冷凍で仕入れたマグロのさくを、朝のうちに解凍して、冷蔵ケースに並べるとします。値札には「本マグロ 中トロ」。切り口はきれいで、色もよく、いい仕上がりです。この札で、よいのでしょうか。
じつは、国の基準では、冷凍したものを解凍して売る魚には、「解凍」と表示することが決まっています。ケースに入れた直後はまだ凍っていたとしても、同じです。ケースの中では凍った状態を保てないから、というのが消費者庁の考え方です。
この記事では、2026年10月20日時点の食品表示基準で、鮮魚の札に書くことを整理します。名称、産地、解凍、養殖の4点です。産地を水域名で書く方法と、書かなくてよい例外もあわせて見ていきます。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論
消費者に売る生鮮の魚には、次の表示が必要です(食品表示基準 第18条、第19条と別表第24)。
- 名称:その魚を表す一般的な名称
- 原産地:国産は水域名、輸入は原産国名
- 「解凍」:凍結させたものを解凍した魚だけ
- 「養殖」:養殖された魚だけ
産地には、細かい決まりがあります。国産の天然魚は、水域名を書きます。水域名の表示が難しいときは、水揚げした港の名前か、その港がある都道府県名で代えられます。国産の養殖魚は、主たる養殖場がある都道府県名です。
かば焼きや刺身の盛り合わせのような加工食品は、別のルールです。この記事の対象は、切る前後の生の魚介です。凍ったまま冷凍ケースで売る魚の話でもありません。
運用の考え方は、消費者庁の食品表示基準の質疑応答集(第3章 生鮮食品)で確認しました。
売り場で見る、魚ごとの札
たとえば、従業員3人の魚屋さん(仮の例)のケースを見てみます。
- 冷凍マグロのさく(輸入品)を朝に解凍して並べた:名称、原産国名、「解凍」
- 冷凍エビ(輸入品)を解凍して並べた:同じく、名称、原産国名、「解凍」
- 近くの港に揚がったブリ(天然):名称、産地。「解凍」「養殖」は要りません
- 県内の生けすで育てたタイ:名称、「養殖」、主たる養殖場がある都道府県名
- 給餌をしていない貝:養殖の表示は要りません(質疑応答集では、給餌をしていなければ養殖に当たらないとされています)
- マグロとハマチの刺身の盛り合わせ:加工食品として扱われ、解凍・養殖の表示の義務はありません(加工食品としての別の表示が要ります)
3つ目のブリのように、水揚げされたままの魚は、札がいちばん簡単です。いちばん見落としやすいのは、1つ目と2つ目です。仕入れたときは冷凍でも、売り場に出すときは「解凍」の札が要ります。
質疑応答集には、マグロのさくの例が載っています。凍った状態のさくを冷蔵ケースで売る場合は、ケースに入れた直後が冷凍でも、凍結状態を保てないので、解凍の表示が必要です。
朝の作業の流れは、こうなります。
- 1納品書で、冷凍かどうか、産地、養殖かどうかを確認します
- 2冷凍で届いた魚を解凍したら、札に「解凍」を足します
- 3札を、ケースの中の魚の近くに立てます
- 4納品書は、札の根拠として、すぐ出せる場所に置いておきます
産地は水域名。例は「三陸沖」や「日本海西部」
国産の天然魚の産地は、原則として水域名です。水産庁のガイドラインでは、実際の生産水域を表し、かつ一般に理解される水域名を書くとされています。例として、次のようなものが挙がっています。
- 地名に「沖」をつけた名称:「銚子沖」「三陸沖」「山陰沖」
- 個別の水域の名称:「陸奥湾」「紀伊水道」「玄界灘」「津軽海峡」
- 漁獲統計の海区に準じた名称:「日本太平洋北部」「日本海西部」「東シナ海」「瀬戸内海」など
水域名の表示が難しい場合は、水揚げした港名か、水揚げした港が属する都道府県名で代えられます(第18条)。質疑応答集は、難しい場合の例として、水域をまたいで漁をする場合を挙げています。
水域名に港名を足して書く方法もあります。たとえば「日本海西部(○○漁港)」のような形です(仮の例です)。水産庁のガイドラインは、港名や都道府県名を、水域名に添えて使えるとしています(第18条にも、水域名に港名や都道府県名を併記できるとあります)。
産地のまとめは、次のとおりです。
- 国産の天然魚:水域名(難しいときは、水揚げした港名か、その港がある都道府県名)
