代理店に売値を指示したいと考えて、契約書に「売値は当社が指定する」と書く社長は、少なくありません。「安売りされたら、商品の値打ちが下がってしまう」という心配があるからです。
実は、代理店に売値を指示してよいかどうかは、「代理店」という名前だけでは決まりません。独占禁止法は、売る会社が取引先の売値を決めて守らせることを、原則として禁止しています。ただし、取引先が「単なる取次ぎ」で、実質的に売る会社が自分で売っていると言える場合は、通常は問題にならないとされています。分かれ道は、売れ残りなどの危険と、かかる費用を、誰が負うかです。
公正取引委員会は2026年7月8日に、この部分の指針の改正を公表しました。通常は違法とならない場合の該当例と具体例が、追加されています。そこでこの記事では、仮の3パターンに当てはめて、線引きを整理します。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
代理店に売値を指示していいか、先に結論:見るのは危険と費用を誰が負うか
答えを先に並べます。
- 原則:売る会社が、買った相手(販売店など)の売値を定めて守らせることは、再販売価格維持行為として、原則として違法です(独占禁止法第2条第9項第4号)
- 例外:取引先が「単なる取次ぎ」として動き、実質的に売る会社が売っていると認められる場合は、通常は問題にならないとされています
- 判断の中心:取引先が消費者に売るまでに生じる危険と費用を、売る会社が自ら負っているかどうか
- 判断のしかた:契約書の題名ではなく、実際の取引の実態で見ます
売値を「守らせる」範囲は広い
「守らせる」の範囲は、思ったより広いものです。公正取引委員会の指針では、契約で義務づけるだけでなく、従わない取引先への出荷停止や出荷量の削減、リベートの削減、売値の報告を求めること、店頭の価格を見張ることなども、拘束にあたる例として挙げられています。拘束される価格も、確定した価格だけではありません。下限価格や、希望小売価格の一定割合以内といった指示も含まれます。
代理店に売値を指示できる条件になる「危険」と「費用」
通常は問題とならない場合の条件になるのが、危険と費用の負担です。公正取引委員会の指針と、よくある質問のページには、次の内容が示されています。
危険として挙げられているもの:
- 売れ残りの危険
- 商品が契約の内容に合っていなかった場合の危険
- 在庫の滅失や毀損の危険(取引先が通常の注意を払っていた場合)
- 代金を回収できない危険
費用として挙げられているもの:
- 在庫の保管費用
- 輸送費用
- 広告宣伝費用
- このほか、荷造り、見本、人件費、研修、保険料など、取引の内容によってさまざまな費用
費用を先に示す3点
さらに、費用の全部は、売る会社が把握しきれないことがあります。そこで指針は、次の3点を、売る会社が取引先に先に示す方法を挙げています。
- 1消費者に売るまでの費用を、売る会社が負担すること
- 2費用の項目と、負担の方法
- 3項目に足りないものがあれば、取引先が協議を申し出られること
つまり、申し出があれば協議に応じて、確認した費用を売る会社が負担すれば、通常は負担したと考えられます。ただし、一部でも取引先に負担させるなら、負担したことにはなりません。
なお、この考え方は、委託販売で、委託する側が危険を負うなら売値を指示してよい、という考え方と、基本的には同じ筋道です。
仕入れて売る型と代理・媒介型の代理店、取次店などを、契約の相手方や売れ残りのリスクを誰が負うかで比べた記事に、「販売代理店・取次店・紹介・フランチャイズの違い」があります。売値を供給元が指示する契約では、自分が危険を負う売買の当事者なのか、委託販売に近いのかを見る点にも触れています。
出典:代理店ってなんぼのもん?「販売代理店・取次店・紹介・フランチャイズの違い」
代理店に売値を指示できるか、仮の3パターンに当てはめる
従業員4人の雑貨メーカー(仮)が、代理店に雑貨を売ってもらう場面で考えます。内容はすべて説明用の仮のものです。
まず、パターン1は手数料型の代理店です。お客様との契約はメーカーが結び、代理店は商談を取り次いで、成約ごとに手数料をもらいます。代理店は商品を仕入れません。売れ残りも、代金の回収も、メーカーの負担です。売値はメーカーが決めて、代理店はその価格でお客様に案内します。
- 代理店は取次ぎに近い動きをしています
- 実質的にメーカーが売っている形なので、通常は問題になりにくいと考えられます
