お昼のピーク。弁当を受け取ったお客さんが、レジ横のかごからプラスチックのスプーンを2本つかんで帰っていきます。1本は、たぶん使われずに引き出しの奥へ行きます。店主は思います。「そういえば、コンビニはスプーンを有料にするとかしないとか、言っていなかったっけ。この店も3円くらい取らないと、法律違反なの?」
結論からいうと、スプーンを有料にすることは、義務ではありません。2022年4月に施行されたプラスチック資源循環法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)は、スプーンなど12品目を無償で配るお店に「使う量を減らす工夫」を求めています。ただ、その工夫のメニューの中に、有料化が一つ入っているだけです。声かけで済ませる店もあれば、木のスプーンに替える店もあります。
この記事では、対象になる12品目と業種、重い措置がかかる「5トン」の線引き、小さな店が無理なくできる取組を整理します。2026年10月時点の法令と、国・自治体の公表資料をもとにしています。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:有料化は「選べる工夫の一つ」です
法律と省令で、提供する事業者に求められているのは、ざっくり次の2系統の工夫です(農林水産省・沖縄県の資料をもとに整理)。
- 提供方法の工夫:有料にする、使わない人にポイントや景品で還元する、「お付けしますか」と意思を確認する、繰り返し使ってもらう
- 製品の工夫:薄く軽くする、木・紙・金属などの素材や再生プラスチック、バイオマスプラスチックの製品にする、ちょうどいい大きさにする、繰り返し使える物にする
あわせて、目標を立てること、店頭の掲示などで取組を知らせること、担当者を決めて従業員に伝えることも、取り組む事項として並んでいます。
つまり、ルールの中身は「どれか、またはいくつかを組み合わせて、使い捨てを減らしてください」です。3円を取るかどうかは、店の判断で決めてかまいません。逆に言うと、何もしないまま配り放題というのは、法律が想定している姿ではありません。
対象は12品目と、決まった業種です
対象になる「特定プラスチック使用製品」は、主としてプラスチックでできた次の12品目です。
- フォーク、スプーン、テーブルナイフ、マドラー、飲料用ストロー
- ヘアブラシ、くし、かみそり、シャワーキャップ、歯ブラシ
- 衣類用ハンガー、衣類用カバー
並べてみると、飲食店のカトラリー、ホテルのアメニティ、クリーニング店のハンガーと袋です。お弁当の容器やレジ袋は、この12品目には入っていません(容器包装は、別の法律の話です)。
業種も決まっています。
- 各種商品小売業(無店舗を含む)
- 飲食料品小売業(野菜・果実、食肉、鮮魚、酒の小売業を除く)
- 宿泊業
- 飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業
- 洗濯業
沖縄県の手引きによると、主な事業がこれらに当たらなくても、一部の事業が当たれば、その範囲で対象になります。たとえば、ふだんは雑貨の卸をしている会社が、週末だけキッチンカーでカレーを売る場合です(仮の例)。キッチンカーでスプーンを配るなら、その部分は対象と考えておくほうが安全です。
「5トン」の線と、仮の弁当店の計算
ここからが、小さな店がいちばん気になるところです。取組が著しく不十分なときに、国から勧告・公表・命令を受けることがあるのは、前年度の提供量が5トン以上の「多量提供事業者」です。環境省の規制の事前評価書では、この5トンという線について、家族経営や個人経営の店などを対象から除くことを意図したもの、と説明されています。
では、5トンはどれくらいの量でしょうか。仮の弁当店で計算してみます。
- 1スプーン1本の重さを、仮に2.5グラムとします
- 21日に配る本数を、仮に150本とします
- 3営業日を、仮に年300日とします
- 4150本 × 300日 = 45,000本
- 545,000本 × 2.5グラム = 112,500グラム = 約0.11トン
5トンの50分の1ほどです。5トンに届くには、同じスプーンで年間200万本が必要です。1日150本の店が5トンを超えることは、まずありません。チェーン店の本部のような規模を想定した線だとわかります。
ただし、5トン未満なら何もしなくていい、という意味ではありません。省令の取組は、対象業種の事業者に向けたものです。重い措置がかかるかどうかの線が5トン、と覚えておくと、ちょうどいいです。
小さな店が「今週」できる工夫チェックリスト
有料化に踏み切らなくても、できることはあります。費用がほとんどかからない順に並べます。
- レジで「スプーンはお使いですか」と一言聞く(かごから取り放題をやめる)
- 店頭やメニューに「スプーンが必要な方はお申し付けください」と掲示する
- 辞退した人にスタンプを1つ押す(ポイント還元の小さな版)
- スプーンのサイズを見直す(スープ用の大きいスプーンを、全員に付けていないか)
- 次の仕入れから、木や紙のスプーンを試す
- スタッフ全員に、声かけのやり方を共有する(担当者を決める)
会話にすると、こんな感じです。
「カレー弁当お一つですね。スプーンはお付けしますか?」
「あ、会社にあるので大丈夫です」
「ありがとうございます。スタンプ1つ押しておきますね」
これだけで、引き出しの奥で眠るスプーンが1本減ります。たとえば、辞退率が3割になれば、150本のうち45本が浮きます(仮の数字)。仕入れの箱を開ける回数も、少しだけ減ります。
ただし:木のスプーンでも、書き方には注意
例外というより、勘違いしやすい点が3つあります。
1つ目は、素材を替えたときの宣伝文句です。木のスプーンに替えたからといって、「環境に完全にやさしいお店」と書くのは行きすぎです。根拠の範囲で、「スプーンを木製に替えました」と事実を書くのが安全です。表示の線引きは、こちらの記事にあります。
「環境にやさしい」と書く前に。SDGsウォッシュと景品表示法の、ゆるくて怖い関係
2つ目は、プラスチックの割合です。対象は「主としてプラスチック製」の物です。持ち手だけ木で先がプラスチック、のような物は、どちらが主かで考えます。迷ったら、仕入先に素材の構成を聞いておきます。
3つ目は、宿泊業と洗濯業です。民泊や小さな旅館で歯ブラシやかみそりを置いている場合、クリーニング店でハンガーと袋を付けている場合も、同じ考え方になります。「飲食店だけの話」と思い込まないことです。
なお、環境省の評価書では、施行から5年(令和9年)を経過した後に事後評価を行うとされています。運用が変わることもあるので、お店の地域の自治体の案内も、ときどき確認しておくと安心です。
素材を替えたあとの書き方については、あいまいな言葉は単独で使わず説明文を添える、再生素材の使用割合やプラスチックの削減率を示す、といった点を質問と答えで整理した記事として、「環境配慮の表示で気をつけたい言葉づかい」があります。
出典:ちょいエコ部「環境配慮の表示で気をつけたい言葉づかい」
今日からの一歩:レジの一言を、接客のきっかけにする
まずは明日のお昼、レジで「スプーンはお使いですか」と聞いてみてください。1週間、辞退した人の数を、レジ横のメモに正の字で数えるだけで十分です。
この一言は、法律対応であると同時に、お客さんと短い会話を交わすきっかけにもなります。「会社で食べるんです」と返ってきたら、それは近くの会社に勤める常連候補です。次は「会議用のまとめ注文もできますよ」と伝えられます。小さなスプーン1本の会話が、法人の注文につながる入口になることもあります。
SDGsコーナー全体の歩き方は、こちらにまとめています。
「SDGsコーナー」の歩き方。SDGsで事業がどう変わるかと、事業に合う取り組みの選び方
運営元:コミッターズ
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