「新しい取引先を探して、午後はビルを1棟ずつ回ろう」と、名刺とパンフレットを鞄に入れました。1軒目のドアの前まで来て、ふと手が止まります。「飛び込み営業って、そもそも法律的に大丈夫なんだっけ?」
答えを先に言うと、飛び込み営業そのものを禁止する法律はありません。意外なのは、そのあとです。訪問販売のルールを決めている特定商取引法は、会社が仕事のために結ぶ契約には、基本的に当てはまりません。会社に飛び込むときは、断られたあとの再訪を禁じる条文も、クーリング・オフもないのです。きびしいルールがかかるのは、個人の自宅などに行くときのほうです。
この記事では、2026年10月時点の法令(国の法令検索サイトと、消費者庁の解説で確認できる内容)をもとに、会社に行くときと個人宅に行くときの線引き、個人宅での4つの決まり、会社相手でも守っておきたいことを整理します。「断ったのに来る」と困っている社長のために、断り方の手順も付けました。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論
- 飛び込み営業そのものは、違法ではありません。
- 特定商取引法の訪問販売のルールは、営業のために結ぶ契約には適用されません(第26条第1項第1号)。電話営業(電話勧誘販売)も、同じ条文の対象です。
- 個人の自宅などへ行くときは、名乗る、断られたらやめる、書面を渡す、クーリング・オフに応じる、という決まりがあります。
- 会社相手でも、出ていくよう求められたのに居座ると、刑法の不退去罪に当たるおそれがあります(刑法第130条)。
ルールの外にいる、というのは、何をしてもよいという意味ではありません。外にいる分だけ、自分で線を引く場面が増えます。
「会社に行く」と「個人宅に行く」で、ルールが分かれます
特定商取引法でいう訪問販売は、お店や事務所(営業所等)以外の場所、たとえば消費者の自宅などで、契約の申込みを受けたり、契約を結んだりする販売のことです(第2条)。
そのうえで、第26条第1項第1号が、「営業のために若しくは営業として」結ぶ契約を、適用の外に置いています。判断の軸は、相手が誰かではなく、契約が何のためかです。仕事に使うために買う場合は、通常この除外に当たると、消費者庁の解説に書かれています。
たとえば、従業員3人の事務用品の販売会社(仮の例です)が、同じ日に2か所を回るとします。
- 午前:近所の工務店の事務所へ、コピー用紙の定期購入を提案します。仕事で使う契約なので、特定商取引法の外です。
- 午後:住宅街で、個人宅に家庭用の空気清浄機を提案します。家庭で使う契約なので、次の4つの決まりがかかります。
同じ営業担当が、同じ日に、ルールの内と外を行き来することになります。
個人宅に行くなら、4つの決まり
消費者庁の「特定商取引法ガイド」にある訪問販売の規制のうち、営業の現場にいちばん関わる4つです。
- 1名乗る(第3条):勧誘の前に、会社の名前、契約を勧誘する目的であること、売ろうとする商品の種類を伝えます。
- 2断られたらやめる(第3条の2):契約しない意思を示した相手には、その場で勧誘を続けることも、あとからあらためて勧誘することも禁止されています。勧誘を受ける意思があるかを最初に確認することは、努力義務です。
- 3書面を渡す(第4条・第5条):契約の申込みを受けたとき、または契約を結んだときに、商品の種類、価格、代金の支払時期と方法、引渡時期、クーリング・オフに関する事項などを書いた書面を渡します。
- 4クーリング・オフに応じる(第9条):決められた書面を受け取った日から数えて8日以内なら、相手は書面または電磁的記録(メールなど)で、申込みの撤回や契約の解除ができます。
4つ目の日数を、仮の日付で数えてみます。書面を受け取った日が2026年11月2日(月)なら、その日が1日目で、8日目は11月9日(月)です。通知は出した時点で効力が生じるので(第9条第2項)、11月9日までに出されれば間に合います。
クーリング・オフがあると、事業者は損害賠償や違約金を請求できません。商品をすでに渡していれば、引き取りの費用も事業者の負担です(第9条第3項・第4項)。違反した場合は、業務改善の指示や業務停止命令などの行政処分の対象になり、一部は罰則の対象にもなります。
