決算まであと数か月。試算表を開くと、利益が思ったより出ています。「家賃を1年分まとめて払えば、今期の経費にできるらしい」。そんな話が頭をよぎって、検索したところでしょう。
短期前払費用という特例は、実際にあります。ただし国税庁の質疑応答事例には、「利益が出たから今期だけまとめて1年分支払うというような利益操作のための支出」は排除していく必要がある、と書かれています。使えるかどうかを分けるのは、金額の大きさではなく、「続けるかどうか」です。
この記事では、短期前払費用の条件と、仮の数字で見た効果を整理します。さらに、国税庁の例にあるOKとNG、そして2026年10月から変わった消費税の経過措置も確認します。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
短期前払費用、先に結論
- 原則:前払いしたお金は、払った時ではなく、サービスを受けた時の費用になります。
- 特例:払った日から1年以内にサービスを受ける分を前払いし、払った期の費用にする処理を毎期続けているなら、払った期の費用にできます(法人税基本通達2-2-14)。また、個人事業主にも、同じ考え方の取扱いがあります。
- ただし、「今期だけ」の駆け込みは、この特例の趣旨に合わないと、国税庁の質疑応答事例が書いています。
- つまり、費用が前倒しになるだけで、費用の総額が増えるわけではありません。「節税」というより「先送り」です。
国税庁の案内(令和8年4月1日現在の法令等)で確認しました。さらに、令和8年度の税制改正の大綱を見ても、前払費用の取扱いを変える項目は見当たりませんでした。動いたのは、消費税の経過措置のほうです(後半で触れます)。
短期前払費用を、仮の数字で見る
前提は、12月決算の会社です。事務所の家賃は月10万円、これまでは毎月その月の分を払っていました。数字は説明用の仮のものです。
- これまで:1月から12月の家賃で、費用は120万円
- 12月1日に、12月から翌年11月までの12か月分、120万円を一括で払う形に切り替える:切り替えた年の費用は、1月から11月の毎月払い110万円と、12月1日の120万円で、合計230万円
- 翌年以降:毎年12月1日に120万円を払い、費用は毎年120万円
費用が前倒しになるだけ
切り替えた年だけ、費用が110万円ふくらみます。でも、この110万円は消えたわけではありません。契約が終わる年や、払い方を元に戻す年に、費用が110万円分少なくなる形で戻ってきます。つまり、前倒しした分が、あとで少なくなる動きです。
法人税の側から見ると、切り替えた年は利益が110万円分小さくなり、その分の課税が先送りされます。ただ、税額がいくら変わるかは、会社の利益や税率によるので、ここでは数えません。
払う前の資金繰りの確認
もうひとつ、現金は先に出ていきます。12月に120万円が出ていく資金繰りで、年明けの支払いに困らないか。ここは、短期前払費用の特例を使う前に確認しておきたい点です。
払う前の確認は、次の4点です。
- 1契約書で、契約の期間と、途中でやめたときの返金の条件を見る
- 2払い方の変更について、大家さんや取引先の同意を取る
- 3来期以降も、同じ時期に同じ形で払い続けられるかを考える
- 4払ったあとの預金残高で、数か月の支払いが回るかを見る
短期前払費用のOKとNGの線引きは、この5つの条件
短期前払費用として払った期の費用にできる条件を、国税庁の案内から整理します。
- 1契約がある:家賃、保守料、サーバー代、顧問料など、一定の契約に基づいて、継続的にサービスを受けるもの
- 2実際に払っている:請求書が届いただけ、これから払う予定、では前払いになりません
- 3払った日から1年以内にサービスを受ける分だけ
- 4払った期の費用にする処理を、毎期続けている
- 5収益と対応させる必要のある費用ではない(たとえば、借入金を預金や有価証券で運用している場合の、その借入金の利息)
毎月末に、翌月分の家賃を払っている会社は、期末に払った1か月分で、実はこの特例のお世話になっている場合があります。国税庁の質疑応答事例も、毎月末に翌月分を払う例は問題ないとしています。
1年分を一度に払う場合の線
では、1年分を一度に払う場合は、どこで線が引かれるのでしょうか。国税庁の質疑応答事例は、3月決算の会社を例に、次のように答えています。
