「代理店が代理店を連れてきてくれたら、連れてきた側にも報酬を払いたい」。売り先を増やしたい社長が、募集の仕組みを考えているうちに、たどり着く発想です。そして、ここで誰かに「それ、マルチ商法じゃないの?」と言われて、手が止まります。
実は、代理店の下に代理店を置く「2段階報酬」そのものが、違法と決まっているわけではありません。分かれ道は、報酬が何段階かではなく、代理店になる側がお金を払うかどうかです。お金の負担が加わると、特定商取引法の「連鎖販売取引」に当たる可能性が出てきます。
この記事では、2026年10月時点の特定商取引法を、国の法令データベースと消費者庁の公開情報で確認して、仮の3パターンに当てはめます。あわせて、代理店に任せた宣伝文句の責任も整理します。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:分かれ道は「お金の負担」
答えは、「2段階にしただけでは、違法とは言えない。代理店になる側にお金の負担があると、連鎖販売取引に当たる可能性が高まる」です。
連鎖販売取引は、商品やサービスを売る組織で、仲間を増やしながら広げていく取引のうち、一定の条件がそろったものです。条件は次のとおりです。
- 物品の販売や、有償のサービスの提供の事業であること
- 商品を再販売する人、販売の委託を受ける人、販売を仲立ちする人を、仲間に入れること
- 「仲間を増やすと利益が得られる」と示して誘うこと(特定利益)
- 仲間に入る人に、お金の負担があること(特定負担)
代理店は、消費者庁の解釈では「受託販売」や「販売のあっせん」をする人にあたります。取次ぎや代理といった形式は問われません。友人や知人を販売業者に紹介するだけの人も、「あっせん」をする人です。
特定負担は、商品の購入、サービスの対価の支払い、取引料の提供です。入会金、登録料、保証金、研修参加費、スターターキットの購入などが、名前を問わず含まれます。消費者庁のガイドは「1円以上」の負担も該当する、と説明しています。
つまり、代理店になる人にお金の負担が1円もなければ、連鎖販売取引の条件のひとつを欠きます。ただし、これは実態で判断されます。契約書に「負担なし」と書くだけでは足りません。
仮の3パターンに当てはめる
数字はすべて説明用の仮のものです。
パターン1:1段階だけ。代理店は、自分が成約させたお客様の分だけ手数料をもらう。代理店になる費用は0円。別の代理店を紹介しても、上乗せの報酬はなし。
- 仲間を増やして得る利益は、ありません
- お金の負担も、ありません
- 連鎖販売取引の条件はそろいません
パターン2:2段階だが、お金の負担はなし。ある代理店が別の代理店を紹介すると、紹介された代理店の成約分の5%を、本部が紹介した側にも払う。登録料、仕入れ、研修費はすべて0円。
- 紹介すると利益が出る仕組みです
- ただし、紹介された側にお金の負担がありません
- 特定負担がないので、連鎖販売取引の条件はそろいません
- とはいえ、他のルールまで安全とは言えません(後半で触れます)
パターン3:2段階で、お金の負担あり。代理店になる人は、登録料5万円と、スターターキット10万円の購入が必要。紹介すると、紹介料が入る。
- 紹介すると利益が出る仕組みです
- 登録料とキットの購入は、特定負担です
- 連鎖販売取引に当たる可能性が高い設計です
該当すると、勧誘の前に会社名や勧誘の目的を告げること、契約前後の書面の交付、広告への表示、不実のことを告げる行為の禁止など、さまざまな義務がかかります。違反があれば、最長2年の業務停止命令を受けることがあり、命令は公表されます。不実のことを告げて勧誘する行為には、3年以下の拘禁刑(懲役と禁錮を一本にした刑です)、300万円以下の罰金、またはその両方という罰則も定められています(特定商取引法第34条、第39条、第70条)。
契約の型そのものの見分け方は、こちらの記事にあります。
「代理店契約」のはずが、中身は「販売店」だった?契約の3つの型と、決めておくこと
例外・注意:見落としやすい落とし穴
パターン2で安心するのは、まだ早いです。次の点を確認しましょう。
- 実質的な購入:契約書に「負担は一切ありません」と書いても、「自分で使ってみないと勧められないよ」と購入を促していれば、その購入代金も特定負担になります(消費者庁の解釈)
- あとから出てくる負担:入会のときは0円でも、商売を始めるために別途の購入が前提なら、その負担が特定負担になります
- 昇格の条件:上のランクに上がるときに、商品の購入やお金の支払いが求められるなら、その昇格の契約も連鎖販売取引になります
