年末が近づくと、倉庫で在庫を数える日がやってきます。個数を数え終わって、ほっとしたところで、次の問いが来ます。「この在庫、1個いくらで数えるんだっけ?」。去年と同じ表計算ソフトに、いちばん新しい仕入れ値を入れて終わり、という会社も多いはずです。
じつは、その「いちばん新しい仕入れ値で全部を数える」やり方には、ちゃんと名前があります。最終仕入原価法です。在庫の評価方法を税務署に届け出ていない会社や個人事業主は、自動的にこの方法になります。そして、仕入れ値が上がった年は、この方法だと在庫が高く数えられ、そのぶん利益と税金が増えます。
この記事では、評価方法の違いを仮の数字で比べ、届出と変更の期限を整理します。2026年10月時点のルールです。12月決算の会社が来期から変えるなら、申請の期限は2026年12月31日です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:届出がなければ、在庫は「最後に仕入れた単価」で全部数えます
税金の計算では、期末に残った在庫(棚卸資産)の金額をどう出すかを、決められた方法から選びます。
- 選べる方法:個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法などの原価法と、原価法の額と期末の時価の低いほうをとる低価法
- 届出をしないとき:最終仕入原価法による原価法になります(法人税法施行令31条、所得税法施行令102条)
- 選ぶ単位:事業の種類ごと、商品・製品・原材料などの区分ごとに選びます(法人税法施行令29条)
最終仕入原価法は、期末からいちばん近い日に仕入れた1個あたりの値段を、残った在庫すべての単価にする方法です。計算は楽です。ただし、値段が動いた年は、実際の仕入れの順番とは関係なく、最後の単価で全部が決まります。
在庫が「売れるまで経費にならない」仕組みそのものは、こちらの記事にあります。
仕入れた商品は「売れるまで」経費にならない。売れ残り在庫のホントのルール
値上がりの年に何が起きるか:仮の数字で比べます
従業員3人の、輸入雑貨の卸の会社があるとします(すべて仮の数字です)。12月決算で、ある商品の1年の動きは次のとおりです。
- 1月:1個500円で3,000個を仕入れ
- 11月:値上がりして、1個600円で500個を仕入れ
- 1年で2,500個が売れ、12月31日に1,000個が残った
この1,000個を、2つの方法で数えます。
- 1最終仕入原価法:最後の単価600円 × 1,000個 = 60万円
- 2先入先出法:古いものから売れたと考えるので、残りは11月の500個(600円)と1月の500個(500円)。30万円 + 25万円 = 55万円
- 3総平均法(年1回):1年の仕入れの合計180万円を3,500個で割ると、1個あたり約514円。1,000個で約51万4千円
最終仕入原価法と先入先出法の差は5万円です。総平均法と比べると、約8万6千円の差になります。期末の在庫が5万円高いと、その年の売上原価が5万円少なくなり、利益が5万円増えます。この商品1つでこの差なので、取り扱う商品が数百あり、軒並み値上がりした年なら、差はもっと大きくなりえます。
ただし、これは税金が「増えっぱなし」になる話ではありません。今年高く数えた在庫は、来年売れたときに、そのぶん大きな売上原価になります。利益が出る年がずれるだけです。逆に、仕入れ値が下がった年は、最終仕入原価法のほうが在庫は低く数えられます。どちらが有利と決めつけず、自社の仕入れ値の動きで考えます。
届出と変更の期限:法人と個人事業主で違います
方法を選ぶ届出と、いまの方法を変える申請は、別の手続です。
- 法人が最初に選ぶ届出:設立第1期の確定申告書の提出期限まで(国税庁の届出手続の案内、法人税法施行令29条2項)
- 個人事業主が最初に選ぶ届出:事業を始めた年分の確定申告期限まで(国税庁の届出手続の案内、所得税法施行令100条)
- 法人が変える申請:新しい方法を使いたい事業年度が始まる日の前日まで(法人税法施行令30条2項)
- 個人事業主が変える申請:新しい方法を使いたい年の3月15日まで(所得税法施行令101条2項)
届出をしていない会社が別の方法にしたいときは、すでに「最終仕入原価法を選んでいる」扱いなので、変更の承認申請になります。2026年10月下旬の時点で、期限を具体的な日付にすると次のとおりです。
- 12月決算の法人が、2027年1月1日からの期で変える:2026年12月31日まで
- 3月決算の法人が、2027年4月1日からの期で変える:2027年3月31日まで
- 個人事業主が、2027年分から変える:2027年3月15日まで
今期の決算で数えている在庫には、もう間に合いません。変えた方法が使えるのは、次の期からです。12月決算の会社なら、年末の棚卸しの準備と、来期の評価方法の申請が、同じ12月に重なります。申請書には、変えたい理由を書く欄があります。「仕入れ値の変動が大きく、実際の仕入れの順番に近い方法で数えたい」など、自社の事情で説明できるようにしておきます。
なお、新しく別の種類の事業を始めたときは、その事業の在庫について、改めて届出をすることになります。雑貨の卸の会社が、新しく飲食店を始めたような場合です。
例外と注意:使えない方法、却下される申請
ここが、いちばん間違えやすいところです。
- 個人事業主の低価法:青色申告の承認を受けていない年分は、原価法しか選べません(所得税法施行令99条1項)。白色申告の人は低価法を使えません
- 個別法が使えない在庫:大量に一度に仕入れ、規格で値段が決まっている品には、個別法は選べません
- 変更が却下される場合:いまの方法を採用してから相当の期間がたっていないときや、変えると所得の計算が適正にできないと認められるときは、申請が却下されることがあります(法人税法施行令30条3項)。「今年は利益が多いから変える」を毎年くり返すことはできません
- 届けた方法で数えていないとき:届け出た方法で評価していないと、最終仕入原価法で計算し直されることがあります
また、在庫の個数をごまかしたり、まだある在庫を「なくなった」ことにしたりするのは、評価方法の話ではなく、利益の過少申告です。評価方法の選択は、どの物差しで測るかを先に決めておく話で、決算のたびに都合よく選び直す話ではありません。個別の判断は、顧問税理士に確認してください。
最初の一歩:今年の仕入れ単価を、商品ごとに並べてみます
まず、売上の大きい商品を10個選び、今年の最初と最後の仕入れ単価を並べてみてください。差が大きい商品が多いなら、評価方法を見直す価値があるかもしれません。
この表は、税金のためだけの資料ではありません。仕入れ単価が上がったのに売値を据え置いている商品が、ひと目でわかります。値上げをお願いする取引先の順番や、在庫を早く回したい商品を決める材料になります。在庫を営業の動きに置きかえる考え方は、こちらの記事にあります。
売上は立つのに現金が減る会社へ。在庫を週の営業件数に割る4つの手順と3つの数字
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):国税庁、国税庁(2)、e-Gov法令検索、e-Gov法令検索(2)、中小機構
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。