12月決算の会社で、11月の試算表を見たら思ったより利益が出ています。社員にも還元したいし、どうせなら今期の経費にしたい。でも、手元の資金は1月の入金を待ちたいところです。決算賞与を考える社長が、毎年このあたりで手を止めます。
意外なのは、決算賞与は「払った日」でなくても今期の経費にできる、という点です。社員に金額を伝え、決算日の翌日から1か月以内に払い、今期の帳簿に経費として載せる。この3つがそろえば、12月31日の時点で1円も払っていなくても、12月決算の期の経費になります。逆に、1つでも欠けると、経費になるのは実際に払った翌期です。
この記事では、3つの要件を仮の日付で確かめ、うっかり要件を外す書き方、役員が対象にならない理由、11月から12月にやる段取りを2026年10月時点のルールで整理します。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論
未払の決算賞与を今期の経費にできるのは、次の3つを全部満たしたときです。国税庁のタックスアンサー(5350番、令和8年4月1日現在の法令等)と法人税法施行令72条の3に書かれています。
- 1支給額を、各人別に、同じ時期に賞与をもらう全員に通知していること
- 2通知した金額を、通知した全員に、決算日の翌日から1か月以内に払っていること
- 3通知した期に、その金額を経費(損金経理)として帳簿に載せていること
ポイントは、3つとも「今期の中」で終わる作業と、「翌期の1か月」で終わる作業に分かれていることです。通知と経費処理は決算日までに、支払いは翌月中に。どれか1つでも外れると、その賞与は「払った日の期」の経費に回ります。なくなるわけではなく、1期ずれるだけです。ただ、今期の利益を見て決めた賞与が翌期の経費になると、ねらいとは違う結果になります。
なお、ここでいう賞与は社員(使用人)向けのものです。社長や役員の賞与は別のルールで、あとで触れます。
仮の日付で判定する
たとえば、従業員5人の設備工事会社(12月決算、仮の例)で考えます。社長が12月20日に、社員5人それぞれの金額を書いた通知書を渡し、12月の帳簿に「賞与 未払金」として合計額を載せたとします。
- 12月20日:5人全員に、個人ごとの金額を書いた通知書を渡す
- 12月31日:決算。帳簿に未払の賞与として載っている
- 1月29日(金):5人全員の口座に、通知した金額を振り込む
この流れなら、3つともそろっています。決算日の翌日は2027年1月1日なので、1か月以内の期限は1月31日です。ただ、2027年1月31日は日曜日です。期限ぎりぎりの日付で振込を予約すると、銀行の営業日の都合で数え方に迷います。余裕をもって、1月の最終金曜日までに振り込む段取りにしておくと安心です。
次に、外れる例も並べます。
- 5人のうち1人にだけ通知を忘れた:「同時期に支給を受ける全員」への通知になっていないおそれ
- 通知書に金額がなく「業績に応じて支給」とだけ書いた:各人別の支給額の通知になっていない
- 振込が資金繰りの都合で2月10日になった:1か月以内の支払いになっていない
- 通知は12月にしたが、帳簿に載せたのは1月:通知した期に経費処理していない
どれも、うっかりでやりがちなものばかりです。とくに最後の例は、決算の締めを会計ソフトの担当者に任せていると起こりがちです。
いちばんの落とし穴は「支給日に在籍している人だけ」
賞与の規程に、よくこんな一文があります。「賞与は、支給日に在籍している者に支給する」。社員の引き留めとしてはわかる書き方ですが、未払の決算賞与ではこれが命取りになります。
国税庁のタックスアンサーでは、支給日に在職する使用人だけに支給する場合の通知は、ここでいう「通知」に当たらないとされています。12月に「あなたは○万円です」と伝えても、1月の支給日までに辞めたらもらえない約束なら、金額はまだ確定していない、という考え方です。
この場合、要件を満たさないので、経費になるのは払った翌期です。社員が1人も辞めずに全員に払えたとしても、通知の段階で条件が付いていれば同じ扱いになるおそれがあります。
決算賞与を今期の経費にしたいなら、次の点を確かめておきます。
- 就業規則や賃金規程に「支給日在籍」の条件がないか
- 通知書に「1月の支給日に在籍している場合に限る」などの条件を書いていないか
- 通知した後に辞めた人にも、通知した金額を払う段取りになっているか
ちなみに、パートやアルバイトを正社員と分けて扱っている会社なら、その区分ごとに「全員に通知したか」を見てよい、とタックスアンサーに書かれています。正社員だけに決算賞与を出すこと自体は問題になりません。
例外と注意:役員、手元資金、源泉徴収
ここからは、要件以外で引っかかりやすい点です。
まず、社長や役員への決算賞与は、この3要件の話ではありません。役員の賞与は、事前に税務署へ届け出た「事前確定届出給与」などに当たらなければ、原則として会社の経費になりません。利益が出たから年末に社長にも、という払い方は、経費にならないうえに社長の給与として所得税がかかります。役員報酬のルールは、こちらの記事にまとめています。
社長の給料、気分で上げると損をする。役員報酬は「年1回」のイベントです
ただし、部長などを兼ねる「使用人兼務役員」の、使用人としての仕事に対応する部分は、社員の賞与と同じ扱いになります。どこまでが使用人分かは判断が分かれるので、顧問税理士に確認してから金額を決めてください。
次に、手元資金です。未払で今期の経費にできても、1月には現金が出ていきます。1月は、源泉所得税の納期の特例を使っている会社なら半年分の納付も重なる月です。賞与の振込と納付の日付を、同じカレンダーに並べておくと慌てません。
最後に、源泉所得税と社会保険料です。どちらも、実際に賞与を払うときに計算して差し引きます。12月に通知した時点ではなく、1月の支給時の手続きになるので、給与計算の担当者には「1月支給の賞与がある」と早めに伝えておきます。
もう一つ。決算賞与は、利益を減らす目的だけで出すと、翌年以降も同じ水準を期待されて固定費のようになりがちです。売上が落ちた年に社長の給料を守る考え方は、こちらに書いています。
今日からできる最初の一歩
12月決算なら、決算まで残り2か月あまりです。11月の試算表が出たら、次の順で動くと間に合います。
- 1就業規則・賃金規程の賞与の条文を読み、「支給日在籍」の条件がないか確かめる
- 211月末の数字で今期の利益の見込みを出し、賞与の総額の上限を決める
- 312月中旬までに、社員1人ずつの金額を書いた通知書を作り、渡した日付の控えを残す
- 412月の帳簿に、未払の賞与として載せる(会計ソフトの担当者にも伝える)
- 51月の最終金曜日までに、通知した全員へ振り込む日を決めておく
通知書は、社員1人ずつに「今年の数字のどこがよかったか」を一言添えると、ただのお金の紙ではなくなります。たとえば営業の社員なら、決まった商談の件数や、新しく取引が始まった先の名前を書いておく。来期の営業の目標を話すきっかけにもなります。税金のための賞与で終わらせず、来年の売上の話につなげるのが、小さな会社らしい使い方です。
運営元:コミッターズ
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※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。