- 国産の養殖魚:主たる養殖場がある都道府県名(2か所以上で養殖したときは、養殖した期間がいちばん長い場所のある都道府県)
- 輸入品:原産国名(水域名を添えてもかまいません)
- 同じ魚で、産地の違うものを混ぜたとき:重さの多い順に、産地を書く
- 違う種類の生の魚介を詰め合わせて、産地がそれぞれ違うとき:それぞれの名称に、産地を添えて書く
この産地を、売り場で毎回調べる必要はありません。仕入れ先の納品書や送り状に、水域名、養殖の別、解凍の別が書いてあれば、札は書き写すだけです。水産庁のガイドラインでも、生産者や卸の側は、送り状や伝票に水域名を書いて、販売先に伝えるとされています。
札を立てる場所と、お店向けの扱い
食品表示基準は、表示の場所も決めています(第22条)。
- パックなどの容器包装に入れた魚:容器包装の見やすいところに書きます。ただし、原産地、解凍、養殖は、魚の近くの見やすい場所に立札などを掲げる方法でも構いません。名称も同じ方法が使えますが、切り身やむき身の名称は、容器包装に書きます
- 容器包装に入れずに売る魚:魚の近くの見やすい場所に、立札などを掲げます
- 消費者に直接は売らない事業者(卸など):送り状や納品書に書く方法でも構いません
3つ目は、飲食店や小売店に魚を卸す側の話です。納品書に、名称、産地、解凍・養殖の別を書いておけば、受け取る店は、メニューや売り場の札を書きやすくなります。仕入れ先に選ばれるときの条件については、こちらの記事にまとめています。
ただし、例外と注意
まず、表示が要らない場合です。食品表示基準の第18条は、容器包装に入れないで、かつ、生産した場所で販売する場合を外しています。水産物でいう「生産した場所」とは、生産者が、水揚げした場所で、自分で消費者に売る場合のことです(質疑応答集)。
注意したいのは、「生産」の意味です。水産物の「生産」は漁ろうそのものを指し、切断や冷凍は含まれません。小売店で魚を切り身や刺身にしても、表示の義務がなくなるわけではありません。
次に、飲食店で食べてもらう場合です。食品表示基準は、設備を設けて飲食させる場合には適用されません(第18条)。メニューの「天然」や産地の書き方は、景品表示法の問題になります。
3つ目は、「天然」の書き方です。養殖に当たらない魚が、そのまま「天然」と書けるわけではありません。質疑応答集では、事実として天然であれば表示は可能とされています。ただし、実際より著しく優良だと誤認させる用語や、品質を誤認させる文字・写真は、表示してはならないとされています(第23条)。産地や天然の根拠は、納品書で確認できるようにしておきましょう。
4つ目は、刺身用のさくや切り身です。一度も凍らせていない、生食用の切り身やむき身をパックに入れて売るときは、別表第24により、表示の項目が増えます。主なものは、次のとおりです。
- 「生食用」「刺身用」などの文言
- 消費期限(または賞味期限)と、保存の方法
- 加工所の所在地と、加工する人の氏名または名称
- 使った添加物
ふぐなど一部の魚介には、別表第24に専用の項目もあります。刺身を扱うときは、保健所にも相談して、表示と衛生の両方を確認しておくと安心です。
今日からできる最初の一歩
営業の目線で見ると、鮮魚の札は、お客様への最初の説明です。「冷凍を解凍した魚です」「○○沖の天然です」と、札に正直に書いてある店のほうが、お客様は安心して買えます。
最初の一歩は、売り場の札を、ケースの前で1枚ずつ読み直すことです。解凍した魚の札に、「解凍」の文字があるかを見ます。そのうえで、仕入れ先に、納品書へ水域名と、解凍・養殖の別を書いてもらえるか聞いてみます。この1回の確認が、年末の忙しい時期の札づくりを、ずっと楽にします。
このフロア全体の案内は、こちらにまとめています。
「B1F 農産・水産フロア」の歩き方。産地を見て選ぶ売り場と、食まわりのお金のルール
運営元:コミッターズ
令和の総合商社では、有形無形問わずに大手商社が行わないマーケティングで貴社の販路を開拓します。本気で販路を拡大したい方には60分間無料で相談に乗らせていただきます。
参考(外部サイト):e-Gov法令検索、消費者庁、農林水産省、農林水産省(2)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。