代理店の勝手な約束が、ある日、取引先からの電話で発覚したとします。「御社の代理店の方が、定価の一割引きで、納期も早めると言っていましたが、本当ですか」。社長は初耳です。代理店に聞くと、「お客様が困っていたので、つい」。つい、で会社の値段が決まってしまっては、たまったものではありません。
民法の基本は、代理権のない人が会社の代理人として結んだ契約は、会社が追認しなければ会社には効かない、というものです。ところが、「約束していないから知りません」で済まない場合があります。ホームページの代理店一覧や名刺の肩書が、会社の責任の根拠になることがあるからです。
この記事では、代理店の勝手な約束が会社に効く場合と効かない場合の分かれ目を、仮の例で整理します。令和八年十月時点の民法にもとづく、一般的な話です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
代理店の勝手な約束、先に結論:「権限の範囲内かどうか」で決まります
まず、判定の順番は、次のとおりです。
- 代理店が、会社のために契約を結ぶ権限(代理権)の範囲内でした約束は、会社に直接効きます(民法第99条)。
- 代理権がないのに会社の代理人として結んだ契約は、会社が追認しなければ、会社には効きません(民法第113条)。
- ただし、会社が「この代理店に代理権を与えています」と相手に表示していた場合は、その範囲の行為について、会社が責任を負うことがあります(民法第109条)。
- 権限の範囲を超えた約束でも、相手が「この代理店には権限がある」と信じる正当な理由があるときは、会社が責任を負うことがあります(民法の「権限外の行為の表見代理」の条文)。
- 代理店契約が終わったあとでも、相手がそれを知らなかったときは、会社が責任を負うことがあります(民法第112条)。
なお、「正当な理由」や「知らなかった」といえるかどうかは、個々の事情で判断されます。この記事では、結論を断定せず、考え方の道筋を書きます。
代理店の勝手な約束を考える前に:その代理店は「会社の名前で契約できる人」ですか
「代理店」と呼ばれる立場には、中身がいくつかあります。この記事の話が当てはまるのは、そのうちの一部です。
- 仕入れて、自分の名前で売る販売店:買い手と契約するのは販売店自身です。会社の代わりに約束をする立場ではないので、値引きは販売店自身の判断と責任になります。
- 会社のために契約を代理する代理店:会社の名前で契約を結ぶ権限があります。この記事の中心は、この形です。
- 紹介や仲立ちだけをする代理店:お客様と会社を引き合わせるのが役目で、契約を結ぶ権限は持っていないのが基本です。
商法や会社法には、会社のために取引の代理または媒介をする独立した事業者を「代理商」と呼ぶ規定があります。ただ、契約書の題名が「代理店契約」でも、中身が販売店ということは珍しくありません。型の見分け方は、こちらの記事にまとめています。
「代理店契約」のはずが、中身は「販売店」だった?契約の3つの型と、決めておくこと
権限の範囲を契約書や資料に書いておく
別のサイトの代理店ってなんぼのもん?のコラム「代理店とフランチャイズ、始めるならどちらか」では、最初の営業を始める手順のひとつとして、「契約書と資料で、自分が説明してよい範囲(価格、条件、できること)を確かめる」ことが挙げられています。代理店の側が範囲を確かめるのは当然として、会社の側にも、その範囲を契約書や資料に書いておく役目があります。
出典:代理店ってなんぼのもん?「代理店とフランチャイズ、始めるならどちらか」
代理店の勝手な約束を仮の例で判定:「一割引き」と言ってしまった代理店
従業員が数人の備品メーカー(仮)と、その備品を取引先に紹介するデザイン会社(仮)の例です。契約書には「値引きは定価の一割まで。納期の約束は、メーカーの確認後に行う」と書いてあります。数字はすべて仮です。
一割引きを約束した場合
契約書の範囲内です。代理権の範囲内でした約束なので、メーカーに直接効きます(第99条)。
二割引きを約束した場合
契約書の範囲を超えています。取引先が契約書の中身を知らなければ、問題は、権限外の行為の表見代理の条文がいう「取引先に正当な理由があるか」に移ります。たとえば、これまで代理店が約束した条件で、メーカーが何度も出荷してきたような事情があれば、取引先が「この代理店には決める権限がある」と信じるのも無理はない、という方向の材料になります。反対に、見積書に「契約はメーカーの承認後に成立します」と書いてあれば、取引先は確認できたはず、という方向の材料になります。どちらになるかは事情しだいで、一概には言えません。
紹介だけの代理店が「この値段で決まりです」と言った場合
契約を結ぶ権限がないので、メーカーが追認しなければ、メーカーには効きません(第113条)。ただし、メーカーがホームページなどで代理権を与えたように表示していれば、あとで書く第109条の話になります。
