決算が近づくと、見積書を前に考えます。「この機械を買ったら、節税になるのかな」。ところが、100万円の機械を買っても、その年に経費になるのは20万円だけ、という場合があります。残りは来年以降です。
意外なのは、ここからです。経費になる金額の合計は、買う時期をずらしても変わりません。100万円を使えば、経費も100万円です。税金が減るのは、その経費に税率を掛けた分だけで、使ったお金より多く減ることはありません。
この記事では、仮の数字で、税金が「ずれるだけ」の場合と「本当に変わる」場合を分けます。2026年10月時点の、国税庁の案内と法人税の税率にもとづいています。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論
- 減価償却は、買ったお金を、使える期間にわたって少しずつ経費にする仕組みです。経費の合計は、買った金額と同じです。
- 経費にする時期がずれても、税率が同じなら、税金の合計は変わりません。変わるのは、税金を払う時期です。
- 税金の合計が変わるのは、期によって税率が違うときです。中小の法人税なら、年800万円の線を境に、15%から23.2%に上がります。
- 経費にしても、使ったお金は戻りません。減る税金は、使った額に税率を掛けた分までです。
- 売上の計上をずらす、使っていない設備を買う、といった方法は、ルールの外です。
国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在の法令等)で確認しました。令和8年度の税制改正では、少額の減価償却資産の基準が、30万円未満から40万円未満に上がっています。この点は、後半で触れます。
100万円の機械は、5年かけて経費になる
国税庁の案内には、減価償却資産の取得に要した金額は、取得した時に全額が必要経費になるのではなく、使える期間にわたって分割して必要経費にしていくもの、という趣旨が書かれています。使える期間にあたる法定耐用年数は、財務省令の別表で決まっています。法人の損金も、同じ考え方です。
仮の例です。資本金1,000万円、12月決算の会社で、この機械を除いた毎期の利益が500万円とします。年800万円以下なので、法人税率は15%です。機械は100万円、法定耐用年数は5年(仮)で、毎年同じ額ずつ経費にします。端数は無視します。
- 機械を買わない場合:500万円 × 15% = 法人税75万円
- 機械を買った場合(毎年):(500万円 − 20万円)× 15% = 72万円
- 1年あたりの差:3万円
- 5年の合計:経費は100万円、法人税の減りは15万円
100万円を出して、5年で法人税が15万円減ります。差し引くと、会社のお金は85万円減る計算です。実際には、法人税のほかに住民税や事業税もかかるので、減る税金はこれより大きくなります。それでも、使ったお金を超えて税金が減ることはありません。
税金が減ることと、お金が増えることは別の話です。機械を買うかどうかは、税金より、売上や手間が変わるかどうかで決めるほうが安全です。
「ずれるだけ」の場合を、数えてみる
通常は分割になる資産でも、買った年に全額を経費にできる例外があります。青色申告の中小企業者等が、取得価額40万円未満の資産を事業に使い始めた場合に、年間の合計300万円まで、その年に全額を損金にできる特例です。令和11年3月31日までに取得したものが対象です。令和8年4月1日以後に取得したものから、基準が30万円未満から40万円未満に上がりました。使い方は、こちらの記事にあります。
35万円のパソコン、買ったら全額経費?令和8年4月から変わった「40万円未満」のルール
仮の例です。40万円の備品を買い、通常なら4年(仮)で毎年10万円ずつ経費にする資産だとします。法人税率は、これまでと同じ15%です。
- 特例で全額:買った期に40万円 × 15% = 6万円減り、翌期以降は0円
- 4年で均等:10万円 × 15% = 1.5万円を4年続けて、合計6万円
合計は、どちらも6万円です。違うのは、早く減るか、ゆっくり減るかだけです。
早く減ると、納める税金が先に小さくなり、そのぶん手元のお金を使える期間が少し長くなります。これが「先送り」の値打ちです。ただし、あとの期に利益が増えれば、その期の税金は、先送りした分だけ大きくなります。
経営セーフティ共済も、「ずれる」型に近い制度です。中小機構の案内では、掛金は損金または必要経費にできます。一方で、解約すると、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上が、40か月以上なら全額が戻ります。経費にできる分と、戻る分の両方があるので、解約したときの扱いまで見て判断します。仕組みは、こちらの記事にあります。
倒産防止共済は「経費になる貯金箱」。ただし「ただの先送り」でもあります
税金が「本当に変わる」のは、この3つ
ずれるだけではなく、税金の合計が変わる場面もあります。国税庁と中小機構の案内から、3つ挙げます。
