月曜の朝、社長がふと気づきます。「うちの社員は、いつの間にか AI を使っていないか」。経理の人は文章の下書きに、営業の人は提案書の骨組みに、使っているかもしれません。ところが、会社が認めた道具は、決まっていません。AIの社内ルールがないまま、使う人だけが増える状態です。
じつは、国のガイドラインは、小さな会社に大きな体制を求めていません。総務省と経済産業省の「AI 事業者ガイドライン」は、検討では各主体の資源制約に配慮することが重要だと書いています。筆者の読みでは、短い紙から始めれば足ります。
この記事では、AIの社内ルールの作り方を、5つのステップに分けます。また、Muse を例にして、つなぐ範囲と承認の決め方も書きます。取引先への答え方ではなく、社内で先に決めておくことが主題です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
AIの社内ルールは、小さな会社にも必要?先に結論
結論から言うと、AIの社内ルールに、決まった書式はありません。ただし、決めておくと、あとが楽になります。
令和8年3月31日付の「AI 事業者ガイドライン(第1.2版)」は、非拘束的なソフトローとされています。つまり、守るべき様式が決まっているわけではありません。さらに、自社の取組方針を「AI ポリシー」などと呼ぶ例が挙がっていますが、呼称は各主体に委ねられています。
AIの社内ルールは「作って終わり」ではない
ガイドラインが重んじるのは、固定したルールよりも、見直しの流れです。環境とリスクを分析し、ゴールを決め、運用して、評価します。そして、外部の環境が変われば、必要に応じてゴールを見直します。
また、社長にとって大事な一文もあります。ガイドラインは、AI ガバナンスの構築を単なるコストと捉えず、先行投資として捉えることが重要だと書いています。つまり、ルール作りは、社長の仕事です。
AIの社内ルールの作り方、5つのステップ
では、作り方を5つに分けます。ガイドラインの流れを、小さな会社向けに並べ直したものです。並べ方は筆者の読みです。
使うAIを書き出す
入れる情報を分ける
つなぐ範囲と承認者を決める
確認する人を決める
窓口と見直す日を決める
ステップ1:うちでは、どの AI が使われている?
まず、会社の中で使われている AI を、全部書き出します。ガイドラインは、ガバナンスの最初に「環境・リスク分析」を置いています。つまり、何が使われているかを知ることが出発点です。
書き出すのは、AI の名前、使う人、任せる作業の3つです。たとえば、筆者は AI に担当を分けています。実行と管理は Muse、画像や素材は ChatGPT、一部の SNS の運用は Grok、コラムとサイトの制作は Claude です。担当を書き出しておくと、何を任せているかを、聞かれたときに答えられます。
また、社員が個人のアカウントで使っていないかも、一緒に聞きます。Muse は、Meta の日本語の発表で、2026年10月23日から iOS、Android、muse.ai で提供が始まりました。そのため、最近試し始めた人がいても、おかしくありません。
ステップ2:どんな情報なら、AI に入れていい?
次に、入れる情報を3段に分けます。土台は、個人情報保護委員会の令和5年6月2日の注意喚起と、ガイドラインの AI 利用者の項目です。
- 入れない:顧客などの個人データ、取引先の未公開情報、社外に出せない資料
- 条件つき:個人情報を含む文。利用目的の達成に必要な範囲か、提供事業者が機械学習に使わないかを確かめてから
- 入れてよい:すでに公開している情報
個人情報保護委員会は、あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを入力し、出力以外の目的で扱われるなら、個人情報保護法に違反する可能性があると書いています。そのため、提供事業者が個人データを機械学習に利用しないことなどを、十分に確認するよう求めています。また、ガイドラインも、機密情報を不適切に入力しないよう注意を払うことを求めています。
迷ったときは、入れずに、決めた人に聞く。これも1行、書いておきます。
ステップ3:Muse に会社のメールや予定をつないでいい?
答えは、つなぐかどうかを、会社が決めるです。Meta の日本語の発表では、Muse は Gmail、Google カレンダー、Instagram などと連携できると説明されています。また、接続するアプリやアクセスの範囲は、利用者が選べます。
さらに、同じ発表には、メールの送信や商品の購入など重要な操作の前に、利用者本人に確認すると書かれています。利用者は、Muse が行った操作や、今後行う予定の操作の履歴も確認できます。
つまり、AI の側にも承認の仕組みがあります。ただし、誰が承認するかは、社内で決めておく必要があります。そこで、ルールには、次の3つを書きます。
- 1つなぐサービスの範囲:会社が認めたものだけ
- 2承認する人:送信と購入は、決めた人だけ
- 3履歴を見る日:月初など、決めた頻度で
なお、会社として契約するときの条件は、Meta の日本語の発表では確認できませんでした。そのため、利用前に、規約を読んでください。
ステップ4:AI の答えは、誰が確認する?
そして、出力を確認する人です。ガイドラインは、AI の出力について、精度とリスクの程度を理解し、様々なリスク要因を確認した上で利用するよう求めています。また、個人情報保護委員会も、応答結果に不正確な内容が含まれることがあると注意しています。
たとえば、筆者の自動投稿が止まった日、Muse に原因を調べさせました。ただし、報告は、シートの実際の行を見て裏を取ってから採用します。推測だけの報告は、採用しません。
人の評価にAIを使うときは?
