海外の卸先から、初めての大口注文が入りました。代金は8,000ドル。銀行から「海外からの送金が届いています」と連絡があり、ほっとしたのもつかの間、取引先の社長仲間からこんなことを言われます。「100万円を超える海外送金は、税務署に筒抜けらしいよ」。急に、悪いことをしていないのに落ち着かなくなります。
筒抜け、という言い方は少し大げさですが、外れてはいません。法律で、1回100万円を超える海外への送金と、海外からの入金については、銀行がその中身を書いた「国外送金等調書」を税務署に出すことになっています。ただ、これは税金ではありません。税務署が海外とのお金の流れを把握するための、情報の提出の仕組みです。
この記事では、2026年10月時点の法令をもとに、調書が出る線、銀行の窓口で求められる「告知書」、そして輸出代金を受け取る会社がそろえておく書類を整理します。食品に限らず、雑貨、部品、ソフトウェア、デザインの仕事など、商材や業種を問わず、海外とお金をやりとりする会社に当てはまる話です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:1回100万円を超えると、銀行が翌月末までに税務署へ出します
根拠は、「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」です。長いので、この記事では「国外送金等調書法」と呼びます。
- 金融機関は、顧客の国外送金等(海外への送金と、海外からの送金の受け取り)を行ったとき、その1回ごとに調書を作り、税務署に出します(4条1項)
- 対象外になるのは、金額が100万円以下のものです(施行令8条1項)。つまり100万円ちょうどは出ず、100万円を1円でも超えると出ます
- 出す期限は、為替取引を行った日の属する月の翌月末日。出す先は、その銀行の支店がある場所の所轄の税務署です(4条1項)
- 書かれるのは、氏名または名称、住所、金額などです。海外への送金なら、送金の原因(何の取引の支払いか)も入ります(4条1項1号・2号)
調書を出すのは銀行です。会社や個人事業主が、自分で税務署へ何かを出す手続きではありません。
「告知書」と本人確認。自分の口座を使うときは扱いが変わります
調書の材料になるのが、送金する人、受け取る人が銀行に出す「告知書」です(3条1項)。海外へ送金するときは、氏名または名称、住所、マイナンバーまたは法人番号、送金の原因となる取引の内容などを書きます。あわせて、住民票の写しや法人の登記事項証明書などで、本人確認を受けます。
ただし、例外があります。自分の名義の口座(法律では「本人口座」)からの振替で送金する場合や、本人口座で海外からの入金を受け取る場合は、告知書の提出が求められない扱いです(3条1項・2項)。本人口座とは、銀行が口座を開くときに、氏名、住所、マイナンバーまたは法人番号を確認している口座のことです(2条6号)。ふだん使っている会社の口座で受け取るなら、多くはこちらに当たります。告知書を出さなくても、100万円を超えれば調書は出ます。
もう1つの注意は、罰則です。告知書を出さなかったり、うその内容を書いたりすると、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります(9条1号)。送金の原因の欄は、請求書の内容をそのまま書くのが無難です。
また、輸出した貨物の荷為替手形を銀行に取り立ててもらう場合など、財務省令で決められた書類に基づく取立ては、定義から外れています(2条4号・5号)。貿易の決済方法によって扱いが変わるので、手形を使う会社は取引銀行に確認してください。
仮の例で見る:8,000ドルと5,000ドル、何が違う?
従業員3人の雑貨メーカー(仮の例)が、海外の卸先2社から、会社の口座に代金を受け取ったとします。わかりやすくするため、1ドル150円で円に直します(仮の数字です。実際の換算は財務省令で定める相場によります。施行令8条2項)。
- 11社目から8,000ドル:150円×8,000ドルで120万円。100万円を超えるので、銀行が調書を出します
- 22社目から5,000ドル:同じく75万円。100万円以下なので、調書は出ません
ここで、勘違いしやすい点が2つあります。
1つ目は、調書が出るかどうかと、税金がかかるかどうかは、まったく別の話だという点です。2社目の75万円にも、売上として法人税や所得税の計算に入れる必要があります。調書が出ないから申告しなくてよい、ということにはなりません。
2つ目は、調書が出たからといって、追加で税金がかかるわけではない点です。きちんと帳簿に売上を計上していれば、調書は「その売上の入金がありました」という記録と一致するだけです。困るのは、帳簿に載っていない入金が、調書で見つかる場合です。
なお、調書を避けるために送金を細かく分けてもらう、という発想はおすすめしません。分けても売上は売上で、申告の義務は変わりません。取引先にも、余計な手数料と手間をかけることになります。
輸出代金を受け取る会社が、そろえておく書類
調書が税務署に届いたあと、もし問い合わせがあっても慌てないように、入金1件ごとに次の書類をひもづけておきます。
- 契約書、または注文書や注文のメール
- こちらが出した請求書(金額、通貨、請求番号)
- 出荷の記録(インボイス、送り状、輸出許可通知書など)
- 銀行の入金明細(着金日、外貨の金額、円の金額、手数料)
- 円に直した金額と、その日のレートのメモ
輸出の取引なら、消費税の輸出免税のためにも、輸出したことを証明する書類の保存が求められます。その話はこちらの記事にあります。
海外に売ったら消費税は0円。ただし「証拠の書類」を7年残せた会社だけが得をする
逆に、海外の会社へ支払う側になる場合もあります。広告やクラウドサービスの代金を海外へ払うときの消費税は、こちらの記事で扱っています。
Google広告やAWSの請求書、海外の会社に払う分の消費税はどうなる?
ほかにも、知っておくとよい点を挙げます。
- 個人事業主や、副業で海外から報酬を受け取る個人も、同じ仕組みの対象です
- 2回の入金を合計して100万円を超えても、1回ずつが100万円以下なら調書は出ません。判定は1回ごとです
- 電子決済手段(いわゆるステーブルコインなど)の国外への移転にも、100万円を基準にした別の調書の仕組みがあります(施行令9条の9)
- 海外の決済サービスを経由した入金が、この調書の対象になるかは、サービスの種類によって変わります。この記事では扱いません
今日からできる最初の一歩:請求番号を、送金の備考欄に入れてもらう
海外からの入金で、地味に困るのが「どの請求書の入金なのか、わからない」問題です。外貨で、手数料が引かれて、日付もずれて着金するので、帳簿づけのたびに探偵のような作業になります。
そこで、海外の取引先に請求書を送るとき、「送金の際は、備考欄に請求番号を入れてください」と1行添えておきます。入金明細と請求書がひと目でつながり、調書の記録とも突き合わせやすくなります。
海外との取引は、最初の1件が取れたあと、2件目、3件目を同じ型で回せるかで差がつきます。請求書の1行は、その型の一部です。営業の振り返りでも、「どの国の、どの取引先から、いつ、いくら入ったか」が一覧で見えると、次にどこへ営業をかけるかを決めやすくなります。
調書の対象になるか、送金の原因の書き方、決済方法ごとの扱いなど、個別の判断は、取引銀行や顧問税理士に確認してください。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):e-Gov法令検索、e-Gov法令検索(2)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。