- 仕組みの中身:あとから入る人が出したお金を、先に入った人へ配当する仕組みは「無限連鎖講」です。開設も運営も、加入も勧誘も、法律で禁止されています(無限連鎖講の防止に関する法律第3条)
また、「守られる人」の範囲にも注意が必要です。書面の交付、クーリング・オフ(20日以内)、不実告知の禁止は、店舗を持たずに営業する個人が相手の場合に限られています。法人や、店舗で営業する個人は、商取引に慣れているものと推定されて、対象から外れています。
ただし、副業で代理店になる個人は、多くが「店舗を持たない個人」にあたります。しかも、飲食店の店主でも、その店で扱わない商品を自分で売り歩くなら、店舗によらない個人として扱われます。
広告のルールは、さらに広く、相手が法人でもかかります。募集の広告には、商品の種類、かかるお金(特定負担)、特定利益の計算方法などを表示する決まりがあります(第35条)。著しく事実と違う表示や、実際より著しく優良・有利だと思わせる表示は禁止です(第36条)。「登録すれば誰でも月収100万円」のような文は、書かないでおきましょう。
ほかにも、「その商品を使う仕事で収入が得られる」と誘って、お金の負担を伴う取引をさせる「業務提供誘引販売取引」という別の類型があります。いずれも、お金の負担が分かれ道になる点は同じです。
契約前に確かめる項目として、人を勧誘して販売組織を広げる形になっていないか、商品の購入や登録料などの負担を求められていないかを挙げた記事に、「代理店・フランチャイズ契約前の確認項目(手数料・期間・解約)」があります。連鎖販売取引と業務提供誘引販売取引について、店舗を持たない個人に認められる20日以内のクーリング・オフにも触れています。
出典:代理店ってなんぼのもん?「代理店・フランチャイズ契約前の確認項目(手数料・期間・解約)」
代理店に任せた宣伝文句も、責任は残る
報酬の形が決まると、次は代理店が出す宣伝です。一般のお客様に向けた表示には、景品表示法がかかります。
消費者庁の説明では、不当な表示について、その内容の決定に関与した事業者が規制の対象になります。他の事業者の説明に基づいて内容を決めた場合や、決定を他の事業者に任せた場合も、関与したことになります。広告主が決定に関与していれば、アフィリエイターに表示内容の決定を任せている場合も含めて、広告主が行った表示とされます。
つまり、「宣伝は代理店に任せているので、うちは知りません」は、通りにくい場合があります。
いっぽう、代理店が商品のURLを貼るだけで、商品の詳しい表示をしない場合は、通常、不当な表示は生じないと考えられています。供給元と代理店のあいだで、表示に関する情報のやり取りが一切ない場合も、通常、供給元が決定に関与したとはされません。どちらも実態で判断されます。
なお、消費者庁の資料には、広告主と共同で商品を供給していると認められる事業者には、その事業者にも問題が生じる可能性がある、という説明もあります(アフィリエイトの場合の説明です)。
また、供給元が頼んだSNS投稿が、広告だと分からない形になっていると、ステルスマーケティング規制の対象です。規制の対象は、商品を供給する事業者(広告主)です。
実務では、次の3つが現実的です。
- 1使ってよい表現と、使ってはいけない表現を、1枚にして渡す
- 2代理店が自作したチラシやページは、公開の前に見せてもらう
- 3SNSの投稿は、広告だと分かる書き方にしてもらう
今日からできる最初の一歩
2段階報酬を考える前に、まず1段階がちゃんと回っているかを見てください。副業の営業マンを約300人集めたことがありますが、実際に動いたのは約10人でした。人数を増やす仕組みに凝る前に、動いてくれる1人を増やすほうが先でした。
今日やることは、2つです。
- 1手元の報酬表を1枚に書き出す
- 2「紹介の上乗せはあるか」「代理店になる側が払うお金は0円か」の2点に、はい・いいえをつける
報酬表が1枚に収まらなければ、それは仕組みが複雑すぎるサインです。代理店のほうも、読む前にあきらめます。成果の定義や支払いの条件を文字にする方法は、こちらの記事にあります。
個人の営業パートナーに頼む前に。成果の定義を文字にする保存版チェック
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):e-Gov法令検索、消費者庁、消費者庁(2)、e-Gov法令検索(2)、消費者庁(3)、消費者庁(4)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。