展示会の翌朝。名刺の束を机に広げて、「せっかくだから、全員に新サービスの案内を送っておこう」と、メールの作成画面を開きます。宛先に20人ぶんのアドレスを並べたところで、送信ボタンの前で手が止まります。「これ、いきなり営業メールを送って大丈夫なんだっけ?」
その手の止まり方は、正しいです。営業や宣伝のメールには「特定電子メール法」という法律があり、原則として、相手が同意していない人には送れません。ただし、この原則には、名刺をもらった相手にも関わる例外が、ちゃんと用意されています。
この記事では、2026年10月時点の法令(国の法令検索サイトで確認できる条文)をもとに、送ってよい相手の見分け方、メールに入れる5項目、配信停止を頼まれたときの扱いを整理します。最後に、明日から使える「送る前の4列チェック」も付けました。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論
- 営業・宣伝のメールは、特定電子メール法の対象です。原則は、相手が「送ってよい」と同意した場合にだけ送れます(オプトイン)。
- 例外として、名刺などの書面でアドレスを教えてくれた相手、取引関係のある相手、ウェブサイトでアドレスを公表している事業者には、同意がなくても送れます。
- 送れる相手でも、メールに5つの項目を表示することと、配信停止を頼まれたらそれに従うことは、守る必要があります。
名刺交換は、4つある入口のうちの1つにすぎません。そして、入口を通れても、書くべきことを書き忘れるとルール違反になります。
「広告宣伝」を含むメールだけが対象です
この法律が相手にするのは、会社や、仕事として営業している個人が、自分や他人の営業の広告や宣伝のために送るメールです(第2条)。メールだけでなく、電話番号を宛先にして送るショートメッセージも、通信方式として対象に含まれています。
では、お礼や事務連絡はどうでしょうか。総務省と消費者庁のガイドライン(平成23年8月版)には、対象にならない例が書かれています。
- 取引条件を知らせる事務連絡や、料金の請求のお知らせ(広告や宣伝の内容がなく、広告のウェブサイトへ誘導もしないもの)
- 単なる時候の挨拶(同じく、広告も誘導もないもの)
逆に、営業上のサービスを紹介するウェブサイトへ誘導することが目的に入っているメールは、対象になります。たとえば、「先日はありがとうございました」で始めても、末尾に「新サービスの詳細はこちら」とリンクを付ければ、広告宣伝のメールとして扱われるおそれがあります。
広告も誘導もない、お礼だけのメールは、上の「時候の挨拶」に近い側にあると考えられます。案内つきのメールとは、ルールの上では別物です。
送ってよい相手は、法律で4種類です
第3条第1項は、次の4種類「以外」の相手に、特定電子メールを送ってはならないと決めています。言いかえると、どれかに当たる相手になら、送れます。
- 同意した相手:「広告や宣伝のメールを送ってもよい」と、あらかじめ伝えてくれた人です。
- 書面でアドレスを通知した相手:名刺などの書面で、自分のメールアドレスを教えてくれた人です。
- 取引関係のある相手:広告をする会社と、取引関係にある人です。
- アドレスを公表している事業者:ウェブサイトなどでアドレスを公開している会社や、営業をしている個人です。
それぞれ、ひとことずつ補足します。
名刺は、ガイドラインに例として出てきます。書面でアドレスを渡した側にも、「このあとメールが届くことがある」という心づもりがあるはず、という考え方です。法律の文言は「送信者または送信委託者に対し通知した者」です。名刺を受け取った会社が送る分は当てはまります。名刺のデータを別の会社に渡して、その会社の営業メールとして送ってもらうやり方は、当てはまるかどうかを別に確認してください。
取引関係は、ガイドラインでは、社会通念上、はっきり断られなければ広告メールが届いてもよいと考えられる関係と説明されています。例として、一度買っただけでは足りない場合があり、今後も取引が続く見込みがあるなら該当しうる、と書かれています。
公表アドレスは、ウェブサイトなどで誰でも見られる形にしているものが対象です。ただし、アドレスと並べて「広告メールはお断りします」のような文言があれば、この入口は使えません(施行規則第3条)。また、事業をしていない個人は、公表していても対象外です。
たとえば、従業員3人の印刷業の会社が、3件に営業メールを送りたいとします。
- 展示会で名刺を交換した、ある会社の担当者。書面でアドレスを通知した相手に当たります。送れます。
