年末が近づくと、社長個人の財布が苦しくなる場面があります。固定資産税、車検、子どもの学費。会社の口座には、少し余裕があります。「ちょっと会社から借りておいて、年明けに返せばいいか」。通帳から社長の口座へ振り替えて、帳簿には「役員貸付金」と書く。ここまでは、小さな会社でよく見る流れです。
問題は利息です。会社が社長に無利息でお金を貸すと、本来もらうはずの利息との差額が、社長への給与として扱われることがあります。しかも、その「本来の利息」を計算する基準の利率が、令和8年(2026年)中の貸付けから、年0.9%から1.3%に上がりました。国税庁のタックスアンサーの利率表で、令和4年から令和7年までずっと0.9%だった数字が動いたのです。
この記事では、社長が会社からお金を借りるときの利息の考え方を、国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)と所得税基本通達をもとに、2026年10月時点のルールで整理します。給与として扱われない3つの場合と、年5,000円の線を、仮の金額で確かめます。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論
- 会社が社長にお金を貸すなら、原則として利息を取ります
- 利息の基準は、会社が銀行などから借りて貸したお金ならその借入金の利率、それ以外は貸付けを行った年ごとに決まった利率です
- 令和8年中に貸し付けたものは1.3%です(令和4年から令和7年は0.9%)
- 無利息や低い利息でも、給与として課税しなくてよい場合が3つあります。その1つが「本来の利息との差額が1年間で5,000円以下」です
- 利率が上がったので、5,000円に収まる借入額の目安は、ざっくり約55万円から約38万円に下がりました
「少しだけなら無利息でも大丈夫」の「少し」が、今年から小さくなっている、ということです。
基準の利率は「貸した年」で決まる
国税庁のタックスアンサー「金銭を貸し付けたとき」(2606番)と、所得税基本通達36-49では、会社が役員や使用人に貸したお金の利息相当額を、次のように考えます。
- 1会社が他から借り入れて、そのお金を貸したことが明らかな場合:その借入金の利率
- 2それ以外の場合:貸付けを行った日の属する年ごとに決まった利率
2つ目の利率は、タックスアンサーに年ごとの表で載っています。最近の分を抜き出すと、次のとおりです。
- 令和3年中の貸付け:1.0%
- 令和4年から令和7年中の貸付け:0.9%
- 令和8年中の貸付け:1.3%
ポイントは「貸した年」で決まることです。表は、貸付けを行った年ごとに利率が決められています。令和8年の1月から12月に新しく貸したお金は、1.3%で考えることになります。去年までの感覚で「0.9%くらいでしょ」と決めると、ずれが出ます。
なお、利率は将来の年も同じとは限りません。令和9年中の貸付けについては、その年の数字を国税庁のページで確認してください。
給与にならない3つの場合と「5,000円の線」
タックスアンサーと所得税基本通達36-28では、無利息や低い利息で貸しても、次のどれかに当たれば給与として課税しなくてよいとされています。
- 1災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要になった役員や使用人に、合理的と認められる金額と返済期間で貸す場合
- 2会社の借入金の平均調達金利など、合理的と認められる貸付利率を決めて、その利息を取っている場合
- 3上の2つ以外で、本来の利息と実際の利息の差額が、1年間で5,000円以下の場合
3つ目を、仮の金額で計算してみます。無利息で1年間借りたとします。
- 仮に30万円を借りた場合:30万円×1.3%=3,900円。5,000円以下なので、課税しなくてよい範囲です
- 仮に50万円を借りた場合:50万円×1.3%=6,500円。5,000円を超えます
- 同じ50万円を、0.9%の年に借りていた場合:50万円×0.9%=4,500円。5,000円以下に収まっていました
逆算すると、1年間無利息で借りても5,000円に収まるのは、1.3%なら約38万円まで、0.9%なら約55万円までです。同じ50万円でも、貸した年が変わるだけで、線のこちら側からあちら側へ移ってしまいます。
5,000円を超えた場合は、差額の全体が社長への経済的利益になります。たとえば仮に300万円を無利息で1年間借りると、300万円×1.3%=3万9,000円が給与として扱われる計算です。超えた分だけではない点に注意してください。
会社側の扱いと、ほかの注意点
給与として扱われた分は、会社の側にも影響します。国税庁のタックスアンサー「役員等に対する経済的利益」(5202番)では、無利息や低い利息での貸付けによる差額も、役員への経済的利益の例として挙げています。そのうえで、継続的に供与され、おおむね毎月一定の額なら定期同額給与として損金に入り、それ以外は損金に入らないとしています。
ほかにも、次の点は押さえておきたいところです。
- 契約書を作る:社長と会社の間でも、金額、利率、返済の期日と方法を書いた金銭消費貸借契約書を作っておくと、あとで説明しやすくなります
- 返済の記録を残す:毎月決まった日に、社長の口座から会社の口座へ振り込むと、記録がそのまま証拠になります。現金のやりとりは記録が残りにくいので避けます
- 利息は会社の収入:社長が払った利息は、会社の受取利息として売上とは別に計上します
- 返すあてのない「貸付け」:返済の予定も記録もないまま残高が増えていくと、貸付けではなく給与や賞与の支払いと見られるおそれがあります
- 決算書の見え方:役員貸付金が大きく残っていると、銀行などの決算書を読む相手から、使い道を聞かれることがあります
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今日からできる最初の一歩
年末までに、次の手順で役員貸付金を点検してみてください。
- 1帳簿の「役員貸付金」の残高と、いつ、いくら貸したかを一覧にします
- 2令和8年中に新しく貸した分に印を付けます。この分は1.3%で考えます
- 3無利息や低い利息のものは、1年間の差額が5,000円以下かを計算します
- 45,000円を超えそうなものは、利息を取る、早めに返す、のどちらかを顧問税理士と相談します
- 5契約書がないものは、今の条件で金銭消費貸借契約書を作り、返済の振込日を決めます
会社のお金を社長個人の財布の続きにしないことは、税金の話だけでなく、営業で取引先や金融機関の信用を得るときの土台にもなります。決算書は、会社の名刺のようなものです。社宅のように、社長個人と会社の間のお金を「計算式」で整える考え方は、こちらの記事でも紹介しています。
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利率の当てはめや、平均調達金利を使うかどうかは、会社の借入れの状況で変わります。個別の処理は、顧問税理士に確認してください。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):国税庁、国税庁(2)、国税庁(3)、国税庁(4)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。