「来月の発注分から、お支払いは手形でお願いします」。長年の取引先からそう言われて、小さな会社の社長は画面の前で固まります。立場を考えると、断りにくい。「まあ、大きな会社だし」と了承の返事を打ちかけて、指が止まります。
その返事は、少し待ってください。2026年1月1日に、下請法は「取適法」に変わりました。正式な名前は、中小受託取引適正化法です。この法律の対象になる取引では、手形で代金を払うことが認められなくなりました。値上げの相談を無視して、一方的に値段を決めることも禁止されています。ただし、どの取引にも当てはまるわけではありません。取引の中身と、会社の規模の組み合わせで決まります。
この記事では、2026年10月時点の法令(国の法令検索サイトで確認できる条文)と、公正取引委員会、中小企業庁の資料をもとに、対象になる取引の見分け方、新しく加わった2つのルール、発注を受ける小さな会社が確認する3つのことを整理します。自分が発注する側になる場合の注意も書きました。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論
- 2026年1月1日に、下請法(正式名は下請代金支払遅延等防止法)は取適法に変わりました。「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」と呼びます。
- 新しく加わった主なルールは、手形払いの禁止と、協議に応じない一方的な代金決定の禁止の2つです。
- 対象になるかどうかは、取引の中身(製造、修理、情報成果物の作成、役務の提供、運送の委託)と、発注する会社と受ける会社の資本金、または従業員数で決まります。
- 対象外の取引でも、独占禁止法の「優越的地位の濫用」の規制は、別に残っています。
手形で払うと言われたら、「うちの場合は対象か」を先に確かめます。確かめる順番は、取引の中身、会社の規模、支払い方法です。
対象かどうかは「取引の中身」と「規模」の2段階で見ます
まず、取引の中身です。取適法が対象にするのは、次の5種類です(第2条)。
- 製造委託:規格や仕様を指定して、物品の製造や加工を頼む取引
- 修理委託:請け負った物品の修理を、ほかの事業者に頼む取引
- 情報成果物作成委託:ソフトウェア、映像、デザインなどの作成を、ほかの事業者に頼む取引
- 役務提供委託:運送やビルメンテナンスなど、他人に提供しているサービスの一部を、ほかの事業者に頼む取引
- 特定運送委託:お客様に納める物品の運送を、運送事業者に頼む取引
多くは、自社が仕事として売っているものや、請け負っているものの一部を、外に出す形です。建設業者が建設工事を下請に出す取引は対象外です(建設業法に別の規定があります)。自社のホームページ制作を制作会社に頼むような、自分で使うだけのものも、自社がホームページ制作を仕事にしていなければ、情報成果物作成委託には当たりません。
次に、規模です。発注する側(委託事業者)と受ける側(中小受託事業者)の組み合わせは、次のとおりです。
- 製造委託、修理委託、特定運送委託、プログラムの作成、運送・倉庫保管・情報処理の委託:発注側の資本金が3億円超なら、受ける側は3億円以下または個人。発注側が1,000万円超3億円以下なら、受ける側は1,000万円以下または個人です。
- デザインや映像の作成など、上に入らない情報成果物作成委託と役務提供委託:発注側が5,000万円超なら、受ける側は5,000万円以下または個人。発注側が1,000万円超5,000万円以下なら、受ける側は1,000万円以下または個人です。
- 資本金の基準に当てはまらないときは、従業員数で見ます。2026年1月から追加された基準で、製造委託などは発注側が300人超・受ける側が300人以下、それ以外は100人超・100人以下です。
小さな会社の目安は、1つだけ覚えておけば足ります。取引先の資本金が1,000万円を超えていて、自社が資本金1,000万円以下の会社か個人なら、規模の条件は満たします。あとは、取引の中身が先ほどの5種類に当たるかどうかです。
仮の例を2つ見ます。
- 1社目:従業員3人、資本金300万円の部品加工会社(仮の例です)が、資本金2,000万円の機械メーカーから、指定された部品の加工を請け負う。製造委託で、規模も当てはまります。対象です。
- 2社目:同じ加工会社が、資本金500万円だが従業員400人の会社から、同じ種類の仕事を請け負う。資本金の基準には当たりませんが、従業員が300人を超えています。従業員基準で、対象になります。
2社目のような取引は、2025年までは対象外でした。従業員基準は、資本金を小さくして法律を避ける抜け道を、ふさぐための追加です。
新しく加わった2つのルール
1つ目は、手形払いの禁止です(第5条第1項第2号)。手形を交付して代金を支払うことは、支払いの遅れにあたる行為として禁止されました。公正取引委員会のページには、これまでは支払サイトが60日を超える手形払いが禁止されていた、と書かれています。今回は、手形払いそのものが認められません。
電子記録債権(でんさい)、一括決済方式、ファクタリングは、すべてが禁止ではありません。ただし、支払期日までに、手数料を含む代金の満額を現金で受け取れないものは、認められません。中小企業庁の資料では、次のように整理されています。
- 満期日が支払期日以前:使えます。ただし、満期日までに支払不能になるなどして現金に換えられなかった場合は、代金を払っていないことになります。
- 満期日が支払期日より後:原則として認められません。割引料を発注側が上乗せしても、受ける側が自分で割引を受ける必要があるなら、満額を受け取った状態にならないからです。
- 発生記録、譲渡記録、受け取りなどの手数料を、受ける側に負担させて満額を受け取れない場合も、認められません。
