「代理店契約を終わりにしたい。でも、何か月前に言えばいいのだろう」。契約書を引っ張り出して、ページをめくります。解約の条項が、どこにもありません。小さな会社では、よくある場面です。
実は、会社法と商法には、「代理商」という立場の人に向けた条文があります。契約の期間を決めていないなら、2か月前までに予告すれば、契約を解除できると書いてあります。ただし条文は5つだけで、手数料の精算のような大事なことは、ほとんど書かれていません。
この記事では、その基本ルールと、自分の契約が当てはまるかどうかの見分け方、契約書に決めておきたい5項目をまとめます。2026年10月時点の条文にもとづいた、一般的な話です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:期間を決めていなければ「2か月前」
代理商に当てはまる契約で、期間を決めていないときは、次のとおりです。
- 2か月前までに予告すれば、会社も代理商も、契約を解除できます(会社法第19条第1項)
- やむを得ない事由があるときは、予告なしで、いつでも解除できます(同条第2項)
- 相手が個人事業主(商法でいう商人)なら、商法第30条に同じ内容があります
ただし、この条文が語っているのは、「契約の期間を定めなかったとき」だけです。1年契約のように期間を決めた契約を、途中でやめたいときの答えは、この条文からは出ません。契約書の解約条項などが先に来ます。
つまり、解約の連絡は、まず契約書を開くのが順番です。期間も解約の条項もない契約で、この「2か月前」の出番が来ます。
「代理商」にあたるのは、どんな代理店?
条文の定義は、こうです。会社のために、その平常の事業の部類に属する取引の代理または媒介をする者で、その会社の使用人でないものを指します(会社法第16条)。分けて読むと、3つの要素になります。
- 取引の代理または媒介:会社に代わって契約を結ぶか、契約が結ばれるように橋渡しをすること
- 平常:たまたまではなく、いつもの仕事として続けること
- 使用人でない:雇われている人ではなく、独立した事業者であること
たとえば、手数料型の代理店で、お客様を紹介して商談の仲立ちをしているなら、代理商に当てはまりやすい形です。いっぽう、自分で仕入れて、自分の名前で売る販売店は、「代理または媒介」という定義に、そのままは当てはまらないと考えられます。1回きりの紹介も、「平常」の点で別の話です。
ここで注意したいのは、題名より中身です。契約書の題名が「代理店契約」でも、中身が販売店なら、別のルールの話になります。契約の型の見分け方は、こちらの記事にまとめています。
「代理店契約」のはずが、中身は「販売店」だった?契約の3つの型と、決めておくこと
仮の例:3月末で終わりにしたいとき
たとえば、従業員3人の備品メーカー(仮)と、従業員2人のデザイン会社(仮)が、「代理店契約」を結んでいたとします。デザイン会社は、制作のお客様に備品を紹介して、成約ごとに手数料をもらう形です。契約書は1枚だけ。有効期間も、解約の条項もありません。
ある日、メーカーが「来年3月末で、代理店の仕組みをいったん終わりにしたい」と考えました。
- 期間の定めがないので、会社法第19条の「2か月前」が出番になります
- 3月末に終えたいなら、2か月前にあたる1月末までに、予告が届いている必要があります
- 日数の数え方で揉めないように、1月のなかばまでには伝えておくのが安全です
次の流れで進めると、あとで慌てません。
- 1契約書を探して、期間・更新・解約の条項を読む
- 2条項がなければ、終わりにしたい日から2か月以上さかのぼって、予告の日を決める
- 3予告は、日付が残る形(書面かメール)で送る
- 4進行中の商談と、これから払う手数料を一覧にして、相手と確認する
- 5お客様への案内の順番と担当を決める
私は、野村證券の新人時代、毎日手紙を3〜5枚書いて、朝いちばんに上司へ実物を見せていました。件数はごまかせても、手紙はごまかせません。解約の連絡も同じで、日付の残る文面は、あとで自分と相手の両方を守ります。
条文は5つだけ。書かれていないことのほうが多い
会社法の「会社の代理商」の節(第16条〜第20条)に書かれているのは、次の5つです。商法第27条〜第31条にも、同じ内容があります。
- 通知義務(第16条):取引の代理や媒介をしたときは、遅滞なく会社に知らせます
- 競業の禁止(第17条):会社の許可がなければ、自分や第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしたり、同種の事業を行う他の会社の取締役などになったりできません
- 通知を受ける権限(第18条):物品の販売やその媒介を任された代理商は、売買に関する通知を受ける権限があります
- 契約の解除(第19条):先ほどの「2か月前」のルールです
- 留置権(第20条):弁済期が来た債権の弁済を受けるまで、会社のために預かっている物や有価証券を留置できます。ただし、当事者が別の意思表示をしたときは別です
見落としやすいのが、競業の禁止です。許可なく同じ種類の取引をした場合、それで得た利益の額が、会社の損害の額と推定されます(第17条第2項)。だから、他社の似た商品を扱ってよいのか、だめなのかは、契約書で先に決めておくと安心です。
なお、競合品を扱わせない条件を付けることは、独占禁止法の問題になる場合もあります。公正取引委員会の指針では、市場で有力な事業者が、取引先に競合品の取扱いを制限する場合が取り上げられています。小さな会社どうしの契約で問題になることは、通常は考えにくいですが、気になるときは専門家に確認してください。
そして、解約のときに実際に困るのは、条文に書かれていない部分です。
- 解約後の手数料(継続分と、進行中の商談分)
- 預かっている資料・サンプル・お客様情報の返却
- 解約後の他社商品の取扱い
- お客様への案内の担当
契約前に何を確かめるかを並べた記事として、「代理店・フランチャイズ契約前の確認項目(手数料・期間・解約)」があります。契約期間と更新、解約の予告、違約金に加えて、契約終了後の在庫や顧客情報の扱いも確認項目に挙がっています。
出典:代理店ってなんぼのもん?「代理店・フランチャイズ契約前の確認項目(手数料・期間・解約)」
契約書に決めておきたい5項目
条文に頼らなくて済むように、契約書には次の5項目を入れておきましょう。
- 1期間と更新:有効期間、自動更新の有無、更新しないときの連絡の期限
- 2解約の予告期間と方法:何か月前に、どんな形(書面かメール)で伝えるか
- 3すぐに終えられる場合:どんな約束違反があれば、予告なしで終えられるか
- 4解約後の手数料:継続分と進行中の商談分を、いつまで、どの条件で払うか
- 5競合品の取扱いとお客様情報:許可するか、事前連絡にするか、資料や情報を返すか
たとえば、有効期間は1年、自動更新、更新しないときは期間満了の3か月前までに書面で通知、といった形にしておけば、「何か月前」で迷いません。この数字は仮のものです。商品や商談の長さに合わせて、双方で決めてください。
契約書に別の取り決めがあるときの、条文との関係は、契約の中身しだいです。判断が難しいので、弁護士などの専門家に確認してください。
今日からできる最初の一歩
売る側なら自社の契約書のひな形、代理店の側なら手元の契約書を開いて、「期間」「解約」「競合品」の3つの言葉を探します。見つからない項目には付箋を貼って、双方で1枚の覚書にしてください。
代理店ビジネスは、在庫や開発を持たなくていいぶん、始め方と終わり方の紙1枚が、ものを言います。終わり方を先に決めた契約は、始めるときも気が楽です。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):e-Gov法令検索、e-Gov法令検索(2)、公正取引委員会
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。