- 1期によって税率が違う:利益が片寄ると、高いほうの税率に当たる部分が出ます
- 2赤字の期がある:青色申告なら、赤字を将来の黒字から引けます
- 3払うときと受け取るときで、課税の扱いが違う制度がある
1つ目の税率の話から、仮の数字で見ます。法人税の税率は、資本金1億円以下の会社(一定の大法人の完全子会社などを除きます)の場合、所得の中で年800万円以下の部分が15%、800万円を超える部分が23.2%です。令和7年4月1日以後に開始する事業年度の税率で、国税庁の税率表で確認しました。事業年度が1年の会社の場合です。
仮の会社の2期分の利益が、合計1,600万円だとします。
- 1期目400万円、2期目1,200万円の場合:1期目は400万円 × 15% = 60万円。2期目は800万円 × 15% + 400万円 × 23.2% = 120万円 + 92.8万円 = 212.8万円。2期の合計は272.8万円
- 1期目800万円、2期目800万円の場合:毎期800万円 × 15% = 120万円で、2期の合計は240万円
- 差:32.8万円
同じ合計1,600万円でも、利益が片寄ると、23.2%の部分が出てきます。経費にする時期を、利益の大きい期のほうに寄せられるなら、高い税率に当たる利益を減らせる場合があります。ただし、来期の利益は読めません。この計算は法人税だけで、事業税や住民税、役員報酬、社会保険の動きは含みません。個人事業主の所得税も、5%から45%の7段階(分離課税などを除く)で、所得が増えるほど税率が上がります。
2つ目は、赤字の期です。赤字の期に経費を積んでも、消えるわけではありません。国税庁の案内では、青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金は、10年間繰り越して、あとの期の所得から引けます(平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じたものです)。国税庁の例では、繰越欠損金が150万円で、その期の所得が100万円なら、100万円を引いて所得は0円になります。引ききれない分は、期間内であとの期に回ります。条件は、欠損金が生じた期に青色申告書で確定申告をしていることと、その後も連続して確定申告をしていることです。赤字の経費も、将来の黒字を軽くする形で、先送りになります。
3つ目は、払うときと受け取るときで、課税の扱いが違う制度です。たとえば、小規模企業共済は、中小機構の案内では、掛金が全額、所得控除の対象です。共済金は、一括で受け取れば退職所得扱い、分割なら公的年金等の雑所得扱いになります。どれだけ有利になるかは、受け取る金額や、そのときの他の所得で変わるので、ここでは数えません。仕組みは、こちらの記事にあります。
社長の退職金は自分で作る。小規模企業共済は「全額所得控除」で、受け取るときも優遇される
OKとNGの線引き
経費にする時期を選ぶ話は、グレーに見えやすい分野です。線引きを並べます。
- OK:決められた方法で、経費にする時期を選ぶ(償却の方法の届出や、少額の特例の明細書の添付など、手続を踏みます)
- OK:買う予定だった設備の、買う時期や使い始める時期を、決算の前後で比べる
- NG:決算日までに事業に使い始めていない設備を、買っただけで経費にする(特例は、事業に使い始めた事業年度が条件です)
- NG:売上を、利益の調整のために翌期にずらす
- NG:実際には発生していない経費を、帳簿に載せる
売上の話は、法律に書かれています。法人税法22条の2は、商品を売ったりサービスを提供したりした収益の額を、原則として、引き渡した日や、サービスを提供した日の属する事業年度の益金にする、と定めています。請求書の日付を遅らせても、引き渡した日は動きません。実際の売上の日と、帳簿の日がずれていれば、あとで説明が苦しくなります。
どこまでが選べる範囲かは、会社の契約や設備ごとに違います。迷ったら、買う前に、顧問税理士に聞くのが近道です。
今日からできる最初の一歩
まず、今期と来期の利益の見込みを、ざっくり2行で書いてください。年800万円の線の、どちら側にいそうか。それだけで、経費にする時期を考える材料になります。
次に、買う予定の設備や備品があれば、「いつから事業に使い始めるか」と「毎年の経費がいくらか」を、その隣に書きます。
営業の目線で、もうひとつだけ。100万円の機械の隣に、100万円の販路づくりを並べてみましょう。見込み客に会う回数、サンプルの数、提案資料の数。来期の売上につながる支出は、税金が減る額とは別のものさしで測れます。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):国税庁、国税庁(2)、国税庁(3)、国税庁(4)、国税庁(5)、e-Gov法令検索
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。