営業を手伝ってもらうために、代理店に顧客リストを渡すときは、注意が要ります。たとえば、代理店に既存のお客様リストを渡したとします。共有フォルダに入れて、「これをもとに回ってみてください」。すると半年後、契約が終わった代理店が、別の会社の商品を、そのリストの相手に売り歩いていました。
「秘密保持契約を結んでいたのに」と言いたくなりますが、不正競争防止法で守られるかどうかは、契約書の有無だけでは決まりません。法律が見るのは、「営業秘密」に当たるかどうかです。そして、顧客リストがここでつまずく原因の多くは、リストの中身ではなく、渡し方にあります。
この記事では、営業秘密と認められる3つの条件と、代理店に顧客リストを渡すときにそろえておきたい4点を整理します。令和八年十月時点の不正競争防止法と、経済産業省の営業秘密管理指針にもとづく、一般的な話です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
代理店に顧客リストを渡すとき、先に結論:3つの条件がそろうと「営業秘密」になります
不正競争防止法は、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しています(第2条)。分けると、次の3つです。
- 秘密として管理されている
- 事業活動に有用な、営業上の情報である
- 公然と知られていない
顧客リストは、2つ目と3つ目はそろいやすい情報です。ただし、つまずきやすいのは、1つ目の「秘密として管理されている」です。
営業秘密に当たるリストが使われたとき
営業秘密に当たるリストを、不正の利益を得る目的などで使われたときは、使用や開示をやめるよう求めること(第3条)や、損害の賠償を求めること(第4条)ができます。さらに、営業秘密を示された人が、不正の利益を得る目的などで、管理の任務に背いて複製を作ったり、消すべき記録を消さずに消したように見せかけたりすると、刑事罰の対象にもなります(第21条)。
ただし、特定の場面で営業秘密に当たるかどうかは、最終的には事情をみて判断されます。気になるときは、弁護士に相談してください。
代理店に顧客リストを渡すとき、3つの条件に当てはめてみます
まず、1つずつ、リストに当てはめます。
- 秘密として管理されている:経済産業省の指針は、会社に「これは秘密だ」という意思があり、それが管理のしかたによって、扱う人たちに明確に伝わっていることを求めています。紙なら「マル秘」の表示、電子ファイルならファイル名やフォルダ名へのマル秘の付記や、パスワードの設定が、例として挙げられています。取引相手に情報を渡す場合は、相手と秘密保持契約を結んだうえで提供したかどうかが、ポイントになるとされています。ただし、契約がなければいつも秘密管理が不適切になる、というわけではないとも書かれています。
- 事業活動に有用:営業の役に立つ情報であることです。社名と担当者の一覧だけでなく、過去の注文や、提案への反応のメモまで入っているリストは、営業に役立つ情報という性格が強くなります。
- 公然と知られていない:ホームページで公開している導入事例や、名刺交換で誰でも知り得る担当者名だけをまとめたリストは、この条件が問題になりえます。自社で時間をかけて集めた情報が混ざっているほど、非公知といいやすくなります。
仮の例で、渡し方の違いを比べる
仮の例で、渡し方の違いを比べます。従業員が数人の備品メーカー(仮)が、代理店のデザイン会社(仮)に、既存のお客様リストを渡す場面です。
- 渡し方の一例:ファイル名は「顧客リスト」。パスワードはなく、共有フォルダに入れた。契約書に秘密保持の条項はない。
- 渡し方の別の例:ファイル名に「マル秘」と付け、パスワードを設定した。代理店契約に、目的外使用の禁止と、契約終了時の返却・消去の条項を入れた。
つまり、前者は「秘密として管理されている」といいにくい方向、後者はいいやすい方向の材料になります。どちらも、結論は事情しだいです。ただ、後者のほうが、代理店にも「これは秘密の情報だ」と伝わりやすい形です。
契約書に書いておく項目
別のサイトの代理店ってなんぼのもん?のコラム「代理店・フランチャイズ契約前の確認項目(手数料・期間・解約)」では、契約を結ぶ前の確認項目のひとつとして、「契約終了後、在庫、商標や屋号の使用、顧客情報、設備はどう扱われるか」が挙げられています。代理店になる側が確認するこの項目は、渡す側の会社にとっては、契約書に書いておく項目でもあります。
