予約システムの設定画面に、「キャンセル料」という欄がありました。前日は何%、当日は何%。空欄のまま、カーソルだけが点滅しています。無断で来なかったお客様に、無断キャンセル料を本当に請求していいのでしょうか。
しかし、意外なのは、無断キャンセル料のルールが、お客様が個人か会社かで変わることです。たとえば、個人のお客様が相手だと、決めた額でも、自分の店に生じる「平均的な損害」を超えた分は無効になります(消費者契約法9条1項1号)。一方、会社が相手なら、この条文の外です。
この記事では、予約システムを入れる前に決めておく3つを、仮の数字で整理します。なお、2026年10月時点の情報です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
無断キャンセル料、先に結論
- 無断キャンセル料は、事前に決めて伝えてあれば、請求できる場合があります
- 個人のお客様の場合、請求できるのは、同じ種類の予約が流れたときに自分の店に生じる損害の平均まで。超えた部分は無効です
- 一方、会社や、仕事のために予約した個人事業主が相手なら、消費者契約法の対象外です。民法420条の「賠償額の予定」として、契約で決めた額が基本になります
- 予約システムを入れる前に決めるのは、時期ごとの区分、自店の数字による根拠、予約時の伝え方と記録の3つ
「取れるか、取れないか」の二択ではありません。「いくらまでなら、説明できるか」の話です。
予約システムを入れる場面の仮の例
ここで、予約システムを入れる場面を置いてみます。たとえば、従業員3人の飲食店で、個室のコース予約を電話で受けているとします(仮の例です)。なお、数字もすべて仮のものです。
- 電話の予約は月に60件。1件あたり、かけ直しも入れて5分とすると、月に300分、つまり5時間が電話の往復で消えます
- 営業時間外の予約は、電話では受けられません。夜中に調べて予約したいお客様は、画面で受けられる店に流れます
- 無断キャンセルが月に2件。1件はコース5,000円の8名で40,000円です。月に80,000円、1年で96万円の穴になります
つまり、予約システムで変わりうるのは、この3つです。電話の往復が減り、時間外の予約を画面で受けられ、確認とリマインドのメールを自動で出せます。また、リマインドが、無断キャンセルを減らす助けになる場合もあります。
さらに、もう一つ、変わることがあります。口頭の「なるべく前日までにお願いします」が、画面の文字になることです。そのため、全員に同じ条件が見えるので、あいまいなままにはできません。特に、借りてきた文面と数字を、そのまま画面に出してしまうのが、いちばん危ないやり方です。
無断キャンセル料の上限は、個人なら「自店の平均的な損害」
消費者契約法9条1項1号は、契約の解除に伴う違約金やキャンセル料の条項について、次のように定めています。解除の事由や時期などの区分に応じて、同じ種類の契約の解除に伴い、その事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分は、無効です。
次に、消費者庁の逐条解説から、押さえたい点は3つです。
- 1時期ごとに見ます。条項で設けた区分ごとに、平均的な損害を超えていないかを判断します
- 2平均は、自分の店のものです。同じ事業者が結ぶ多数の同種の契約を、類型的に見た平均で、業界の水準を指すものではないと説明されています。「近所の店も50%だから」は、根拠になりません
- 3名前は関係ありません。つまり、キャンセル料でも違約金でも、実質が同じなら同じ見方です。また、前金を「返金しません」と決める条項も同じです。最高裁平成18年11月27日の判決は、大学が授業料などを返さないと定めた特約を、この条文の対象として判断しています
さらに、同じ解説に、結婚式場の例が出ています。使う日の1年以上前に契約金額の80%を請求する条項は、通常は平均的な損害を超えると考えられるとされています。1年前の平均的な損害が、仮に5%なら、80%のうち75%の部分が無効で、請求できるのは5%分です。一方、式の前日に同じ80%を請求しても、通常は超えるとはいえないと考えられています。同じ割合でも、時期で答えが変わります。そのため、区分を時期で分ける理由は、ここにあります。