さらに、人を評価する場面は、別に決めておきます。ガイドラインは、AI の出力結果を特定の個人や集団の評価の参考にするとき、AI を利用している旨を、評価される人に通知するよう求めています。そのうえで、人間による合理的な判断のもとで、説明責任を果たすことも求めています。つまり、AI の答えだけで決めない、という一行が要ります。
ステップ5:困ったとき、誰に聞けばいい?
最後に、窓口と見直す日です。ガイドラインは、AI 利用者に、問い合わせに対応する窓口を、合理的な範囲で置くよう求めています。また、提供者のサービス規約を守り、提供された文書を保管して活用することも、挙げています。そのため、窓口と、規約や文書を預かる人を、決めておきます。
見直す日も、あらかじめ決めておきます。たとえば、Meta の発表では、Muse 独自のメールアドレスなどの新機能について、日本での提供状況は別途案内するとされています。つまり、新しい機能が使えるようになったら、ルールを読み直す日です。
AIの社内ルールに、環境の表示の確認は入る?
ここは、SDGs のコーナーならではの話です。AI に、商品の説明やSDGsの紹介文を書かせる会社は、多いでしょう。そのとき、「環境にやさしい」のような言葉が、根拠なしに入ってしまうと困ります。
別のサイトのちょいエコ部のコラム「環境配慮の表示で気をつけたい言葉づかい」では、環境省のガイドラインが守るべき基本項目の最初に「あいまいな表現や環境主張は行わないこと」を挙げていると紹介されています。また、表示の根拠は、表示する時点で手元に持っておくものだと書かれています。
出典:ちょいエコ部「環境配慮の表示で気をつけたい言葉づかい」
つまり、AI が書いた文でも、出す前に、言葉と根拠を人が見比べます。この一行を、AIの社内ルールの確認項目に足します。SDGs の表示の注意は、こちらにまとめています。
「環境にやさしい」と書く前に。SDGsウォッシュと景品表示法の、ゆるくて怖い関係
また、「環境にやさしい」と書く前の確認は、こちらにあります。
「環境にやさしい」と書く前に。営業文面を守る3つの確認【保存版】
AIの社内ルール、ひな型の例(仮の例)
従業員が数人の会社の、ひな型の例です(仮の例)。5つのステップを、5行に並べました。
- 1使ってよい AI:会社が認めたものだけ。新しく使うときは、代表に申し出る
- 2入れない情報:顧客の個人情報、取引先の未公開情報、社外に出せない資料
- 3つなぐ範囲:会社が認めたサービスだけ。送信と購入は、承認者が確認してから
- 4確認する人:AI の出力は、担当者が見てから使う。人の評価は、AI の答えだけで決めない
- 5窓口と見直し:問い合わせは代表が受ける。新しい機能が使えるようになったら、読み直す
このひな型は、取引先に聞かれたときの答えにも、そのまま使えます。取引先への答え方は、別の記事で整理しました。ここでは、社内で先に決める側を書いています。
AIの社内ルールは、AI から AI へ渡す資料にも
筆者は、AI から AI へ渡す引き継ぎの文書も、Muse に作らせています。ただし、渡す文書にも、入れない情報の線引きは同じです。つまり、AIの社内ルールは、人と AI のやりとりだけでなく、AI 同士の受け渡しにも効きます。
AIの社内ルールについてよくある質問
「AI を禁止にすれば、ルールはいらないですか」と聞かれます。答えは、筆者の読みでは、いるです。禁止にしても、個人のスマホで使われているかは、分かりません。禁止の場合も、使っていないことを確かめる方法を、決めておきます。
「Muse だけをルールの対象にすれば足りますか」と聞かれます。答えは、足りません。業務に使う AI は、全部対象にします。Muse の発表にあるのは、Muse の仕組みです。会社として契約するときの条件は、確認できていません。
「ルールは、一度作れば終わりですか」と聞かれます。答えは、終わりではありません。ガイドラインは、外部環境の変化を踏まえて、再び分析し、必要に応じてゴールを見直すことを求めています。見直す日を、カレンダーに入れておきます。
AIの社内ルール、最初の一歩は?
今日できるのは、社員に1つだけ聞くことです。「仕事で、どの AI を使っていますか」。その答えを、名前、使う人、任せる作業の順に書き出せば、ステップ1が終わります。
筆者の考えでは、営業の現場でも同じです。取引先に聞かれる前に、自社の AI の使い方を話せる会社は、安心されやすいでしょう。
Muse について気になることは、遠慮なく聞いてください。
ほかのコラムも、あわせてどうぞ
お金の学び(ウハウハ高等学校):家の屋根の太陽光は、電気をいくらで売れる?2026年度の住宅用の買取価格
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情報サイトのトップ:ENERGY BANK(系統用蓄電池の情報サイト)
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):経済産業省、個人情報保護委員会、about.fb.com
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
