代理店が3社に増えました。すると、ある日こんな電話がかかってきます。「うちのエリアのお客様に、隣の県の代理店さんが営業に来ているんですけど」。社長は思います。代理店ごとに担当エリアを決めて、「エリアの外では売らないでください」と契約書に書けば、全部まるく収まるのでは、と。
実は、担当エリアを決めること自体は、通常は問題になりません。ただ、「エリアの外では売るな」まで縛ると、独占禁止法の「拘束条件付取引」に当たる場合があります。分かれ目は、売る会社の市場での強さと、その制限で商品の値段が下がりにくくなるかどうかです。そして意外なことに、「エリア外のお客様から注文が来ても断って」という縛りは、会社の大きさに関係なく注意が要ります。
この記事では、公正取引委員会の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(最新の改正は令和8年7月8日)にもとづいて、代理店の地域の決め方を4つの型と仮の3パターンで整理します。2026年10月時点の一般的な話です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:「ここを頑張って」はよい、「よそで売るな」は条件しだい
指針は、販売地域の決め方を4つの型に分けています。
- 1責任地域制:一定の地域を主な責任地域として、その地域で積極的に売ることを求める。
- 2販売拠点制:店や営業所を置く場所を、地域の中に限ったり、指定したりする。
- 3厳格な地域制限:地域を割り当てて、地域の外で売ることを制限する。
- 4地域外顧客への受動的販売の制限:地域の外のお客様から「売ってほしい」と求められても、売らないように制限する。
答えを先に並べます。
- 1と2は、3や4に当たらない限り、通常は違法になりません。
- 3は、市場で有力な事業者が行い、価格維持効果が生じる場合に違法となります。
- 4は、指針の書き方に「有力な事業者」という条件がありません。価格維持効果が生じる場合には違法となります。
小さな会社にとって現実的なのは、まず1の「責任地域制」で組むことです。
「有力な事業者」と「価格維持効果」とは何か
指針では、市場での有力な事業者かどうかの一応の目安を、その市場でのシェアが20%を超えることとしています。シェア20%以下の事業者や新しく参入した事業者が、有力な事業者であることが条件になっている制限をしても、通常は公正な競争を妨げるおそれはなく、違法とはならないと書かれています。
価格維持効果は、少しわかりにくい言葉です。かみくだくと、代理店どうしの競争がなくなって、代理店が値段をある程度自由に決められ、値段が下がりにくくなる状態のことです。指針は、市場が少数の会社に占められている場合や、ブランドごとの違いが大きく、ブランドどうしの競争が働きにくい場合に起きやすいとしています。
実際の相談事例もあります。公正取引委員会が公表した平成25年度の相談事例では、市場シェア約20%で業界2位の健康食品メーカーが、代理店ごとに担当地域を決めて地域外での販売を禁止したいと相談しました。回答は「独占禁止法上問題となるものではない」というものでした。理由は、シェア1位や3位の有力な競争相手がいて、製品の違いが小さく、ブランドどうしの値段の競争が活発で、値段が維持されるおそれがないからです。
つまり、エリアを縛れるかどうかは、自社の商品が市場でどれだけ強いかを、きちんと見てから決める話です。
仮の3パターンで判定してみます
従業員6人の、店舗向けの業務用浄水器を作る会社(仮)を例にします。全国に同じような商品を売る会社が多数あり、この会社の市場シェアはごくわずかだとします。代理店は3社です。
- 1パターン1:契約書に「1社目は九州を主な責任地域とし、九州のお客様への営業に力を入れる」と書いた。九州の外で売ることは禁止していない。
判定:責任地域制です。地域外の販売を縛っていないので、通常は問題になりません。
- 1パターン2:契約書に「各社は、割り当てた県の外のお客様に営業をしてはならない」と書いた。
判定:厳格な地域制限です。ただ、この会社は有力な事業者の目安に遠く及ばず、競争相手も多いので、通常は違法にはならないと考えられます。ただし、シェアが大きくなったり、特殊な商品で競争相手が少なかったりすると、話が変わります。
- 1パターン3:さらに「ネットで注文を受けて、配送先が担当県の外だとわかったら、取引をやめること」と書いた。
判定:指針は、ネット販売で配送先が地域外と判明したお客様との取引を止めさせることを、受動的販売の制限の例として挙げています。価格維持効果が生じる場合には違法となるので、パターン2より注意が要ります。
パターン3のような縛りを入れたい理由は、たいてい「代理店どうしのけんかを止めたい」です。それなら、断らせるのではなく、パターン1の書き方にして、エリアごとの担当と連絡のルールを決めておくほうが安全側です。
ただし、ここは例外と別の論点です
- 新商品のテスト販売や、地域のお土産品の販売のために販売地域を限る場合は、指針で通常は違法とならないとされています。
- ネットで、担当地域や担当のお客様に向けて積極的に営業するよう求めることも、通常は違法とならないとされています。
- 「そのエリアにはほかの代理店を置かない」と、売る会社が自分の代理店の数を絞る約束は、代理店の売り方を縛る話とは向きが違います。ただし、その見返りに「競合する商品は扱わないで」と求めると、指針の別の項目(競争者との取引等の制限)の論点になります。
- 指針は主に、商品を買って売る流通業者との取引を想定しています。手元の契約が、商品を仕入れて売る「販売店」型なのか、代わりに売る「代理店」型なのかで、確認すべき点が少し変わります。
契約の型の違いは、こちらの記事にまとめています。
「代理店契約」のはずが、中身は「販売店」だった?契約の3つの型と、決めておくこと
今日からできる最初の一歩:契約書の「地域」の条文を1行ずつ読む
年明けに代理店網を組み直す予定があるなら、年内に、今の契約書の地域に関する条文を確認しておきます。
- 1「力を入れる地域」を決めているだけか、「地域の外で売ること」を禁止しているか。
- 2地域の外のお客様からの注文を断らせる書き方になっていないか。ネット注文も含めて読む。
- 3自社の商品は、その市場でどのくらいのシェアがあるか。競争相手は何社くらいいるか。
- 4代理店どうしがぶつかったときの連絡のルール(誰に、いつ、どう知らせるか)があるか。
エリア分けの目的は、本当は「縛ること」ではなく、「空白の地域をなくすこと」のはずです。代理店が1社もいない県を地図に塗ってみると、次に探すべき代理店の場所が見えてきます。
代理店コーナーの記事全体の地図は、こちらにあります。
「代理店コーナー」の歩き方。代理店ビジネスがいい商いである理由と、始める前に決めておくこと
個別の契約が独占禁止法上どう判断されるかは、市場の状況や制限の中身で変わります。迷ったら、公正取引委員会の相談窓口や、独占禁止法にくわしい弁護士に、契約書の案を見せて相談してください。
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):公正取引委員会、公正取引委員会(2)、公正取引委員会(3)、公正取引委員会(4)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。