無断キャンセル料で揉めたときの流れ
揉めたときの流れも知っておきましょう。まず、平均的な損害を超えて無効だと主張する側が、基本的に立証する責任を負う、と最高裁は判断しています。ただ、2022年の改正で、9条2項ができました。違約金を請求するとき、お客様から説明を求められたら、算定の根拠の概要を説明するよう努めなければなりません。つまり、「概要」なので、考慮した費用の項目と、計算の流れが話せれば足ります。ただし、努力義務とはいえ、聞かれて答えられない店は、揉めます。
無断キャンセル料を仮の数字で区分表にする
ここからは、仮の数字で区分表を作ってみます。損害の中身は、何でしょうか。消費者庁の検討会資料には、考え方が整理されています。検討段階の整理で、条文ではありません。
- 契約のために通常支出する費用は、平均的な損害の範囲に入るのではないか
- 逸失利益(客を逃して失った利益)は、代わりの客を入れにくいときに含められるのではないか。履行日の直前なら、通常は代わりが見つかりにくい
また、裁判例も、逸失利益を損害に含める判断と、含めない判断に分かれています(消費者庁の裁判例リスト)。時期や契約の性質で変わるからです。
無断キャンセル料の仮の式
ここでは、説明用の仮の式を置きます。
- 損害は、使い回せない食材などの原価と、席が埋まらなかった分の利益の合計です
- 利益は、コース料金から、原価と、使わずに済む費用を引いた額です
まず、1人あたりの仮の数字は、料金5,000円、原価1,750円、使わずに済む費用(飲み物の仕入れや消耗品)250円です。つまり、利益は3,000円になります。
- 13日前まで:使い回せない原価は0円。席が埋まらない割合を仮に1割とすると、3,000円の1割で300円(約6%)。小さいので、無料にします
- 22日前から前日:使い回せない原価を3割として525円。席が埋まらない割合を5割として1,500円。合計2,025円(約40%)。区分は40%にします
- 3当日・連絡なし:席が埋まらない割合を7割とします。使い回せない原価は1,750円の7割で1,225円、失う利益は3,000円の7割で2,100円。合計3,325円(約67%)。区分は65%にします
8名の予約に当てはめると
たとえば、8名で40,000円の予約なら、前日の取消は16,000円、当日の無断キャンセル料は26,000円です。全額ではありません。ただし、この数字は、説明のための仮のものです。また、割合は、予約システムに記録が残れば、過去の実績から出せます。そのため、実績がない間は控えめに置いて、数か月ごとに見直します。
会社相手の無断キャンセル料は民法420条。決めた額が基本、ただし合意が前提
消費者契約法の「消費者」は個人です。ただし、事業として、または事業のために契約する場合の個人は、含まれません(2条1項)。会社はもちろん、個人事業主が仕事の会食で予約したときも、消費者契約法の対象外です。
まず、民法420条1項は、債務不履行の損害賠償の額を、あらかじめ決めておけると定めています。また、同条3項は、違約金を、賠償額の予定と推定します。つまり、予約の時点で条件を示して、合意を得ていれば、その額が請求の基本になります。ただし、会社相手でも、実際の損害とかけ離れて高い額は、あとで争いになる可能性があります。
しかし、実務で困るのは、見分けにくいことです。たとえば、個人名義の予約でも、お代は会社が持つ会食かもしれません。また、区分表を2種類作るのも手間です。そのため、迷ったら、全員に、個人向けの基準(自店の平均的な損害の範囲)で統一する方法があります。
さらに、会社に請求書を出すなら、PDFの扱いにも気をつけます。保存の注意は、こちらの記事にあります。
予約システムを入れる前に決める3つ
- 1時期ごとの区分:いつまで無料で、いつから何%か。当日・連絡なしは別の欄にします
