年末の大掃除で、事務所の汚れや傷みに気づくことがあります。はがれかけた壁紙、きしむドア、効きの悪いエアコン。12月決算の会社なら、ちょうど利益の見込みも見えてくる時期です。「どうせ直すなら年内に。全部、修繕費で落とせるし」。そう考えて、工務店に電話をかける社長もいるはずです。
ところが、修理の代金は、全部がその年の経費になるとは限りません。税金の世界では、壊れたところを元に戻す支出は「修繕費」として一度に経費にできますが、建物などの価値を高めたり、長持ちさせたりする支出は「資本的支出」として資産に計上し、何年もかけて減価償却します。請求書に「修繕工事」と書いてあっても、名目ではなく中身で判定されます。
この記事では、国税庁のタックスアンサー5402番と法人税基本通達をもとに、2026年10月時点のルールで、修繕費と資本的支出の判定の順番を整理します。20万円・3年・60万円・10%という数字の意味と、仮の金額での当てはめがわかります。決算前に気をつけたい線引きまで持ち帰れます。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
修繕費と資本的支出、先に結論
修理や改装の代金は、おおむね次の順番で判定します。
- 11回の修理の金額が20万円未満、またはおおむね3年以内の周期で行う修理か:当てはまれば修繕費にできます
- 2中身が明らかに価値を高める工事か(用途変更の改装、設備の付け足しなど):当てはまれば資本的支出です
- 3中身が明らかに元に戻す工事か:当てはまれば修繕費です
- 4どちらか明らかでない場合、金額が60万円未満、または前期末の取得価額のおおむね10%以下か:当てはまれば修繕費にできます
- 5それでも決まらない場合:継続して同じ処理をすることを条件に、金額の30%と前期末の取得価額の10%のうち少ないほうを修繕費、残りを資本的支出とする方法があります
修繕費と資本的支出の根拠は、法人税基本通達7-8-1から7-8-5です。たとえば、小さな修理なら、1番の「20万円」で決着することが多いはずです。一方、悩ましいのは、数十万円から数百万円の工事です。
修繕費と資本的支出は「元に戻す」と「良くする」の違い
通達7-8-2では、通常の維持管理のための支出や、壊れた固定資産を元の状態に戻すための支出を修繕費としています。一方、7-8-1では、固定資産の価値を高めたり、耐久性を増したりする部分を資本的支出としています。例として挙がっているのは次のようなものです。
- 建物に避難階段を取り付けるなど、物理的に付け加えた部分
- 用途を変えるための模様替えなど、改造や改装に直接かかった費用
- 機械の部品を、品質や性能の高いものに取り替えたときの、通常の取替費用を超える部分
迷いやすい例として、国税庁の質疑応答事例があります。事務室の蛍光灯100本を、蛍光灯型のLEDランプに取り替えたケースです。節電効果や使える期間は上がりますが、蛍光灯は照明設備を働かせる部品の1つにすぎず、照明設備そのものの価値が高まったとはいえないとして、修繕費で差し支えないとされています。ただし、照明器具ごと工事をしない前提での回答です。
つまり、修繕費と資本的支出の違いは、「前と同じ状態に戻す」なら修繕費、「前より良くする」「別の使い方にする」なら資本的支出です。
仮の会社で当てはめてみます
たとえば、12月決算、従業員4人の仮の会社が、年末に事務所でいくつかの工事を考えているとします。建物は自社所有で、前期末の取得価額は1,000万円です(すべて仮の数字)。
- 工事1:故障したエアコンの部品を同じ性能のものに交換、15万円。20万円未満なので修繕費です
- 工事2:はがれた壁紙を同じ程度のものに張り替え、45万円。中身が元に戻す工事なので修繕費です
- 工事3:倉庫だった部屋を、窓と空調を付けて応接室に改装、250万円。用途を変える改装なので資本的支出です。資産に計上して、耐用年数にわたって減価償却します
- 工事4:外壁の塗り直しと一部の補強をまとめて80万円。元に戻す部分と良くする部分の区別がはっきりしません。60万円以上ですが、取得価額1,000万円の10%(100万円)以下です。そのため、修繕費にできます
修繕費と資本的支出の10%の基準
特に、工事4で間違えやすいのは、10%の基準が「帳簿に残っている金額」ではなく、「取得価額」だという点です。また、古い建物は帳簿上の残りが少なくなっていますが、比べる相手は買ったときの金額(過去の資本的支出を含む)です。
工事4が300万円だったら
仮に、工事4が300万円だったら、60万円以上で10%も超えます。このときは、5番の特例を使えます。300万円の30%は90万円、取得価額の10%は100万円です。少ない90万円を修繕費、残り210万円を資本的支出とする処理ができます。なお、毎期、同じ方法を続けることが条件です。
また、個人事業主の場合も、国税庁のタックスアンサー1379番で、20万円未満・3年以内の周期・60万円未満・前年末の取得価額の10%以下という同じ形の基準が示されています。
ただし、ここが危ないところです
決算前の駆け込み修理で、修繕費と資本的支出の判断を誤りやすい点をまとめます。
- 請求書を分けても合算です。通達7-8-3の20万円は、「同一の固定資産について一の計画に基づいて行う」修理の金額で判定します。1つの改装を10万円ずつの請求書に分けても、20万円未満にはなりません
- 名目では決まりません:「修繕工事一式」と書いてあっても、中身が用途変更の改装なら資本的支出です。見積書の内訳を残しておくと、後から説明できます
- 年内に工事が終わっていない:法人税基本通達2-2-12では、費用を今期の損金にするには、期末までに債務が成立し、具体的な給付の原因となる事実が発生し、金額を合理的に計算できることが必要です。12月に契約しただけで工事が1月なら、今期の修繕費にはしにくくなります
- 借りている事務所の内装工事:自社の建物ではない場合は、扱いが別に決まっている部分があります。工事の前に顧問税理士に確認するのが安全です
- 新しく買い替えた場合:壊れたエアコンを修理せず新品に替えたなら、修繕費ではなく新しい資産の購入です。少額のモノを買ったときのルールは、こちらの記事にあります
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OKとNGの線引きの考え方は、こちらの記事にまとめています。
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修繕費と資本的支出、今日からできる最初の一歩
まず、年内の修理を考えているなら、工務店に連絡する前に、次の順で準備しておくと判定が楽になります。
- 1直したい箇所を、紙1枚に書き出します。「元に戻す」か「良くする」かも一緒にメモします
- 2見積もりは、工事ごと・箇所ごとに内訳を分けてもらいます
- 3建物や設備の「取得価額」を固定資産台帳で確認し、10%の金額を出しておきます
- 412月決算なら、年内に工事が終わる日程かを工務店に確認します
- 5迷う工事は、契約の前に顧問税理士に見積書を見せます
実は、修理の見積もりを箇所ごとに分けてもらうのは、営業の見積書を作るときの逆の立場を体験することでもあります。そのため、内訳がはっきりした見積書は、受け取る側にとって判断がしやすく、信頼につながります。さらに、自社が出す見積書も、相手の社長が経理で困らない書き方になっているか、この機会に見直してみてください。なお、個別の工事の判定は、顧問税理士に確認してから処理してください。
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参考(外部サイト):国税庁、国税庁(2)、国税庁(3)、国税庁(4)、国税庁(5)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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