例が載っています。
社長にとって大事なのは、次の3点です。
- 1控除を受けるのは、寄附をした年の分。2026年分にしたいなら、12月31日までに寄附を済ませる
- 2確定申告が要らない給与所得者で、寄附先が5団体以内なら、ワンストップ特例で申告せずに済む
- 3確定申告をするなら、ワンストップ特例の申請は無効になり、すべての寄附を申告に含める
社長は役員報酬をもらう給与所得者ですが、ほかに不動産収入があるなど、確定申告をする人も少なくありません。その場合は、3つめの点に注意します。ワンストップ特例を出したから大丈夫、と思っていると、控除が漏れることがあります。
会社のお金で払うと何が起きるか
国税庁の法人税基本通達9-4-2の2には、法人が経費として払った寄附金のうち、役員などが個人として負担すべきものは、その人への給与とする、という趣旨の決まりがあります。
社長のふるさと納税は、社長個人が負担すべき寄附そのものです。会社のカードや会社の口座で払えば、この通達に当たるおそれが高くなります。仮の例で流れを見ます。
- 従業員4人の会社(仮の例)の社長が、会社のカードで5万円のふるさと納税をした
- 会社は「寄附金」として帳簿に載せた
- 税務調査で、社長個人が負担すべき寄附と判断された
- 5万円は社長への給与として扱われる
役員の給与は、毎月同じ額で払う「定期同額給与」などに当たらないと、会社の経費になりません。臨時に5万円を払った形になるので、会社の経費として認められないおそれがあります。社長の側では給与として所得税の対象になり、源泉徴収の漏れも問われかねません。役員の給与のルールは、こちらの記事にまとめています。
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もし会社のカードで払ってしまったときは、会社の経費にせず、社長が会社に立て替えてもらった扱いにして、早めに精算する方法が考えられます。どう処理するかは、決算前に顧問税理士に相談してください。
会社が寄附するなら「企業版ふるさと納税」
会社として地域に寄附したいなら、企業版ふるさと納税(正式には地方創生応援税制)があります。内閣府の制度説明の資料(2026年1月)をもとに整理します。
- 寄附先:自治体が地方創生のために行う事業で、国の認定を受けたもの
- 1回あたりの寄附額:下限は10万円
- 軽くなる税金:損金算入による軽減に、税額控除を上乗せして、最大で寄附額の約9割
- 税額控除の内訳:法人住民税で寄附額の4割、法人事業税で2割、住民税で4割に届かないぶんを法人税で寄附額の1割まで
- 期限:令和9年度まで(令和7年度税制改正で3年延長)
対象にならない寄附先もあります。
- 東京都
- 地方交付税の不交付団体で、三大都市圏の既成市街地などにある市区町村
- 自社の本社がある自治体
つまり、地元の市に寄附したくても、本社がそこにあれば企業版の対象外です。また、寄附した会社への経済的な見返りは禁止されています。
ただし、注意点があります。税額控除には、法人住民税や法人税、法人事業税の額に対する上限があります。赤字で税金がほとんど出ない年は、軽くなる額も小さくなります。最大約9割は、あくまで上限の話です。たとえば、税引前の利益が少ない年に100万円を寄附しても(仮の数字)、控除の上限に届いて、思ったほど税金が減らないことがあります。どの年でも最低1割は会社の持ち出しになるので、「税金が減るから寄附する」ではなく、「応援したい地域や事業があるから寄附する」くらいの順番で考えるのが無理のない使い方です。
線引きのチェックリスト
ここまでの話を、OKと危ないに分けます。
- OK:社長個人の口座やカードで、返礼品付きのふるさと納税をする
- OK:会社が、国の認定を受けた事業に企業版ふるさと納税で寄附する
- 危ない:会社のカードで、社長個人の返礼品付きのふるさと納税をする
- 危ない:会社名義で寄附して、返礼品を社長が受け取る
- 危ない:企業版の寄附の見返りに、自治体から仕事や便宜を受ける約束をする
節税コーナー全体の線引きの考え方は、こちらにまとめています。
「節税コーナー」の歩き方。節税商品を扱う理由と、「どこまでOKか」の線引き
今日からできる最初の一歩
年末に慌てないように、11月のうちに次の順で動いておくと安心です。
- 1社長個人のふるさと納税は、個人のカードか口座で払うと決める(会社のカードは使わない)
- 2今年、確定申告をするかどうかを確かめ、ワンストップ特例を使うか決める
- 3企業版を考えるなら、本社がない自治体で、応援したい事業を内閣府のサイトで探す
- 4寄附の前に、今期の税額の見込みを顧問税理士と確認する
企業版ふるさと納税は、自治体とのつながりをつくるきっかけにもなります。ただ、寄附の見返りに取引を求めることは禁止です。地域との縁を営業に生かすなら、寄附とは切り離して、自社の商品やサービスで正面から提案するのが筋です。自治体の入札や公募の情報を定期的に見る、地元の商工会議所の集まりに顔を出すといった地道な動きのほうが、長く続く取引になります。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):国税庁、総務省、国税庁(2)、官公庁、官公庁(2)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。