ここは例外・注意:会社相手でも「外」とは限りません
「相手が会社だから大丈夫」と決めつけると、足をすくわれる場面があります。消費者庁の解説には、次のように書かれています。
- 契約の相手が事業者や法人なら、一律に除外される、という扱いではありません。事業者名で契約していても、買うものが主として個人用・家庭用なら、原則としてルールが適用されます。
- 実質的に廃業していたり、事業の実態がほとんどなかったりする零細事業者には、ルールが適用される可能性が高いとされています。
- 「お金を稼ぐつもりがある」というだけでは、営業のための契約とは言い切れません。取引の種類、利益活動との関連、必要な設備を準備しているかなどから、その人が取引に慣れているかを総合的に見るとされています。副業を始めたばかりの個人に勧めるときは、とくに注意が必要です。
もう1つ、お客様のほうから「うちに来て見積もりしてほしい」と頼まれた訪問は、書面やクーリング・オフを定めた第4条から第10条の対象外になります(第26条第6項第1号)。ただし、頼んだと言えるのは、契約を申し込みたい、または結びたいという意思を、はっきり伝えられた場合です。チラシの安い表示を見て来てもらったのに、実際には高額な契約になった、という場合は、その高額な契約まで頼んだとはいえないので、除外に当たらないと消費者庁は考えています。
会社相手の飛び込みで守ること。断る側の手順もあります
特定商取引法の外にいても、ほかの決まりはあります。
刑法第130条は、正当な理由がないのに、人の住居や、人が管理する建物に侵入すること、そして、出ていくよう求められたのに出ていかないことを、処罰の対象にしています。3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金です。営業に来たこと自体を罪にする条文ではありません。ただ、「お帰りください」と言われたら、話の途中でも、礼を言って帰ります。
会社相手の契約には、クーリング・オフの制度もありません。だからこそ、契約の前に、条件を書面で確かめ合うことが大事になります。
私も、飛び込み営業を1日100〜200件した日があります。そのくらい回ると、断られるのは日常です。断られたあとの動き方を先に決めておくほうが、気持ちも楽になります。
反対に、「断ったのに来る」と困っている社長のための手順です。
- 1その場ではっきり言います。「不要です。今後の訪問もお断りします」の一言で足ります。
- 2日時、会社名、担当者名、用件を、1行でメモします。
- 3受付や社内の人にも、「営業は断る」という方針を共有します。
- 4それでも来る、帰らない、という場合は、建物の管理会社や警察に相談します。
- 5個人用や家庭用のものを契約してしまったときは、書面を受け取った日を確認して、消費者庁の特定商取引法ガイドにあるお問合せ窓口や、弁護士などの専門家に早めに相談します。
今日からできる最初の一歩
訪問先のリストに、「会社/個人宅」の列と、「断られた日」の列を作ります。個人宅の先には、名乗る、断られたらやめる、書面、クーリング・オフの4つの印を付けます。断られた先には「訪問不可」と書いておけば、うっかり再訪することを防げます。
飛び込みは、回った件数が目立ちます。ただ、数えたいのは、2回目に会えた数のほうです。1回で終わった先と、また会えた先を分けて記録すると、次に使う手が見えてきます。会いたい1人を決めて通う型は、こちらの記事に書いています。
名刺1000枚超で売上ほぼゼロだった私が、会いたい1人を決めて通う営業に変えた型
件数と受注の数字を並べて見直す方法は、こちらです。
10月に営業の数字を見直す5つの視点。後半戦の売上を作る保存版
運営元:コミッターズ
令和の総合商社では、有形無形問わずに大手商社が行わないマーケティングで貴社の販路を開拓します。本気で販路を拡大したい方には60分間無料で相談に乗らせていただきます。
参考(外部サイト):e-Gov法令検索、e-Gov法令検索(2)、消費者庁、消費者庁(2)、消費者庁(3)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。