- 自社サイトに問い合わせ用のアドレスを載せている、別の会社。公表している事業者に当たります。サイトに拒否の文言がなければ、送れます。
- SNSのプロフィールにアドレスを載せていた、事業をしていない個人の方。公表の入口は、事業をしている個人に限られます。同意も名刺もなければ、送れません。
名簿を買う場合も同じです。1件ずつ、4つのどの入口に当たるのかが分からないと、送れるかどうかを判断できません。
送るときに入れる5項目と、配信停止の扱い
送れる相手でも、メールには決められた項目を表示します(第4条、施行規則第9条)。
- 送信者の氏名または名称
- 配信停止の連絡を受け付けるメールアドレス、またはURL
- その連絡で配信を止められる、という案内
- 送信に責任を持つ者の住所
- 苦情や問い合わせを受け付ける電話番号、メールアドレス、またはURL
メールソフトの署名に登録しておけば、入れ忘れを防げます。営業担当が何人いても、同じ型になります。
次に、配信停止です。第3条第3項は、4種類のどの相手であっても、「もう送らないでほしい」という通知を受けたら、その意思に反して送ってはならないと決めています。通知の方法は、施行規則第5条で、メールのほか任意の方法とされています。返信の一言でも、問い合わせフォームでも、停止の依頼として扱います。
配信停止の依頼が来たときの手順は、次のとおりです。
- 1受け取った日のうちに、送信リストから外す
- 2いつ、誰から、どの方法で頼まれたかを、1行メモする
- 3担当者が複数いるなら、全員のリストから同時に外す
- 4「商談中だから」「前に名刺をもらったから」を理由に、もう1通送ることはしない
同意をもらって送る場合は、同意があったことを示す記録の保存も必要です(第3条第2項)。保存期間は、原則として、最後にその相手へ送った日から1か月です(施行規則第4条)。
ここは例外・注意:罰則の流れと、停止後も送れるメール
守らなかった場合の流れも、押さえておきます。第3条や第4条を守っていないと国が認めたときは、まず総務大臣と内閣総理大臣が、送り方を改める措置命令を出せます(第7条)。命令に従わないと、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です(第34条)。命令に従わない行為を社員が仕事でした場合は、会社にも3,000万円以下の罰金が科されます(第37条)。
一方で、送信元のアドレスなどを偽ったメールは、命令を待たずに同じ罰則の対象です(第5条、第34条)。
措置命令の条文には「一時に多数の者に対して」の送信と書かれています。かといって、少ない通数なら何をしてもよい、という意味ではありません。10通でも1,000通でも、同じ型で送るほうが、あとで困りません。
もう1つ例外があります。契約の申込みをした人や契約した人に、契約の内容や履行について知らせるメールに、広告がおまけとして付く程度なら、配信停止の依頼があった相手にも送れます(施行規則第6条)。ただし、広告が主役のメールは、この例外に入りません。契約の連絡と案内メールは、分けて送りましょう。
なお、この記事は、会社や事業者への営業メールを中心に書いています。個人のお客様向けは、確認する点が増えることがあります。
今日からできる最初の一歩
名刺ファイルやメールの配信リストに、「同意」「名刺」「取引」「公表」の4列を作ります。1人ずつ、当てはまる列に印を付けます。印が1つもない人には、いったん送りません。まずは会うか、電話をするか、紹介をお願いするか。そちらに切り替えます。
送れる相手が決まったら、次は何を書くかです。取引先に会う前に相手の記事や資料を読んでおくと、話が具体的になります。メールも同じで、1通目に相手に合わせた1行を足すだけで、一斉送信とは別物になります。
名刺をもらったあとの通い方は、こちらの記事に書いています。
名刺1000枚超で売上ほぼゼロだった私が、会いたい1人を決めて通う営業に変えた型
送れない相手には、紹介という道があります。紹介営業の型は、こちらにまとめています。
紹介営業の型。信用を借りる側が守る5つと、頼む前にそろえる3点セット【保存版】
個別のケースの判断は、弁護士などの専門家にご相談ください。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):e-Gov法令検索、e-Gov法令検索(2)、e-Gov法令検索(3)、総務省、総務省(2)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。