市役所の担当者から、見積りの依頼が来ました。品目は、会議室で使うファイルとクリアーホルダー。喜んで見積書を出そうとしたら、メールの最後に一行。「グリーン購入法の判断の基準に適合しているか、わかる資料もお願いします」。グリーン購入法。名前は聞いたことがあっても、中身を読んだことがある社長は多くないはずです。
意外なのは、この法律の基準が、役所の買い物の「ものさし」として、品目ごとにかなり細かく決まっていることです。たとえば文具類なら、主な材料がプラスチックの場合、再生プラスチックがプラスチック重量の40%以上、といった数字まで書かれています。しかも、国が「適合」のお墨付きを出す仕組みはありません。基準を満たしていることを示すのは、売る側です。
この記事では、グリーン購入法の仕組み、判断の基準の読み方、自治体の扱い、小さな会社が営業の前に準備しておくことを整理します。2026年10月時点の法令と、令和8年2月3日に変更閣議決定された基本方針をもとにしています。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:役所に売るなら、自社の商品が「どの品目のどの基準」に当たるかを先に調べます
グリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律)は、平成12年に制定され、平成13年4月に施行されました。環境省のページでは、立場ごとの扱いが次のように整理されています。
- 国などの機関:グリーン購入が義務
- 地方公共団体:グリーン購入に努める(努力義務)
- 事業者、国民:グリーン購入に努める
国は、法律の第6条にもとづいて「基本方針」を定めます。基本方針には、重点的に調達する品目(特定調達品目)と、その「判断の基準」が書かれています。2026年10月時点の基本方針では、22分野291品目です。
つまり、役所に物やサービスを売る会社にとっては、基本方針がそのまま「買ってもらえる条件の一覧表」になります。営業トークより先に、この一覧表で自社の商品を探すのが近道です。
291品目は、文具から清掃、会議運営まで
品目の一覧を見ると、思った以上に身近な物が並んでいます。分野の例を挙げます。
- 紙類:コピー用紙、トイレットペーパーなど
- 文具類:ボールペン、ファイル、付箋紙、ごみ箱など
- オフィス家具等:いす、机、棚など
- 制服・作業服等:制服、作業服、帽子、靴
- その他繊維製品:のぼり、旗、幕など
- 災害備蓄用品:災害備蓄用飲料水、アルファ化米、保存パンなど
- 役務:印刷、清掃、輸配送、会議運営、機密文書処理など
物だけでなく、サービス(役務)も入っているのがポイントです。印刷会社、清掃会社、イベントの運営会社も、この一覧と無関係ではありません。
判断の基準の中身は、品目ごとに違います。文具類の共通の基準を例にすると、次のいずれかの要件を満たすこと、とされています(一部を抜き出し)。
- 主な材料がプラスチック:再生プラスチックがプラスチック重量の40%以上(ポストコンシューマ材料からなる再生プラスチックなら20%以上)など
- 主な材料が紙:古紙パルプ、森林認証材パルプ、間伐材等パルプの合計の配合率が50%以上など
- エコマーク認定基準を満たす、または同等のもの
これとは別に「配慮事項」もあります。包装や梱包を簡易にする、といった、できる限り満たすことが望ましい項目です。基準は必須の線、配慮事項はプラスの評価、と分けて読むとわかりやすくなります。
「適合マーク」はない。示すのは売る側
ここが、いちばん勘違いしやすいところです。環境省のグリーン購入法のよくある質問のページには、国が運営する認定制度や適合マークはない、と書かれています。そして、サプライヤー(売る側)は、その製品が判断の基準を満たすことを示すことが必要、とされています。
仮の例で考えます。従業員4人の事務用品の卸の会社が、市役所からクリアーホルダーの見積り依頼を受けたとします。
- 1基本方針の文具類の中から、「クリアーホルダー」の項を探す
- 2個別の基準(●印)があるか、共通の基準が当てはまるかを確かめる
- 3仕入れ先のメーカーに、再生プラスチックの配合率や、エコマークの認定の有無を聞く
- 4回答を、品目名と基準の番号つきで、1枚にまとめて見積書に添える
この会社がやることは、新しい商品をつくることではありません。基準と商品の情報を、相手が読める形でつなぐことです。法律の第12条でも、物を製造・輸入・販売する事業者は、購入者に環境への負荷を把握するための情報を提供するよう努める、とされています。
ただし、基準を満たしていないのに「適合」と書くのは避けてください。根拠のない環境の表示は、別の法律の問題にもつながります。表示の注意点は、こちらの記事にまとめています。
「環境にやさしい」と書く前に。営業文面を守る3つの確認【保存版】
環境配慮をうたう表示について、あいまいな言葉を説明なしに単独で使わない、再生素材の使用割合や範囲を示す、表示する時点で根拠の資料を持っておく、といった点を質問と答えで整理した記事として、「環境配慮の表示で気をつけたい言葉づかい」があります。
出典:ちょいエコ部「環境配慮の表示で気をつけたい言葉づかい」
例外と注意:自治体ごとに中身が違い、毎年見直されます
注意したい点を3つ挙げます。
- 自治体は努力義務:法律の第10条で、都道府県や市町村は、毎年度、調達の方針をつくるよう努める、とされています。品目や目標は、地域の事情に応じて決めます。国の基本方針と同じとは限らないので、売りたい自治体の「グリーン購入の調達方針」を個別に読みます。
- 基準は見直される:基本方針は令和8年2月3日に変更閣議決定されました。環境省は、令和8年8月3日に令和8年度の特定調達品目検討会(第1回)を開いています。去年の資料のままでは、基準がずれている場合があります。
- 経過措置がある品目も:たとえば制服、作業服、帽子、靴では、判断の基準の一部について、令和8年度の1年間の経過措置が設けられています。自社の品目の注記まで読みます。
国の機関の調達は、各省庁などが毎年度、基本方針に即して調達方針をつくり、公表することになっています(法律の第7条)。営業先の調達方針が公表されているかどうかも、確認の手がかりになります。
今日からできる最初の一歩:自社商品の「基準メモ」を1枚つくる
役所への営業は、見積り依頼が来てから資料を探すと、たいてい締切に追われます。依頼が来る前に、次の1枚をつくっておくと動きが速くなります。
- 1基本方針(環境省のページのPDF)を開き、自社の商品やサービスが入る品目を探す
- 2品目ごとに、判断の基準の要点を1〜2行で書き写す
- 3自社の商品が満たしているか、仕入れ先に確認が必要かを書く
- 4確認できた根拠(カタログの記載、認定の番号など)を添える
筆者は新人時代、日経新聞を毎日読み込んでいました。お客様の話題についていくための習慣でしたが、役所の営業でいえば、基本方針がその新聞にあたります。相手が読んでいる「ものさし」を先に読んでおくと、営業の会話が一段かみ合います。
民間の取引先から環境への取り組みを聞かれたときも、この基準メモはそのまま使えます。SDGsコーナー全体の歩き方は、こちらの記事にまとめています。
「SDGsコーナー」の歩き方。SDGsで事業がどう変わるかと、事業に合う取り組みの選び方
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):環境省、環境省(2)、環境省(3)、e-Gov法令検索
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。