出典:代理店ってなんぼのもん?「代理店・フランチャイズ契約前の確認項目(手数料・期間・解約)」
代理店に顧客リストを渡すときにそろえる4点
代理店に顧客リストを渡すときは、次の4点を確認します。
- 1渡す範囲を絞ります。代理店が営業に使う分だけを渡します。全顧客ではなく、その代理店の担当する地域や商材に合う分に限ります。
- 2秘密であることを示します。ファイル名やフォルダ名に「マル秘」と付け、パスワードを設定します。紙で渡すなら、「マル秘」と表示します。
- 3契約に書きます。目的外の使用の禁止、複製の制限、渡したデータの返却や消去、契約が終わったあとの扱いを、秘密保持の条項として入れます。
- 4記録を残します。誰に、何を、いつ渡したかを一覧にします。リストを更新したときは、古い版を消してもらい、新しい版を渡し直します。
お客様が個人の場合
なお、お客様が個人の場合は、氏名や連絡先が個人情報に当たります。代理店に渡してよいかどうかは、営業秘密とは別に、個人情報保護法の確認が必要です。専門家に相談しながら進めてください。
また、代理店の選び方や、営業代行との違いは、こちらの記事にあります。渡す情報の量は、その相手との関係の深さに合わせて決めると考えやすくなります。
営業代行か代理店か自社営業か。迷う社長が見る判断基準5つと採点表【保存版】
代理店に顧客リストを渡した契約が終わるとき:返してもらう、消してもらう、疑うときは記録から
契約を終えるときは、次の順番で進めます。
- 1契約の終了日までに、渡したリストの一覧を作ります。
- 2終了日に、共有フォルダのアクセス権を外します。
- 3代理店に、紙とデータの返却・消去を依頼します。消去したことは、メールで報告してもらいます。
- 4代理店が自分で複製したり、加工したりしたリストも対象になることを、契約書に書いておきます。
消去したように見せかける行為
第21条には、営業秘密を示された人が、管理の任務に背いて、消すべき記録を消さずに、消したように見せかけることが、処罰の対象として挙げられています(不正の利益を得る目的などがあるときの話で、ふつうに営業に使うだけで当たるわけではありません)。何を消すべきかは契約で決めておくと、あとで話がかみ合いやすくなります。
一方、「使われているかもしれない」と思ったときは、感情的に問いただす前に、記録を集めます。契約書、渡した日と渡したリストの版、アクセスの履歴を保存して、早めに弁護士に相談してください。使用や開示をやめるよう求める手続きや、損害賠償を求める手続きが、選択肢になります。
代理店に顧客リストを渡すなら、今日からできる最初の一歩:「渡している情報」を一覧にします
まず、いま代理店に渡している情報を、全部書き出してみてください。顧客リスト、価格表、提案書のひな形、仕入れ先の情報などです。そして、それぞれに「マル秘の表示があるか」「契約に書いてあるか」「契約が終わったら返してもらえるか」の3つを確認します。
また、この一覧は、営業の振り返りにも使えます。渡した情報で、代理店がどれだけ動いてくれたかを見比べると、次に何を渡して、何を渡さないかが決めやすくなります。
なお、代理店に何をどこまで任せるかは、代理店を持つ前に決めておく条件とも重なります。こちらの記事にまとめています。
副業の営業マン300人を集めて、動いたのは10人。代理店を持つ前の3条件
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お金の学び(ウハウハ高等学校):投資やサロンで困ったときの相談窓口4つ|困りごとで選ぶ電話の使い分け
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筆者の記事:川口忠大のnote
蓄電池を知る(ENERGY BANK):系統用蓄電池の低圧・高圧比較|法人が費用と接続条件で選ぶ方法
導入先を比べる:系統用蓄電池メーカー比較|法人が製品・導入支援・保守を同じ条件で見る方法
お金の面を読む:系統用蓄電池の充電コストを読む|調達契約と託送料金
情報サイトのトップ:ENERGY BANK(系統用蓄電池の情報サイト)
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):e-Gov法令検索、経済産業省、経済産業省(2)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。