請求書は出しました。さらに、納品も済んでいます。それなのに、入金がありません。電話をすると「来週には」と言われ、翌週にまた電話をすると、また「来週には」です。そして、三回目あたりで、来週という言葉の意味を辞書で引きたくなります。
決算が近づくと、頭に浮かぶのが「この売掛金、貸倒れで経費にできないか」という疑問です。売掛金の貸倒れは、国税庁の通達で、はっきり条件が決まっています。ところが、国税庁の通達が見ているのは、督促の回数でも、相手の態度でもありません。見ているのは、債権を切り捨てる手続があったか、全額を回収できないことが明らかか、取引を止めて1年以上たったか、という事実です。「払ってくれない」というだけでは、どれにも当たりません。
この記事では、売掛金が貸倒損失になる3つの場合、「取引停止から1年」の数え方、消費税の戻り、決算前の駆け込みで危ないところを、2026年10月時点のルールで整理します。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
売掛金の貸倒れ、先に結論
- 売掛金を貸倒れとして経費(損金)にできるのは、法人税基本通達の9-6-1から9-6-3が決めた場合です。
- 場合は3つです。まず、債権の切り捨てが決まった。次に、債務者の資産状況や支払能力からみて、全額を回収できないことが明らか。最後に、継続して取引していた相手との取引を止めて、1年以上たった。
- 督促を何回しても、それだけでは3つの場合に当たりません。
- 3つ目は、売掛金の貸倒れのうち、商売で生じた売掛債権の特例です。つまり、備忘価額を残して、残りを決算で貸倒損失として処理します。
- 回収できる見込みがあるのに、決算前に利益を減らすために貸倒れにする処理は、3つのどれにも当たりません。
- 消費税の課税事業者には、貸倒れになった分の消費税を、売上にかかる消費税から引く仕組みがあります。免税事業者は対象外です。
なお、国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在の法令等)と通達で確認しました。
売掛金の貸倒れ、3つの場合を言葉に直す
まず、通達の言葉は硬いので、売掛金の言葉に直します。
- 1切り捨てが決まった(9-6-1):取引先が会社更生や民事再生の手続に入り、更生計画や再生計画が認可されて、切り捨てられることになった部分は、その事実が起きた期の貸倒れです。債権者集会などの協議で合理的な基準によって切り捨てが決まった場合や、債務超過が相当期間続き弁済を受けられないと認められる相手に、書面で債務免除をした場合も入ります。
- 2全額回収できないことが明らか(9-6-2):相手の資産状況や支払能力からみて、全額が回収できないことが明らかになったときは、その期に貸倒れとして処理できます。ただし、担保物があるなら、処分したあとでないと貸倒れにできません。
- 3取引を止めて1年以上(9-6-3):売掛債権について、取引を止めてから1年以上がたったときに、備忘価額を残して貸倒れにできる特例です。
売掛金の貸倒れ、仮の取引先3社で考える
たとえば、仮の取引先が3社あったとします。
- 1社目:資金はあるのに「来週には」を繰り返しています。→ どの場合にも当たりません。つまり、請求を続ける相手です。
- 2社目:自己破産して、財産もなく、全額の回収が見込めないことが明らかになりました。→ 2番目に近い話です。
- 3社目:継続して取引していましたが、経営が悪化して取引を止めました。1年以上、入金がありません。→ 3番目に近い話です。
特に、売掛金の貸倒れでは1社目が大事です。払う力があるのに払わないだけの相手は、貸倒れではなく、回収の相手です。貸倒れの判断は、「払わない」ではなく「払えない」で決まります。2社目の「明らか」かどうかは個別の事情で決まるので、自己判断で処理せず、税理士に確認してください。
売掛金の貸倒れで、「取引停止から1年」はいつから数えるか
売掛金の貸倒れの3番目の特例は、1年の数え方で迷いやすい場面です。
仮の数字で、売掛金の貸倒れの1年を数える
なお、数字は説明用の仮のものです。12月決算の会社が、仮の取引先と継続して取引していました。相手の経営が悪化したため、2025年10月に取引を止めました。最後の支払期限は2025年11月30日、売掛金は税込330,000円で、そのまま入金はありません。
つまり、1年がたつのは2026年11月30日です。決算日の2026年12月31日には1年以上たっているので、12月期に、備忘価額1円を残して329,999円を貸倒損失にできます。また、国税庁の個人事業者向けの案内には「1円以上の備忘価額を残して」とあります。法人の通達も、残すのは備忘価額です。
途中で入金があったとき
では、途中で入金があったらどうでしょう。仮に、2026年3月に、相手が「少しだけ」と1万円を振り込んできたとします。通達は、取引を止めた時より最後の弁済期や最後の弁済の時が後なら、そのうち最も遅い時から数える、としています。そのため、数え始めは2026年3月になり、1年がたつのは2027年3月です。今期は対象外で、貸倒れにできるのは、早くて来期です。
売掛金の貸倒れ、3番目の特例を使う条件
次に、3番目を使うための条件を、チェックリストにします。
- 売掛金や未収請負金など、商売で生じた売掛債権であること(貸付金は対象外)
- 継続的な取引をしていた相手で、相手の資産状況や支払能力が悪化したために取引を止めたこと
- 取引停止の時(最後の弁済期や最後の弁済の時が後なら、最も遅い時)から1年以上たっていること
- その売掛債権に担保物がないこと
- 備忘価額を残して、決算で帳簿に貸倒損失として処理する(損金経理)こと
通達は「損金経理をしたときは、これを認める」と書いています。つまり、帳簿で処理することが前提です。
なお、3番目には、もうひとつ入口があります。同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が、取り立てのための旅費などの費用に満たず、督促しても弁済がないときです。ただし、取り立てに旅費などがかかる少額の債権の話で、ふつうの売掛金には当てはまりにくい入口です。