- OK:毎年3月末に、翌4月から翌年3月までの1年分の地代を前払いする
- NG:毎年2月に、4月から翌年3月までの1年分の家賃を前払いする(期間10年の建物賃借の例)
3月末に払うのはOKで、2月に払うのはNGです。分かれ目は、払った日から対象期間の終わりまでが、1年を超えるかどうかです。2月に払うと、対象期間の終わりの翌年3月末は、払った日から1年1か月以上先になります。国税庁は、このようにサービスを受け始める前に払い、払った時から1年を超える期間を対象にするものは、特例を認めない、と回答しています。
短期前払費用でNGになる目安
NGの目安を、もう少し並べます。
- 利益が出たから、今期だけまとめて1年分を払う(毎期続けない)
- 払った日から1年を超える分まで前払いする
- 借入金を運用しているときの、その借入金の利息
払う日は、対象期間の初日にできるだけ近づけましょう。これだけで、「1年以内かどうか」の数え方で迷いにくくなります。
ちなみに、国税庁の質疑応答事例の例は、どれもリース取引に当たらない賃貸借を前提にしています。したがって、リース契約をしている場合は、別の整理になることがあります。契約書を持って、税理士に聞いてください。
前払いと似て見える決算前の動き
前払いと似て見える決算前の動きは、ほかにもあります。ただし、ルールはそれぞれ別です。
まず、モノの購入(備品や商品)は、この特例ではなく別のルールです。決算前の備品の買い方は、こちらの記事にまとめています。
35万円のパソコン、買ったら全額経費?令和8年4月から変わった「40万円未満」のルール
つぎに、決算前に社長の給料を上げて利益を調整する話です。役員報酬には、期の途中で変える場合の別ルールがあります。くわしくは、こちらの記事にあります。
社長の給料、気分で上げると損をする。役員報酬は「年1回」のイベントです
短期前払費用でも、消費税は別のルールで動きます
ここは、消費税の課税事業者の会社の話です。免税事業者の会社は、読み飛ばして大丈夫です。
- まず、短期前払費用として払った期の費用にするなら、消費税でも、その前払いは「払った日の属する課税期間の課税仕入れ」として扱われます。
- 次に、仕入税額控除を受けるには、原則として、適格請求書(インボイス)の保存が必要です。
- 相手がインボイスの登録をしていない事業者(免税事業者など)の場合は、経過措置で、仕入税額相当額の一部だけ控除できます。この割合が、令和8年10月1日から令和10年9月30日までは70%です。令和8年9月30日までは80%でした。令和8年度の税制改正で見直された部分です。控除を受けるには、必要な記載のある請求書と帳簿の保存が要ります。
- また、短期前払費用の場合、この割合は、前払いを払った日で決まります。国税庁のインボイスの質疑応答は、令和8年1月に払った令和8年1年分の保守料について、全額に80%の割合を使ってよいとしています。
つまり、同じ1年分でも、払う時期がずれると、控除できる割合が変わることがあります。相手が登録しているかどうかは、請求書に登録番号が書かれているかが、ひとつの目安になります。払う前に、請求書を見ておきましょう。
短期前払費用を見直す、今日からの最初の一歩
まず、固定費の一覧を作ります。家賃、保守料、サーバー代、顧問料。毎月または毎年払っているものを書き出して、決算月、支払日、契約の期間、払い方を並べてください。顧問税理士に相談するときも、この一覧があれば話が早く進みます。
さらに、一覧の隣に、来期に売上が見込める取引先も書き出しておきましょう。固定費を前払いする余裕があるかどうかは、来期の売上がどのくらい見えているかで決まります。決算の数か月前は、経費を数える時期であると同時に、来期の売上の種を数える時期でもあります。
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参考(外部サイト):国税庁、国税庁(2)、国税庁(3)、国税庁(4)、国税庁(5)、国税庁(6)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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