商談の最後に、お客様から「では、お願いします」と言われました。ここまでは最高です。ここからが長いのです。契約書を印刷して、押印して、封筒に入れて、郵便局へ。先方で押印してもらって、返送を待つ。気がつくと、ハンコ2つで1週間が過ぎています。
意外なのは、手間より先に「印紙」が出てくることです。紙の契約書は、中身によって収入印紙が必要になります。一方、電子データで結ぶ契約は、印紙税の課税対象になりません。国税庁がそう案内しています。つまり、電子契約の印紙は不要です。
この記事では、電子契約の印紙の話を入り口に、サービスを入れると、どの作業が減って、売上のどこに効くのかを、仮の例で数えます。さらに、入れる前に確認したい落とし穴も書きます。2026年10月時点の情報です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
電子契約の印紙、先に結論
- 減るのは、印刷、押印、封入、郵送、返送待ち、原本の綴じ込み
- 電子契約の印紙は不要です。電子データは印紙税の課税対象になりません(国税庁の質疑応答事例)
- 売上に効くのは、「合意した日」から「契約が成立する日」までの日数が縮むこと
- 確認したいのは3つ。相手の同意、電子のままの保存、書面が決められている契約
多くの契約で、ハンコは必須ではありません。ただ、紙で結ぶ前提のまま会社が回っていると、手間と費用は静かに積み上がります。数えてみましょう。
紙の契約書にかかる手間と印紙
従業員3人の○○業の会社で、新規の契約が月に5件あるとします(仮の例です)。1件の流れは、だいたい次のとおりです。
- 1契約書の印刷と、2通への押印
- 2返信用の封筒を添えた、先方への郵送
- 3先方の押印待ち
- 4返送された1通の受け取りと、ファイルへの綴じ込み
- 5契約の日付と期限の、台帳への書き写し
まず、手間を1件あたり30分と仮定します。切手代は、定形郵便物(50グラム以内)が1通110円なので、往復で220円です(日本郵便の料金表、2026年10月時点)。なお、書留などを付ければ、その分が加わります。
つまり、月5件なら、2.5時間と1,100円。1年(60件)では、30時間と13,200円になります。ただ、切手代はたいした額ではありません。効いてくるのは30時間のほうです。移動込みで1回3時間の商談なら、10回ぶんにあたります。
紙の契約書の印紙と、電子契約の印紙
そこへ、紙ならではの費用が加わります。収入印紙です。国税庁の案内(令和8年4月1日現在の法令等)では、たとえば次のような扱いです。
- 請負の契約書:契約金額に応じて印紙が必要。100万円以下なら200円、100万円を超え200万円以下なら400円(1万円未満は非課税)
- 継続的な取引の基本になる契約書:1通4,000円。事業者どうしが、請負や売買などの複数の取引に共通する基本条件(単価や支払方法など)を決めるもので、契約期間が3か月を超えるか、更新の定めがあるもの
- 国税庁の一覧表は、後者の例として、売買取引基本契約書、特約店契約書、代理店契約書、業務委託契約書を挙げています
つまり、印紙が要るかどうかは、題名ではなく中身で決まります。「業務委託契約書」という題名でも、中身が請負なら請負の扱いになり、継続的な取引の基本契約なら4,000円の扱いになることがあります。代理店契約の中身の違いは、こちらの記事で整理しています。
「代理店契約」のはずが、中身は「販売店」だった?契約の3つの型と、決めておくこと
また、貼り忘れたときの負担は、軽くありません。納めなかった印紙税の3倍にあたる過怠税が徴収されます。調査の前に自分から申し出れば、1.1倍に軽くなります。なお、この過怠税は、法人税の損金にも、所得税の必要経費にも入りません。切手より高くつく、うっかりです。
電子契約の印紙が課税されない根拠
一方、電子契約の印紙は不要で、データには印紙税がかかりません。また、国税庁の質疑応答事例は、印紙税の課税対象は課税物件表に掲げられた「文書」であり、電磁的記録は文書に含まれないので、電子署名を付けた電磁的記録をメールで送っても印紙税は課されない、と答えています(令和7年8月1日現在の法令等に基づく回答)。
ただし、電子契約の印紙が不要でも、紙とデータの両方で契約書を作ると、話がややこしくなります。また、紙の契約書を取り交わしたなら、印紙税の対象になる場合があります。そのため、どちらで結ぶのかを先に決めて、電子で結ぶなら、同じ内容の紙の契約書は取り交わさない、としておきましょう。
売上に効くのは「合意から契約まで」の日数
仮の例で、紙と電子を並べてみます。月曜の夕方に、お客様が「お願いします」と言ってくれたとします。
- 紙の場合:火曜に印刷して発送。水曜に到着。先方の担当者は木曜から出張で、翌週の月曜に押印して返送。自社に届くのは水曜。合意から9日
- 電子の場合:月曜の夜に送信。火曜の午前に、先方が内容を確認して署名。合意から1日
この8日の差で、何が変わるのでしょうか。