消費税の戻りは課税事業者だけ。仮の数字で計算
売掛金の貸倒れは、法人税だけの話ではありません。消費税にも、貸倒れになった売掛金に含まれる消費税を、売上にかかる消費税から引く仕組みがあります(消費税法39条)。
仮の数字で計算する
仮の数字で計算します。貸倒れになった売掛金が税込330,000円(税抜300,000円、消費税30,000円)、税率10%の取引だったとします。国税庁の計算式は、貸倒れの金額に110分の7.8を掛ける形です。
330,000円 × 7.8 ÷ 110 = 23,400円
この23,400円が、貸倒れが起きた課税期間の、売上にかかる消費税から引く額です。軽減税率の対象の売掛金は、108分の6.24を掛けます。
消費税の戻りの条件
条件も確認します。
- 1対象は、課税事業者です。免税事業者は対象外です。
- 2免税事業者だった課税期間の売上に係る貸倒れも、対象になりません(消費税法基本通達14-2-4)。
- 3貸倒れの事実を明らかにする書類を、保存しておく必要があります。
- 4貸倒れとして引いたあとに回収できたときは、消費税の計算が別にあります(タックスアンサー6631番)。
インボイスの登録をしていない免税事業者には、この仕組みはありません。
消費税の貸倒れの範囲は、消費税法の施行令や施行規則に書かれていて、法人税の貸倒損失とは別の条文です。同じ売掛金を両方の税で同じ期に処理できるかは、顧問税理士に確認しておきましょう。なお、令和8年度の税制改正の大綱には、事業再生の手続(権利変更の決議)で債権が切り捨てられた場合を、消費税の貸倒れの範囲に加える項目があります。取引先がこの手続に入ったと知らされたときは、この記事の3つの場合とは別の判断になることがあります。
売掛金の貸倒れで、決算前の駆け込みが危ない理由
売掛金の貸倒れにしても、お金は戻ってきません。税金が軽くなるといっても、売掛金の全額が戻るわけではありません。それなのに、決算前の利益調整として使いたくなる気持ちは、わかります。ただ、貸倒損失は、「利益が出たから落とす」ものではなく、事実が起きた期に処理するものです。9-6-1は「事実の発生した日の属する事業年度」、9-6-2は「明らかになった事業年度」と、時期が決まっています。
OKとNGの線引き
売掛金の貸倒れのOKとNGの線引きを、並べます。
- OK:取引先の再生計画が認可されて、切り捨てが決まった期に、その部分を貸倒れにする
- OK:担保物を処分したあと、残りが回収できないことが明らかになった期に処理する
- OK:継続取引の相手との取引を止めて1年以上たち、備忘価額を残して処理する
- NG:払う力はありそうなのに、利益が出すぎたからと、売掛金を貸倒れにする
- NG:口頭で「もう請求しません」と伝えただけで、債務免除として処理する(通達は、書面で明らかにされた債務免除を求めています)
- NG:担保物があるのに処分せず、貸倒れにする
保証人がいる場合と、1回限りの取引
売掛金の貸倒れで保証人がいる場合は、保証人からも回収できないことが前提です。国税庁の質疑応答事例(令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づく)には、保証人にも資力がなく、実質的に回収できないと考えられるときは、保証債務の履行を求めていなくても貸倒れにできる、という事例があります。裏を返せば、保証人に払う力があるなら、貸倒れにする前に、保証人への請求が先です。
もうひとつ、例外があります。通達は、不動産取引のように、たまたま取引した相手の売掛債権には3番目の特例は使えない、と書いています。一方、国税庁の質疑応答事例には、通信販売で、一度でも注文があった顧客を「継続・反復して販売することを期待して」データで管理している場合は、結果として1回限りの取引でも、「継続的な取引を行っていた債務者」として扱える、とあります。ここは、取引の実態で変わる部分です。
個人事業者と記録の残し方
個人事業者も、売掛金の貸倒れの考え方は同じです。所得税基本通達の51-11から51-13に、ほぼ同じ3つの場合が書かれていて、貸倒れの金額は、その年の必要経費になります。
最後に、記録の話です。国税庁が決まった書式を示しているわけではありませんが、督促のメール、請求書の再送、相手からの返信、電話の日時のメモは、あとで説明するときの材料になります。消費税では、貸倒れの事実を明らかにする書類の保存が条件でもあります。
売掛金の回収そのもの(裁判所の手続を含みます)は、税理士ではなく弁護士の領分です。売掛金が止まると、税金より先に、毎月の支払いが苦しくなります。売れない月に固定費をどう守るかは、こちらの記事にあります。
売掛金の貸倒れに備える、今日からの最初の一歩
売掛金の一覧を、1枚作ってください。列は6つで足ります。取引先名、請求日、支払期日、最後に入金があった日、取引を止めた日、督促した日です。「最後に入金があった日」と「取引を止めた日」は、3番目の特例の1年を数えるときに、そのまま必要になる日付です。
もうひとつ、営業の側にも一言あります。売掛金が焦げつくかどうかは、最初の取引で、ほとんど決まります。新しい取引先とは、最初の見積書に支払期日を書いておく。初回は前払いか、短い期日にしておく。遅れが出た取引先には、次の注文を受ける前に、支払いの約束を取る。どれも、売上を断る話ではありません。入金まで済んで、はじめて売上です。
営業の数字を見直す視点は、こちらの記事にまとめています。売上の数字の隣に、入金の数字も置いてみてください。
10月に営業の数字を見直す5つの視点。後半戦の売上を作る保存版
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運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):国税庁、国税庁(2)、国税庁(3)、国税庁(4)、国税庁(5)、国税庁(6)
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