日付で見てみます。11月30日(月)に納品した分の支払期日は、納品日(受領日)を1日目として60日目の、2027年1月28日(木)までに定めなければなりません(第3条)。以前のような支払サイト60日の手形なら、満期は60日後の3月29日(月)で、納品から120日後です。現金を手にするまでの期間が、半分になります。
2つ目は、協議に応じない一方的な代金決定の禁止です(第5条第2項第4号)。受ける側から代金の協議を求められたのに、応じなかったり、求められた説明や情報の提供をしなかったりして、そのまま一方的に代金を決め、受ける側の利益を不当に害することが、禁止されました。
公正取引委員会の運用基準では、次のように読むとされています。
- 協議の対象になる事情:労務費、原材料価格、エネルギーコストの高騰のほか、納期の短縮、納入頻度の増加、発注数量の減少、これまでの代金の引下げを求められた場合なども含みます。
- 協議に応じない:はっきり断る場合のほか、求めを無視する、実施を繰り返し先延ばしにする場合も含みます。
- 一方的に決める:引上げや引下げだけでなく、据え置きも含みます。
たとえば、従業員3人の部品加工会社(仮の例です)が、材料費の上昇を理由に、「単価の相談をしたい」とメールを送ります。返事が来ないまま3回催促して、来期の発注書には前年と同じ単価が書かれていました。対象の取引なら、協議に応じないまま、据え置きで決められた形になりえます。ただし、「利益を不当に害する」かどうかは、説明の内容や協議の経過などを見て、総合的に判断されます。
発注を受ける小さな会社が確認する3つ
- 1発注内容が、書面か電子メールなどで示されているか:給付の内容、代金の額、支払期日、支払い方法などが書かれている必要があります(第4条)。口頭だけの発注は、委託事業者の側の義務違反になりえます。電子メールなどで示された場合でも、書面を求めれば、遅滞なく交付してもらえます(第4条第2項)。
- 2支払期日と支払い方法:納品の日から60日以内か。手形ではないか。電子記録債権なら、満期日が支払期日以前か、手数料を負担させられていないか。
- 3値上げの相談の記録と、差し引かれたもの:相談した日付と内容をメールで残します。振込手数料を差し引かれていないかも見ます。公正取引委員会の運用基準では、受ける側との合意の有無にかかわらず、振込手数料を受ける側に負担させて代金から差し引くことは、減額にあたるとされています。
支払いが遅れた場合は、遅延利息がつきます。受領日から60日を経過した日から実際に支払う日まで、年率14.6%です。仮に、受領日から60日を経過した日のあと、さらに10日たってから50万円が支払われたなら、500,000円 × 14.6% × 10日 ÷ 365日 = 2,000円です。契約書に10%など別の利率を書いていても、この利率が優先されると、中小企業庁の資料にあります。
窓口に知らせたことを理由にした不利な扱いを、禁じる決まりもあります。公正取引委員会、中小企業庁、その取引を所管する大臣に事実を知らせたことを理由に、取引の数量を減らしたり、取引をやめたりすることは、禁止されています(第5条第1項第7号)。
取適法やフリーランス法で、取引条件の明示、支払期日、手形払いの禁止、振込手数料の扱いがどう決まっているかを、外注の見積書の確認とあわせて整理した記事として、「外注の見積書の見かたと確認項目を質問と答えで整理」があります。外注する側を中心に書かれていますが、受ける側の確認にも使えるとされています。
出典:おまかせ係長「外注の見積書の見かたと確認項目を質問と答えで整理」
ここは例外・注意:対象外のとき、発注する側になるとき
- 発注する側が個人事業主:委託事業者は、資本金や従業員数で決まる「法人たる事業者」と、条文に書かれています。個人事業主が発注する取引は、取適法の対象になりません。受ける側には、個人も含まれます。
- 資本金1,000万円以下の会社同士:規模の基準に当たりません。従業員基準にも当たらなければ、手形払いそのものが取適法違反とは言えません。受け入れるかどうかは、支払い条件を比べて決めます。
- 対象外でも、独占禁止法の優越的地位の濫用:取引上優越した地位にある事業者が、協賛金の負担や従業員の派遣などをさせて、相手に不当に不利益を与えることは、別に禁止されています。取引の依存度や、取引先を変えられるかなどを見て判断されます。
- 従業員数の数え方:賃金台帳の対象になる労働者の数で数えます(日々雇い入れる人は、1か月を超えて続けて使う場合を除いて、含みません)。
自分が発注する側になる場合もあります。たとえば、資本金1,500万円、従業員5人の加工会社(仮の例です)が、自社が請け負っている製品の部品加工を、個人の職人に頼むと、委託事業者になります。発注内容を書面か電子メールなどで示す、取引の記録を作って2年間保存する、支払期日を納品から60日以内に決める、といった義務がかかります。個人に仕事を頼むときは、別にフリーランス法のルールもあります。
今日からできる最初の一歩
見積書や注文書のひな形に、「支払期日」「支払い方法」「振込手数料の負担先」の3つを書く欄を作ります。新しい取引先と最初に条件を決める場面で、営業の側からこの3つを先に聞くと、あとから「手形で」と言われる場面が減ります。あわせて、取引先の資本金(登記されている金額です)も、最初の商談のうちに、会社概要や登記事項証明書で確かめておきます。
対象になるかは、その取引先との関係で決まります。大きな1社に売上が偏っているなら、売り先を増やすこと自体が、立場を守る一番の方法です。
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参考(外部サイト):e-Gov法令検索、公正取引委員会、公正取引委員会(2)、経済産業省、経済産業省(2)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。