- 着手の日が前倒しになること(契約後に始める約束の仕事なら、始められる日が早まります)
- 請求書を出せる日も早まること(納品や完了の後に請求する仕事なら、全体が前にずれます)
- 先方が迷う時間が減ること(返送待ちの間に、他社の見積もりが届くこともあります)
「売上が増えます」とは言いません。ただ、待ち時間が短いほど、決まった話は決まったまま進みやすくなります。営業は、受注した瞬間がゴールに見えますが、契約書が戻ってくるまでは、まだ道の途中です。
ハンコなしで大丈夫?導入前に確認する4つ
実は、契約は、書面や押印がなくても成立します。民法522条2項は、法令に特別の定めがある場合を除き、契約の成立に書面の作成その他の方式は要らないと定めています。内閣府・法務省・経済産業省が令和2年6月19日に出した、押印についての質問と答えの資料も、特段の定めがある場合を除き、押印をしなくても契約の効力に影響は生じないとしています。
電子契約の印紙が不要でも、記録は必要
ただ、成立することと、あとで証明できることは別の話です。たとえば「言った、言わない」になったとき、誰がいつ合意したのかを示す記録が要ります。さらに、電子署名法は、本人だけが行える電子署名が付いた電磁的記録について、真正に成立したものと推定すると定めています(第3条)。同じ法律の第2条は、電子署名の要件を、「誰が作ったかを示せること」と「改変されていないかを確認できること」の2つとしています。
導入前に確認したい4つの点
ただし、サービスによって署名の仕組みは違います。選ぶときに確認したいのは、次の4つです。
- 1相手の同意:電子で結ぶには、相手にも電子でよいと言ってもらう必要があります。紙を希望する相手には、紙で対応できるようにしておきます
- 2署名の記録:誰が、いつ署名したのかを、あとから確認できるか
- 3保存:契約書の電子データは、電子のまま保存します。国税庁の電子帳簿保存法一問一答(令和7年6月)では、契約書は電子取引の取引情報の例に入っていて、令和6年1月以降は、書面に出力して保存することは認められていません。日付、金額、取引先で探せるようにしておくことも大切です。サービスをやめたあとも、データを取り出せるかも聞いておきましょう
- 4書面が決められている契約:民法522条2項の「法令に特別の定め」にあたる契約は別です。自社の契約が当てはまるかは、専門家に確認します
契約書の電子データの保存ルール
保存のルールは、請求書や領収書とも同じ考え方です。詳しくは、こちらの記事にあります。
メールで届いたPDFの請求書、「印刷して紙で保管」はじつはNGです
たとえば、電子契約を入れたのに、締結済みのPDFを印刷してファイルに綴じて終わり、という運用は、保存のルールに合いません。つまり、印刷は、あくまで見るためのコピーです。
別のサイトの「予約・請求・問い合わせをオンライン化する手順」という記事では、今のやり方を書き出し、最初に切り替えるものを1つ選ぶところから始める6つの手順が示されています。道具を選ぶときに機能、費用、データの取り出しやすさを比べることや、電子で受け渡した記録を電子データのまま保存するルールも整理されています。
出典:おまかせ係長「予約・請求・問い合わせをオンライン化する手順」
今日からできる最初の一歩
直近で結んだ契約を3件選んで、3つの日付を書き出します。
- 1合意した日(商談で「お願いします」と言われた日)
- 2契約書を送った日
- 3契約書が戻ってきた日
合意から戻りまでが1週間を超えているなら、電子契約を検討する理由になります。逆に、どれも2〜3日で戻っているなら、無理に入れなくても困りません。
さらに、営業の振り返りには、この「合意から契約までの日数」を足してみてください。受注の件数や金額だけでは見えない、決まった話がどれだけ早く動いたかが見えてきます。
ほかのコラムも、あわせてどうぞ
お金の学び(ウハウハ高等学校):開業資金の公的な相談先・融資制度4つ|借りる前に窓口で聞けること
営業・販路のコラム:コミッターズ コラム
筆者の記事:川口忠大のnote
蓄電池を知る(ENERGY BANK):系統用蓄電池メーカー比較|法人が製品・導入支援・保守を同じ条件で見る方法
導入先を比べる:系統用蓄電池の低圧・高圧比較|法人が費用と接続条件で選ぶ方法
お金の面を読む:系統用蓄電池の充電コストを読む|調達契約と託送料金
情報サイトのトップ:ENERGY BANK(系統用蓄電池の情報サイト)
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):国税庁、国税庁(2)、国税庁(3)、国税庁(4)、国税庁(5)、国税庁(6)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
会社の現場の工夫や取り組みは、みんなの企業新聞の記事「マッチングサイトで反応を取る課題・ニーズの書き方」でも紹介しています。あわせてご覧ください。