- 2自店の数字による根拠:考慮した費用と、計算の流れを、紙1枚にしておきます。聞かれたら、そのまま見せられます
- 3予約時の伝え方と記録:次のチェックリストのとおりです
- 予約の画面で、区分表を、予約ボタンの前に表示する
- 予約確認のメールにも、同じ表を載せる
- 前日にリマインドを送る(変更と取消の方法も添える)
- キャンセルの日時、人数、金額、席が埋まったかを記録する
- 請求するときは、区分、金額、理由を文章で伝える
なお、消費者契約法3条1項1号は、事業者に、契約条項を、解釈に疑義が生じない明確で、消費者にとって平易なものにするよう配慮することを求めています(努力義務)。そのため、表は短く、1行で読める形にします。
別のサイトの「予約・請求・問い合わせをオンライン化する手順」では、予約をオンライン化する部分で、集める情報を氏名、連絡先、希望の日時などに絞ることと、利用目的を本人に伝えるか公表することが説明されています。予約画面にキャンセルの期限と変更の方法を分かりやすく示すことにも触れています。
出典:おまかせ係長「予約・請求・問い合わせをオンライン化する手順」
ただし、例外と、いま動いている話
- エステ、美容医療、語学教室、学習塾、家庭教師、パソコン教室、結婚相手の紹介は、特定継続的役務提供という類型です。期間と金額が政令の基準を超える契約は、特定商取引法49条で、中途解約と請求できる上限額が別に決まっています。1回ごとの予約のキャンセルとは別の話です。該当しうるサービスを出している場合は、予約システムの設定の前に確認します
- また、損害がなければ、請求できません。席が埋まったのに、決めた割合を機械的に請求するのは、避けたほうが安全です
- さらに、消費者庁の検討会は、2026年9月10日に中間取りまとめを公表しました。資料では、9条1項1号は見直さず、算定根拠などの説明に関する制度を広げる方向が示されています。ただし、法律はまだ変わっていません。根拠を紙に残しておくことは、この方向でも役に立ちます
今日からできる最初の一歩
直近3か月の、キャンセルと無断キャンセルを、一覧にします。列は5つです。
- 1予約が入った日
- 2来る予定だった日
- 3取消の連絡があった日(無断なら空欄)
- 4人数と金額
- 5席が埋まったか
5分で終わります。つまり、月に何件、いくらの穴があるのかが見えれば、予約システムを入れる理由も、キャンセル料の区分も、数字で話せます。
穴の数字が見えたら、次は、予約してくれたお客様の側です。無断で来なかった人より、予約どおり来てくれた人のほうが、ずっと多いはずです。その中から、また来てほしい1組を決めて、お礼の連絡を送ります。会いたい1人を決めて通う営業の型は、こちらの記事にあります。
名刺1000枚超で売上ほぼゼロだった私が、会いたい1人を決めて通う営業に変えた型
ほかのコラムも、あわせてどうぞ
お金の学び(ウハウハ高等学校):開業資金の公的な相談先・融資制度4つ|借りる前に窓口で聞けること
営業・販路のコラム:コミッターズ コラム
筆者の記事:川口忠大のnote
蓄電池を知る(ENERGY BANK):系統用蓄電池メーカー比較|法人が製品・導入支援・保守を同じ条件で見る方法
導入先を比べる:系統用蓄電池の低圧・高圧比較|法人が費用と接続条件で選ぶ方法
お金の面を読む:系統用蓄電池の充電コストを読む|調達契約と託送料金
情報サイトのトップ:ENERGY BANK(系統用蓄電池の情報サイト)
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):e-Gov法令検索、e-Gov法令検索(2)、e-Gov法令検索(3)、e-Gov法令検索(4)、消費者庁、消費者庁(2)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
会社の現場の工夫や取り組みは、みんなの企業新聞の記事「審査制の経営者マッチングサイトとは|会員の質を見極めるポイント」でも紹介しています。あわせてご覧ください。