展示会まで、あと3週間。配る予定のパンフレット300部と、試供品300個を、1セットずつ袋に詰める作業が残っています。社長と事務の1人で、夜にやるしかないか。そう思いながら、取引先から届いたSDGsアンケートの「地域や福祉との連携はありますか」という設問を、空欄のまま閉じます。
この2つ、じつは一度に片づく可能性があります。袋詰めや印刷、焼菓子のノベルティなどは、障害のある人が働く就労継続支援の事業所などが、仕事として引き受けていることが多い分野です。しかも、どこに頼めばいいかわからない会社のために、複数の事業所へ仕事をつないでくれる「共同受注窓口」という仕組みが、各地にあります。
この記事では、頼める仕事の例、窓口の使い方、法律との関係、発注する前に決めておくことを、仮の展示会準備を例に整理します。2026年10月時点の公表資料をもとにしています。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:民間の小さな会社も頼めます。義務ではなく、呼びかけです
関係する法律は、障害者優先調達推進法(国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律)です。平成25年4月1日に施行されました。
厚生労働省のパンフレットによると、この法律で求められているのは、主に公的機関です。
- 国の各省庁や独立行政法人:毎年度、調達方針をつくり、年度が終わったら実績を公表する
- 地方公共団体や地方独立行政法人:同じく、毎年度の調達方針と実績の公表
民間の会社に、発注を義務づける法律ではありません。ただ、自治体からは民間への呼びかけがあります。たとえば静岡市のページでは、民間企業や市民に、事業所の一覧を使って発注を進めてほしいと書かれています。
つまり、「頼まなければいけない」ではなく、「頼んでいい。むしろ歓迎されている」という位置づけです。
頼める先と、頼める仕事の例
法律でいう「障害者就労施設等」には、次のような所が入ります(厚生労働省のパンフレットより)。
- 就労移行支援事業所、就労継続支援事業所(A型・B型)
- 生活介護事業所、地域活動支援センター、小規模作業所など
- 障害者を多数雇用している企業(特例子会社、重度障害者多数雇用事業所)
- 在宅で仕事をする障害者と、その支援団体
では、どんな仕事を頼めるのでしょうか。静岡市のページに載っている共同受注窓口の登録内容から、いくつか拾います。
- 飲料・食品:緑茶缶やコーヒーなどの飲料、缶詰パン、焼菓子
- 日用品・事務用品:トイレットペーパー、額縁、事務用品、雑貨、エコバッグ
- 作業:印刷、封入作業、除草作業、清掃業務
展示会の袋詰めは「封入作業」、配る焼菓子は「食品」、名入れのエコバッグは「雑貨」に近い仕事です。小さな会社が外に出したい細かい仕事と、かなり重なっています。愛知県のように、事業所が扱う物品や作業のリストを公開している自治体もあります。
共同受注窓口の使い方:仮の展示会準備で考える
共同受注窓口は、愛知県のページの言い方を借りると、事業所が提供できる物品や作業の情報を集め、発注の内容に対応できる複数の事業所に、あっせん・仲介する役目の団体です。1つの事業所では人手が足りない量でも、複数に分けてくれることがあります。
仮の会社で、流れを追ってみます。従業員4人の、業務用の清掃用品を扱う会社です(仮の例)。
- 1自治体のページで「障害者優先調達」「共同受注窓口」と検索し、自社の地域の窓口を探す
- 2窓口に電話かメールで、仕事の中身を伝える(パンフレットと試供品を300セット、袋詰め、3週間後の展示会で使う)
- 3窓口が、対応できそうな事業所を探して、可否と見積りを返す
- 4見本を1セット作ってもらい、仕上がりを確認する
- 5材料を届け、決めた日に完成品を受け取る
2の電話は、たとえばこんな具合です。
「展示会で配るセットの袋詰めをお願いしたいのですが。パンフレット1枚と試供品1個を、透明の袋に入れて封をする作業で、300セットです」
「納品はいつまででしょうか」
「3週間後の月曜に使うので、その前の金曜までだと助かります」
「材料はお持ち込みいただけますか。対応できる事業所を確認して、折り返しますね」
聞かれることは、ふつうの外注とほとんど変わりません。作業の中身、数量、納期、材料の受け渡しです。この4つを、電話の前にメモしておくと話が早く進みます。
ポイントは、2の段階で「3週間後」と言えていることです。直前の依頼は、どこに頼んでも苦しくなります。事業所の作業は、日ごとの人数や体調で進み方が変わることもあるので、余裕のある日程で相談するのが、お互いのためです。
ノベルティとして焼菓子を配るときの経費の考え方は、こちらの記事で整理しています。
ノベルティは経費?「広告宣伝費」と「交際費」の分かれ道は、配る相手です
ただし:「福祉だから安く早く」は通りません。発注前に決める5点
ここが、いちばん失敗しやすいところです。頼む側が「社会貢献だから、多少は融通がきくはず」と考えると、だいたいすれ違います。ふつうの外注先と同じように、条件を文字にします。
- 数量と納期(いつまでに、何個。分けて納品でもよいか)
- 仕上がりの基準(見本を1つ作り、「これと同じ」を合格にする)
- 材料と道具(どちらが用意するか、届け方と引き取り方)
- 単価と支払い方法(見積りをもらい、支払日を決める)
- 連絡の窓口(担当者を1人決め、途中で相談できるようにする)
単価を値切る交渉は、おすすめしません。工賃は、働く人の収入につながるお金です。相場より安く頼めることを目的にすると、仕事を出すたびに関係が細ります。
もう一つの注意は、取組の書き方です。1回発注しただけで「福祉と深く連携する企業です」と書くと、言いすぎになります。アンケートやサイトには、「展示会の封入作業を地域の事業所に依頼しました(2026年11月)」のように、事実と時期を書くのが安全です。文面の確認のしかたは、こちらにあります。
「環境にやさしい」と書く前に。営業文面を守る3つの確認【保存版】
ちなみに、SDGsの17の目標でいえば、目標8「働きがいも経済成長も」や、目標10「人や国の不平等をなくそう」に近い取組です。ただ、アンケートでは目標の番号を並べるより、何をしたかを書くほうが読み手に伝わります。書き方の例(仮の会社の場合)を3つ置いておきます。
- やった:展示会の封入作業300セットを、地域の就労継続支援の事業所に依頼しました(2026年11月)
- 始めた:共同受注窓口に相談し、来年の展示会の封入作業を依頼する予定です
- まだ:外部に出せる作業を洗い出し、地域の共同受注窓口を確認しているところです
「まだ」でも、空欄よりは前に進んでいることが伝わります。
今日からの一歩:外に出せる仕事を、3つ書き出す
まずは、社内の「本当は誰かに頼みたい細かい仕事」を3つ書き出してください。袋詰め、名入れ、DMの封入、事務所の周りの草取りなど、何でもかまいません。そのうえで、地域の自治体のページで共同受注窓口を探し、1件だけ相談してみます。
発注した経験は、取引先のSDGsアンケートで書ける、具体的な一行になります。「何かしています」より、「この作業を、この時期に頼みました」のほうが、営業の場では伝わります。小さな発注が、取引先との会話の材料を一つ増やしてくれます。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):厚生労働省、厚生労働省(2)、自治体、自治体(2)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。