パターン2:買取り型の代理店に売値を指示する場合
買取り型の代理店です。代理店が雑貨を仕入れて、自分でお客様に売ります。売れ残りの在庫も、代金の回収も、代理店の負担です。メーカーが「この価格より安く売らないこと」と指示して、守らなければ出荷を止めます。
- 代理店が危険を負っているのに、売値を拘束しています
- 下限価格の指示も拘束に含まれます
- 再販売価格維持行為に当たるおそれが高い形です
パターン3:メーカーが危険と費用を負う代理店の場合
買取り型だが、メーカーが危険と費用を負う代理店です。売れ残りは返品でき、返品の費用もメーカーが負担します。在庫の傷みや代金の回収不能の危険も、メーカーの負担です。保管、輸送、広告の費用も、項目と負担の方法を文書でメーカーが示して、代理店からの協議の申し出にも応じます。
- 取引の形は買取りでも、危険と費用はメーカーにあります
- 危険と費用をメーカーが負う形に当てはまれば、売値を指示しても通常は問題にならないとされています
- ただし、代理店に負担が1つでも残ると、この考え方から外れます
例外・注意:代理店に売値を指示するとき、足をすくわれる点
次の5点は、見落としやすいところです。
- 名前は決め手になりません:契約書に「代理店」と書いても、危険と費用を代理店が負っていれば、買取り型の話になります。契約の型の見分け方は、こちらの記事にあります。
「代理店契約」のはずが、中身は「販売店」だった?契約の3つの型と、決めておくこと
- 一部でも代理店の負担になると外れます:たとえば、在庫の保管料、見本代、研修の参加費を代理店が払う契約なら、「費用を負う」とは言いにくくなります
希望小売価格と、サービスの代理店
- 希望小売価格の提示だけなら、それ自体は問題になりません:ただし、守らせると違法になります。指針は、「定価」のような拘束的な言葉を避けて、「参考価格」「メーカー希望小売価格」と書き、販売価格は取引先が自主的に決めるものだと示すよう勧めています
- サービスの代理店でも他人事ではありません:取引先が自分でサービスを提供して消費者に売る形なら、価格の指示が拘束条件付取引として問題になるおそれがあると、公正取引委員会のよくある質問のページに書かれています
- 例外の「正当な理由」は条件が厳しいものです:指針には、競争を促す効果があることなど、すべてを満たす場合に限って認められる考え方もあります。安易に頼れるものではありません
この記事は、公正取引委員会が公表した指針の一般的な考え方の整理です。個別の取引が問題になるかどうかは、具体的な事実関係で判断されます。迷う契約は、弁護士などの専門家や、公正取引委員会の相談窓口に確認してください。
代理店に売値を指示する前の、今日からできる最初の一歩
まず、自社の代理店契約書で、売値の条項を探して、次の3つの質問に答えてみてください。
- 1お客様と契約を結ぶのは、誰か
- 2売れ残りと、代金の回収不能と、在庫の傷みを負うのは、誰か
- 3保管、輸送、広告の費用を払うのは、誰か
このとき、3つとも売る会社なら、売値を決めることと相性がよい形です。ひとつでも代理店が負っているなら、売値は「参考価格」にして、代理店が自分で決められるようにしておきます。
代理店にとって、在庫や代金回収の危険を負わないことは、手数料型のいいところです。その代わりに、売値は売る会社が決める。この交換が成り立つ形かどうかを、契約書の1枚で確かめておくと、あとで揉めません。
ほかのコラムも、あわせてどうぞ
お金の学び(ウハウハ高等学校):投資やサロンで困ったときの相談窓口4つ|困りごとで選ぶ電話の使い分け
営業・販路のコラム:コミッターズ コラム
筆者の記事:川口忠大のnote
蓄電池を知る(ENERGY BANK):系統用蓄電池の低圧・高圧比較|法人が費用と接続条件で選ぶ方法
導入先を比べる:系統用蓄電池メーカー比較|法人が製品・導入支援・保守を同じ条件で見る方法
お金の面を読む:系統用蓄電池の充電コストを読む|調達契約と託送料金
情報サイトのトップ:ENERGY BANK(系統用蓄電池の情報サイト)
運営元:コミッターズ
令和の総合商社では、有形無形問わずに大手商社が行わないマーケティングで貴社の販路を開拓します。本気で販路を拡大したい方には60分間無料で相談に乗らせていただきます。
参考(外部サイト):公正取引委員会、公正取引委員会(2)、公正取引委員会(3)、e-Gov法令検索
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。