ただし、3の場合でも、メーカーが何もしないと、取引先は「決まったはず」と思い続けます。次の一手が大事です。
追認するか、断るか。どちらも「取引先に」伝えます
代理店の勝手な約束が出てきたとき、会社の選択肢は2つです。
- 追認する:その値段で契約が成立します。売上になる話なら、追認も選択肢です。
- 追認しない:契約は会社には効きません。ただし、取引先に断りを入れる必要があります。
ここで特に気をつけたいのは、追認も追認の拒絶も、相手方に対してしなければ、その相手方には対抗できないという点です(第113条の後半。相手がすでに知っていたときは別です)。代理店にだけ「それは無効です」と言っても、取引先には伝わっていないので、取引先の側から見れば何も変わっていません。断るなら、取引先に、できれば書面かメールで、理由と一緒に伝えましょう。
代理店の側のリスク
代理店の側にもリスクがあります。権限がないのに他人の代理人として契約をした人は、自分の代理権を証明できず、本人の追認も得られなければ、相手方の選択に従って、履行か損害賠償の責任を負う、と民法に定められています(第117条。相手が代理権のないことを知っていたときなどは別です)。「つい」の約束が、代理店自身の負担になることもあるわけです。
代理店の勝手な約束で見落としがちな「表示」の落とし穴:ホームページと名刺
勝手な約束の話と同じくらい、見落とされやすいのが、会社自身の「表示」です。
- ホームページの代理店一覧に「正規代理店」と載せている
- 代理店に、会社のロゴ入りの名刺やパンフレットを渡している
- 会社のメールアドレスを、代理店に使わせている
民法第109条は、第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内でその他人がした行為について責任を負う、と定めています。もちろん「正規代理店」と書いただけで、すべての約束に責任を負うという意味ではありません。それでも、会社が自分で権限があるように見せていると、「知りません」とは言いにくくなります。
契約が終わったあとの危険
さらに、契約が終わったあとが危険です。民法第112条は、代理権を与えた人は、代理権が消えたあと、消えたことを知らなかった第三者に対して責任を負う、と定めています(相手に過失があるときは除きます)。契約を終えたのに、ホームページに代理店として載せ続けていると、この条文の出番になりかねません。
そのため、契約を終えるときは、次の順番で片づけると安心です。
- 1契約の終了日と一緒に、ホームページからの掲載削除日も決めます。
- 2代理店に、名刺・パンフレット・メールアドレスなど、会社の名前を使うものの使用をやめてもらいます。
- 3取引が続いている主な取引先には、終了の事実と、今後の連絡先を知らせます。
- 4未成約の見積りや、口頭で進んでいた話を、一覧にして整理します。
代理店の勝手な約束を防ぐ、今日からできる最初の一歩:権限を「一枚の紙」にします
まず、勝手な約束を防ぐには、代理店を叱るより、紙にしておくほうが効きます。次の項目を、代理店ごとに一枚にまとめて、契約書の別紙にします。
- 代理店が自分で決めてよいこと(たとえば、定価の範囲内の見積り)
- 会社への確認が必要なこと(値引き、納期の約束、返品の受け付け、支払条件の変更)
- 契約を結ぶ権限があるか、紹介や取り次ぎだけか
- 会社の名前・ロゴ・メールアドレスを使ってよい範囲と、契約終了後の扱い
そして、見積書や提案書の末尾に「契約は、当社の承認をもって成立します」と一行入れておくと、取引先に「確認が必要な話だ」と伝わります。この一行は、先ほどの「正当な理由」の判断でも、会社に有利な材料になります。
紙にする前の最初の一歩
紙にする前の最初の一歩は、これだけです。代理店の名簿を開いて、1社ずつ「この代理店が、自分の判断で決めてよいこと」を一行だけ書き足してみてください。書けない代理店があれば、そこが、勝手な約束が起きやすいところです。
また、この一行は、営業の振り返りにも使えます。決めていいことが明確な代理店ほど、お客様への返事が早くなりやすく、会社への確認も的を絞って済みます。権限を決めることは、代理店の動きを縛ることではなく、動きやすくすることでもあります。
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情報サイトのトップ:ENERGY BANK(系統用蓄電池の情報サイト)
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):e-Gov法令検索、e-Gov法令検索(2)、e-Gov法令検索(3)
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