海外の展示会に、初めて出ることになりました。ブースに並べる見本を30点、スーツケース2つに詰めて、いざ現地の空港へ。ところが税関で「これは商品ですか。関税はどうしますか」と聞かれ、英語の書類と電卓の前で、展示会の初日の朝をまるごと失う。小さな会社が初めての海外展示会で、ありがちな場面です。
見本は売り物ではないのに、なぜ止まるのか。外国の税関から見ると、スーツケースいっぱいの同じ商品は、売るために持ち込む荷物と見分けがつかないからです。そこで、世界の主要国の間には「あとで持ち帰ります」と約束して、関税なしで一時的に持ち込むための国際的な書類があります。それが、ATAカルネです。
この記事では、2026年10月時点の税関の案内と法令をもとに、ATAカルネで持ち込める物、守る約束、カルネを使わずに見本を持ち帰る場合の線引きを整理します。食品に限らず、雑貨、工具、機械の部品、服飾、撮影機材など、商材や業種を問わず、海外の展示会や商談に物を持っていく会社に当てはまる話です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:見本を「持って行って、持ち帰る」ならカルネが近道です
税関のカスタムスアンサー(7302)の説明を、短く並べると、次のとおりです。
- ATAカルネは「物品の一時輸入のための通関手帳に関する通関条約(ATA条約)」に基づく、国際的な通関用の書類です
- 商品見本、展示用物品、職業用具などを、条約に加盟している外国に持ち込み、仕事が終わったら持ち出す場合に使えます
- 外国の税関で、その都度通関書類を作らずに、免税扱いで輸出入の手続きができます
- 出入国のときに持って行く商品見本などは、簡易な「旅具通関」の扱いになります
- 発給しているのは、一般社団法人日本商事仲裁協会です
ひとことで言えば、パスポートの物版です。ただし、使える国、使える物、守る期限に決まりがあります。
カルネを使う前に確認する5つ
税関の案内に挙がっている注意点を、確認の順番に並べ直しました。
- 1持ち込む国が、ATA条約に加盟しているか。加盟していない国では使えません。使える国と地域は、発給元の日本商事仲裁協会のサイトに一覧があります
- 2持って行く物が、その国で対象になるか。主な対象は商品見本、職業用具、展示用物品ですが、持ち込む国によっては、必ずしも全部が認められるわけではありません
- 3有効期間は1年以内。展示会が複数あるなら、1冊の期間内に回れる日程かを見ます
- 4持ち込んだ物は、カルネの有効期間内に必ず持ち出す義務があります
- 5法令で、通関の前に許可や承認が要る物は、その許可書や承認書を添える必要があります。輸出規制の確認は、こちらの記事でも触れた「該非判定」の話につながります
海外に売りたい小さな会社が、販路探しより先に整える免税と証拠書類の順番
4つ目は、とくに大事です。カルネは「関税をかけない代わりに、必ず持ち帰る」という約束の書類です。日本の法律(ATA条約の実施に伴う関税法等の特例に関する法律)では、カルネを発給する団体は財務大臣の認可を受けた「保証団体」で、持ち込んだ物が持ち出されずに関税がかかることになった場合、利用者と連帯してその税を納める義務を負うと決められています(5条1項・4項)。外国から日本へカルネで持ち込む場合のルールですが、各国の保証団体どうしが同じ仕組みでつながっているので、約束を破ると、最後は利用者に請求が回ってくる、と考えておくのが安全です。
仮の例で見る:革小物メーカーの3月の展示会
従業員4人の革小物メーカー(仮の例)が、来年3月に海外の展示会に出るとします。持って行くのは、財布やバッグの見本30点、ブースに置く什器、撮影用のカメラ1台です。
準備の流れを、仮に並べるとこうなります。
- 112月:展示会の開催国が、カルネを使える国かを確認する
- 212月:持って行く物の一覧を作る(品名、数量、1点ごとの価額、原産国)
- 31月:革製品の中に、動植物の取引規制にかかる素材がないかを確認する(素材の種類によっては、許可や証明書が要る場合があります)
- 41月:日本商事仲裁協会に、カルネの発給の手続きを問い合わせる
- 53月:出国と入国のときに、税関でカルネを示して手続きをする
- 63月:展示会のあと、同じ物を、同じ数だけ持ち帰る
ここで迷いやすいのが、「展示会で気に入ってもらえたら、その場で見本を売ってもいいのか」です。カルネで持ち込んだ物は、期間内に持ち出すのが前提です。現地で売ったり、配ったりする物は、カルネの対象とは別に、ふつうの輸出入として考える必要があります。来場者に配るカタログや小さな試供品、売るつもりの在庫は、最初から分けて準備しておくのが無難です。現地の税関での扱いは国ごとに違うので、発給元か、展示会の主催者に確認してください。
カルネを使わないときの線引き:日本に戻すときは「再輸入免税」
カルネを使わずに、見本を持って行って持ち帰ることもできます。そのとき、日本に戻すときの関税は、関税定率法14条10号の「再輸入免税」が関係します。日本から輸出された貨物で、輸出の許可のときの性質と形状が変わっていない物は、輸入するときの関税が免除されるという決まりです。
ただし、注意が2つあります。
- 日本側の話だけです。持ち込む外国で、関税や保証金を求められるかどうかは、その国のルールしだいです。カルネが外国側の手続きを軽くする書類なのに対し、再輸入免税は日本に戻すときの話で、守備範囲が違います
- 「日本から出した物と同じ物です」と示せる準備が要ります。品名、数量、型番などの一覧を作り、出国のときの記録と一緒に残しておきます。具体的な手続きは、出発前に税関相談官に相談するのが確実です
どちらを使うかの目安を、ざっくり並べます。
- 持ち込む国が加盟国で、見本の数や金額が多い:カルネが向いています
- 見本が数点で、持ち込む国の手続きが簡単:カルネなしでも足りる場合があります(国ごとに確認)
- 現地で売る、配る:カルネの対象外。ふつうの輸出として、消費税の輸出免税の書類も含めて準備します
今日からできる最初の一歩:見本の一覧表を、営業資料と一緒に作る
カルネを使っても使わなくても、最初にやることは同じです。持って行く物の一覧表(品名、数量、価額、型番、素材、原産国)を作ることです。
この一覧表は、通関のためだけのものではありません。展示会で「この商品の卸値は」「最小ロットは」と聞かれたとき、そのまま商談の資料になります。海外の展示会では、名刺を集めることよりも、その場で条件を答えられることのほうが、次の連絡につながりやすくなります。
海外で売る仕組みを、展示会の前に国内で整えておく考え方は、こちらの記事にまとめています。
海外代理店は国内で型をつくってから。小さな会社が探す順番5つと型の4点セット
カルネの発給の条件や必要な書類、手数料などの最新の情報は、発給元の日本商事仲裁協会に、税関手続きの個別の判断は、最寄りの税関相談官に確認してください。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):税関、税関(2)、e-Gov法令検索、e-Gov法令検索(2)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。